★四診(ししん)
「見る・嗅ぐ(聞く)・問う・触る」で、からだを知る
顔からからだの状態を知るための理論は、[四診]という診察法のうち、「望診」
にもとづいでいます。
四診とは、望診(ぼうしん)・聞診(ぶんしん)・問診(もんしん)・切診(せっしん)
の4つの診察法をいいます。
「望心」は、目で見る診察方法で、患者の顔や皮膚、態度、全身のようすなどを観察
すること。顔のようすや顔色を見る、目を見て精神状態を知る、皮膚を見る、舌を観察
する。さらに、患部の状態や、姿勢、動き、体格などをチェックしていきます。
「問診」は、耳と鼻を使う診察。声の大きさや発音、呼吸音を聞き、口臭、体臭、排泄
物の臭いなどを嗅いで調べること。声が大きいか小さいか、乾いたセキか湿ったセキか、
呼吸は速くないか、口が臭くないかなどを、耳と鼻で感じとります。
「問診」は、おもだった症状や病気の経過、冷えやほてり、痛み、かゆみ、食欲の有無
などの自覚症状を患者さんに質問することです。
現在のからだの状態のみならず、病歴、家族の健康状態、職業や生活リズム、食生活、
妊娠出産、月経の周期、睡眠まで、まさに頭から爪先まで質問します。
「切診」は、からだに触って診断すること。患部の熱や腫れ、むくみ、圧痛、皮膚疾患
の有無などを手で確認するとともに、脈拍の強弱、脈の形状、脈拍数などをみます。
これら4つの診断を総合して、その人の症状から体質、生活背景をつかみ、からだから
発せられる情報を集めるのです。
中医学の医師や漢方の薬剤師さんは訪れる患者さん相手に、四診による情報集めをおこ
なっています。
「寒気は?・ 熱は?」「便通はどうですか?」「食欲は?・」「よく眠れますか?
・」などと質問しながら、顔を観察したり、舌を出してもらったりして、初診の患者さん
には、少なくとも30分かけて慎重かつ丁寧に四診をおこないます。
患者さんの体質、遺伝、生活など全体を把握することが、治療の大切な土台となる
のです。
この段階では、四診から得た診察結果はたんなる情報の山でしかありません。
ここから情報を整理、分析し、病気の見立てを立てて、治療法を考え、処方を決定する
作業にとりかかります。これを「弁証論治:べんしょうろんち」といいます。
「弁」は検討することで、「証」とは病気の証拠調べ、弁証は「病気をあきらかにし、
見立てを立てること」、論治は「治す方法を論ずる」、つまり、「治療法を考え、処方を
つくる」こどをいいます。弁証では、以下の4つのことをあきらかにします。
1 からだのバランスのくずれを見る
2 どの臓器にトラブルが起きているか
3 病気の性質、体質を知る
4 病気の引き金はなにか
それでは、1~4で具体的になにがわかるのかをお話ししていきましょう。
★からだのバランスのくずれを見る
人間のからだは、物質とエネルギーの集合体です。これらの構成要素は一定では
なく、日々刻々と変わっています。このバランスが大幅にくずれると、からだは病気
になります。
からだのバランスは、以下の3つをあきらかにすることで見定めることができます。
①機能・血液・水分・精力はどのぐらい?
からだを構成する要素の量を見ます。機能・血液・水分・精力が足りないことを
「虚証:きょしょう」といい、過剰である状態を「実証:じっしょう」といいます。
②からだは、熱い? 寒い?
からだが冷えているか、熱くなっているかを判断します。からだが冷えていることを
「寒証」といい、熱くなっていることを「熱証」といいます。
③どこに異変が起こっているか?
