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時は金なり。金は時買えぬ。「一寸光陰一寸金、寸金難買寸光陰。」

『弟子規』日本語解説(59)

2018年10月03日 | 『弟子規』日本語解説
若衣服 若飲食 不如人 勿生慼
ruò yī fú ruò yǐn shí bù rú rén wù shēng qī
【解説】如果穿的、吃的,這些物質方面不如人家,也不要因此而憂慮、愁傷。人最重要的是品德修養的提升。
【和訳】人として大切なのは徳(とく)と修養(しゅうよう)の深さなので、自分の衣服や飲食などの物質的なものが人に及ばなくても、憂い(うれ)悲(かな)しんだりする必要はありません。



●簡単解説:
★孔子は『論語』のなかで、「士志於道。而恥悪衣悪食者。未足与議也。」(士、道(みち)に志(こころざ)して、悪(あく)衣(い)悪食(あくしょく)を恥(は)ずる者(もの)は、未(いま)だ与(とも)に議(はか)るに足(た)らざるなり。)と教えてくださいました。「士」は聖賢に志す読書人のことです。すなわち、「いやしくも聖賢になることを志すものが、まだ粗衣粗食(そいそしょく)を恥じるようでは、とても話し相手とするに足りない」ということです。

明末の隠士、洪応明(こうおうめい)も著書の『菜根譚(さいこんたん)』のなかでいろいろな深い人生の哲理を説かれていました。中の「人知名位為楽、不知無名無位之楽為最真。人知飢寒為憂、不知不飢不寒之憂為更甚」(人は名(めい)位(い)の楽(たの)しみたるを知(し)りて、名(な)なく位(くらい)なきの楽しみの最(もつと)も真(しん)たるを知(し)らず。人は飢(き)寒(かん)の憂(うれ)いたるを知りて、飢えず寒(こご)えざるの憂(うれ)いの更(さら)に甚(はなはだ)しきを知らず。)という名言が説かれているように、人は皆、名誉や富を得ることが楽しいことであると知っていますが、じつは、名誉もなく富もない楽しさのほうがこそ真の楽しさであることに気が付かないのです。なぜならば、その本当の喜びを得た人の心のなかに、なにも気がかりなことはなく、憂いも悩みもなく、プレッシャーもありません。そのような心の安らかな喜びは、決して、名利を追い求める人が味わえないものです。

名誉と富貴を得た人の楽しみは外から得たある種の刺激であって、欲望が満たされれば、楽しく感じますが、その楽しみは短く、儚いものです。まるで、人が覚せい剤に溺れていて、その一時のいわゆる「快楽」のために、後に長い堕落と苦しみが待っているようなものです。実は名誉、地位と富もそれと似たようなもので、失った時の苦しみはとても大きいです。

ゆえに、本当の智慧のある方は、世間の名誉、地位や富を決して執着せず、気にも留めず、あってもなくてもよいものなのだと考えていて、「道」のためならば、そのすべてを捨てられます。

同じように、人は皆、衣食住もままならず、飢えや寒さに凌(しの)ぐことが憂いごとであると分かっていますが、じつは、衣食住が満ち足りているほうが、もっと大きな憂いであると知らないのです。なぜなら、暖衣飽食の安逸は、しばしば人心を麻酔させ、惰弱(だじゃく)、怠惰(たいだ)にし、聖賢になる大切な志を失わせて、物欲・色欲・道楽などの幻と退廃(たいはい)に身を沈淪(ちんりん)させてしまいます。

ゆえに、孟子は「生於憂患、死於安楽」(憂患(ゆうかん)に生き、安楽に死す)と仰いました。ここの憂患と安楽は共に物質的な生活レベルを指しています。安楽、安逸の中で生活していくと、人がだんだんと麻痺(まひ)し、怠惰に走ってしまいます。心を奮い立たせることもなくなります。このような状況は君子から見れば、逆に心配します。君子の憂慮は自分が聖賢への道を前進していないことであって、衣食住などではありません。聖賢になる道で前進することができるのであれば、君子は、むしろ、飢えと寒さを喜んで耐えます。

むしろ少し清貧(せいひん)な暮らしのほうが、しばしば聖賢を目指している人の心を高めることができます。学問を学び、自分自身の道徳を高め、聖賢になることを志している人は、もうすでに世の栄辱(えいじょく)・得失(とくしつ)・貴賤(きせん)・貧富(ひんぷ)・是非・利害を見破り、気にしなくなっていました。彼の心は聖賢の教誨のなかに安住しています。これは凡人がとても理解できない境地です。そのような境地は「楽土」と呼ばれています。心が清浄だから、そのような清浄な楽土に住めたのです。その「楽」はまさに孔子が仰っている「学而時習之、不亦説乎」の「説」(同「悦」、喜ばしい)であるのです。


簡単解説の内容は浄空法師の説法、楊淑芬(ようしゅくふん)居士先生の「弟子規」、成徳法師(蔡礼旭<さいれいきょく>先生)の「幸福人生講座」などの講義内容に参照してまとめたものです。
一部の内容は念仏人さんのブログによります、心から感謝いたします。
ブログをご覧になっている皆さんとご一緒に学ぶことができて、本当にうれしいです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。