小関順二氏が次のように述べています。
プロ野球偏愛月報>「特待生問題」の落としどころ。
(Number Web 2007年5月16日)
高野連(高等学校野球連盟)のように高校野球を教育の一環ととらえれば特待生はとんでもないということになるが、野球を世界に誇るスポーツ文化と位置づけ、その強化が国民に喜びを与えると考える僕のような人間にとっては、技量のすぐれた高校球児を特待生として遇するのは当たり前ということになる。
野球は「世界に誇るスポーツ文化」だと言われると、私はちょっと引いてしまいます。私は「セットポジション」の「来訪者要件」で、「野球は文化だと思っている人」を掲げてきました。その私でさえ引いてしまうのです。
「その強化が国民に喜びを与える」とまで言われると、後ずさりしたくなります。せいぜい「ファンに喜びを与える」程度でしょう。私も「国民」を使っていないか、「セットポジション」をサイト内検索してみました。6件ありましたが、すべて引用や固有名詞でした。ひと安心です。
小関氏は続けます。
同
高野連もつらい立場に立たされているが、ここは頭を柔軟にして考えてほしい。1校10人に特待生を制限すれば違反も摘発しやすい。しかし、特待生を認めなければグレーゾーンが新たな問題として浮上してくる。つまり「学業などで特待生の待遇を得ているから問題ない」と主張する選手が蔓延してくるはずである。そういうあやふやなゾーンを払拭する意味でも、高野連には人数を制限した上での特待生を認めてほしいと思う。
表題からすれば、これが小関氏のおっしゃる「落としどころ」なのでしょう。これは100%あり得ません。断言できます。グレーゾーンがあるのなら、人数を制限したところで、摘発は容易ではありません。
人数を制限すれば、グレーゾーンは払拭できるのでしょうか? ほとんど何も考えていないに等しいようです。高野連様は「野球部員であることを理由とした特待生」を認めないと言ってきたわけですから、たとえ1校1人でもこれを認めるはずがありません。結局、アマをドラフトの道具にしか思っていない方なのでしょう。
一方、次のような意見もあります。
野球特待生問題、高野連を責めるのは簡単だが…
(稲見純也の週刊Bylining Sports 2007/05/21)
第13条(と第19条)を改定して特待制度や奨学金を認めた上で、その額に「他の競技と比べても常識的な」上限を一律に設定し、連盟側が責任持ってその上限が遵守されているか監視すべきである。
人数の上限を定めるより、金額の上限を定めるほうが現実的です。これなら、高野連様の顔を立てることができます。一般常識として許容される金額で線を引くのは「落としどころ」になり得ます。
高野連様はすでに憲章の「解釈改憲」を示唆しています。金額で線を引き、この程度なら、「野球部員であることを理由とした特待生」には該当しないと解釈変更するだけで済みます。ただ、学費は学校によって異なります。一律に金額で線を引こうとすると折り合いがつかないかもしれません。
授業料や入学金といった一般生徒が負担する性質のものを減免しても「野球部員であることを理由とする特待生」とはみなさない、と解釈変更することのほうがより現実的な気がします。寮費、遠征費、用具代などは一般生徒は負担しませんから、これらの減免や補填をNGとする考え方です。
どのみち高野連様単独では学生野球憲章を変えることはできません。とりあえず、あと1カ月少々の時間的制約のなかで、私学部会がまとめられるのは、この程度の内容にしかなりません。
当座は「解釈改憲」でしのぐしかないわけですが、最終的には「改憲」の必要があることは言うまでもありません。主にサッカーを担当していた元NHKアナウンサーの山本浩氏は次のように述べています。
時論公論 「野球特待生制度を救うもの」
(NHK解説委員室ブログ 07/05/08)
プロ野球界には、これまでも登録をしたスカウトしか交渉に行けないというスカウト登録制度があります。このスカウトは自分の球団のために働く存在ですが、それを全日本野球会議が認定する資格制度にするのです。「移籍認定者」とでもいったらいいのでしょうか。この資格を持つ人物を全ての組織が受け入れる。移籍認定者が介在しない移籍や登録は、どこの組織も認めない。そうした制度を検討することはできないのでしょうか。
山本氏の“ボリューム感にあふれた”主張こそ理想なのです。どうせ今の各団体の規定でも二重登録はできません。少年野球からプロ野球まですべての野球選手・指導者らが全日本野球会議に登録し、全日本野球会議が各団体に応じた指導者資格、審判資格、記録員資格、ゼネラルマネージャー資格、スカウト資格、トレーナー資格などのライセンスを発行するというシステムに移行しなければなりません。
つまり、短期的には特待生問題の後始末が急務ですが、中期的には学生野球憲章の見直しが必要であり、長期的には組織の統一が求められています。全日本野球会議にはまだ実質的な権限はありません。
本来なら、あと2つ3つぐらい“爆弾”が炸裂しないと、統一組織の話までいかないのでしょうが、せっかく高野連様が“自爆”してくださったのですから、これを憲章の見直しで止めてしまったのでは高野連様に申し訳が立ちません。
なお、このブログで扱うのは憲章までですので、念のため。ちなみに、「ボリューム感」とは小関氏が選手評でよく使う言葉です。何を意味するのか私は知りません。