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デザインクラス通信2 「観る力」

2011-10-17 19:35:25 | デザインクラス

「デッサン」という言葉を知っていますか?
簡単に言うと、モノトーンでモチーフの形や明暗を捉えた絵のことです。

ここまでは知っている人もいるかもしれません。

では、
デッサンって何語か知ってますか?

英語じゃありません。フランス語です。
”dessin”と書くそうです。
ちなみに”dessign ”(デザイン、こちらは英語ですが)と語源が同じで、“計画を記号に表す”という意味のラテン語designareからきているそうです。

今回は、10月の課題になっているデッサンについて話をしようと思います。

僕たちは寝る時と顔を洗う時以外、だいたい目を開けて生活しています。開いた目からは光が入り、それが信号として脳に届き、映像を映します。そうやって、毎日毎日様々な物を見るし、決まって繰り返し見る物もあります。

例えば、デッサンの定番のモチーフのひとつに林檎があります。
見たことのない人はいませんよね。誰もが知ってるあの赤い果物です。

ではここで、その林檎を、見ないで、思い出してデッサンするとします。どれでけ正確に描けるでしょうか。
林檎の丸みってどんな感じ?へたの形は?色の濃いところ、薄いところはどこ?

知っている物でも、いざ正確に描くとなるとそんなに簡単な話ではありません。見慣れているはずなのにと思うかもしれませんし、見ないで描くなんて無理だよっていう意見もあると思います。

でも、それが答えなんです。

物は観ないと描けません。それも、普段と同じように見ていては描けません。穴があくほど、近くから、遠くから、上から、下から、目を細めて、あらゆる手段で観察を行うことが何より重要です。デッサンで鍛えるのは、鉛筆の動かし方や形の描き方ではなく、その「観る力」なのです。
(「観る」は、見るではなく、観るという字です。)

この「観る力」をつける一番のコツは、見慣れない、ということです。「見たことあるよ」、「だいたいこんな感じでしょ」、という見方をしているうちは上達しません。

Img_9443林檎は自然物ですので、一つとして同じ形や色の物はありません。
まだ絵の勉強をし始めた頃の僕に、ある講師の方がこう教えてくれました。
「この林檎は今しか描けない林檎だ。モチーフはいつだって一期一会なんだよ。」
この一期一会という響きに、当時の僕はえらく感動しました。

デッサンは目のトレーニングです。
それは、細かい物を見るということだけではなく、様々な視点から多様な観察ができる力をつけるトレーニングです。
そこで養った目は、デザインや、その他全てのクリエイティブに活きてきます。例えコンピューターがいかに進化したって、それを操るデザイナーが独自の視点をもたなければ良いデザインは生まれません。そういう意味で「観る力」は、どんな分野であろうと物作りの基本だと言えるでしょう。

そして何より、デッサンで鍛えた目でもう一度見慣れた世界を見直すとき、今まで見てきた世界に急に色がついたような、そんな気分が味わえる。それは、絵を描く人の持つ特権のうちの一つなのかもしれません。