病気が皮膚や筋肉、鼻やノドなどからだの浅い部位で起こっているのを「表証:ひょう
しょう」といいます。内臓などのからだの深部で起こっている場合、「裏証:りしょう」
となります。
この3つのチェックポイントを総合して、からだが陰に傾いているのか、陽に傾いてる
かを判定します。
虚・寒・裏は「陰」の性質で、実・熱・表は「陽」の性質とします。
陰陽のバランスのくずれを合計8つのチェックポイントで調べるので、このことを八綱
弁証(はちこうべんしょう)といいます。それによって、病気の姿をまずおおまかにとら
えるのです。
からだの陰陽とは、今から約三千年前の中国で生まれた「陰陽説」の思想をもとにし
ています。
陰陽説とは、「世の中にあるすべてのものは、対立する二面性をもつ」とする考え方
です。
動きの激しいもの、熱いもの、明るいもの、上に向かうものは「陽」で、動きが静か
で、冷たいもの、暗いもの、下に向かうものは「陰」とされています。
太陽が当たれば影ができるのと同じことで、これはどちらが良くてどちらが悪いという
ことはなく、物事に不可欠な2つの要素と考えられています。
世の中の物事は、すべて陰陽に分けることができるのです。
たとえば、男は陽、女は陰、天は陽、地は陰、といった具合です。
からだにも陰陽のバランスがあり、それがどちらかに極端に傾いてしまったとき、
体調もくずれます。中国医学でいうバランスとは、つまるところ、この陰陽バランスなの
です。
人間のからだは陰陽が調和しているとき、つまり中庸であることが「健康」だと考えら
れています。どちらかに大きく偏ってしまったときに、病気が起こるのです。
2 どの臓器にトラブルが起きているか
慢性的な病気や不調があるときは、多くの場合、いずれかの臓器に異変が起こって
います。
治療や養生の方法を決めるには、病んでいる臓器を突き止めなければなりません。
弱っている臓器を突き止めることを臓腑弁証(ぞうふべんしょう)といいます。
よく内臓のことを「五臓六腑」と表現します。
五臓とは「肝、心、肺、肺、腎」、六腑とは「胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦(さん
しょう)」を指しています。
(六腑の三焦は形としては実在しませんが、その機能としては存在するとされます。
中国では古くから三焦についてさまざまな見解があります。ここで読者の方がからだを
理解していくうえでは、三焦をはぶいた五臓五腑で足りると考えます)
五臓と五腑は、肝-胆、心-小腸、肺-胃、肺-大腸、腎-膀胱という主従関係をもっ
ています。
つまり、五臓という主人がしっかりしていれば、五腑という従者もよく働くという関係
です。あるいは遂に、五臓がよく機能していないと五腑も働かないという関係でもあり
ます。
図にすると下のようになります。
私たちが日々の健康管理をするには、この「五臓」を基本に考えればいいのです。
中国医学の古典をひもとくと、解剖図らしきものはありますが、西洋のように緻密な
ものはほとんど見あたりません。
はるか三千年前に中国医学をつくりあげた知識人たちは、死んだ人間のからだを解剖
することには熱心でなく、生きた人間があらわす症状や現象から、からだの内部を読み
取り、「五臓五腑」理論に至りました。
中国医学がいうところの「肝、心、脾、肺、腎」は、それぞれ西洋医学の「肝臓、
心臓、胃腸、肺臓、腎臓」におおむね当てはまります。
ただし、中国医学でいう「五腑」とは、西洋医学で考えるよりももっと広い生理機能
を有するものとしてとらえられています。
どの臓器が弱いのかは、顔チェックである程度、探し当てることができます。
まず、顔の色(肝→青、心→赤、胃腸→黄、肺→白、腎→黒)と、顔の諸症状
(肝→目、心→顔全体、胃腸→目、肺→鼻、腎→歯・髪)で、おおまかに五臓の状況は
確認できます。
さらに、舌の状態、自覚症状などを組み合わせれば、より正確に五臓の状態を知ること
ができるわけです。
もしかしたら、いままで書いてきた顔チェックで「肝臓が悪いと思ったら、どうやら
胃も弱いらしい。いや腎臓も……自分はいったいどこが悪いんだ」と混乱した人もいる
かもしれませんね。
人間は、一つの生命体です。五臓のうち、一つの臓器だけが悪くて、あとはすこぶる
健康ということはまずありません。
五臓はおたがいに助けあい、影響しあう臓器なので、どこかの臓器が変調をきたせば、
それはほかの臓器にも多かれ少なかれ影響をおよぼします。
五臓のあいだには「相生(そうしょう)・相克(そうこく)関係」があります。
相生とはだかいに協力し、助けあうことで、相克とは、ある臓器がほかの臓器を抑制
する関係です。
たとえば、慢性鼻炎の人は肺機能が低下しています。肺は相生関係にある胃腸(肺)
によって養われています。
鼻炎や皮膚炎など肺の機能が低下している人は、その背景に胃腸虚弱がひそんでいる
ことが多いのです。
また、精神的ストレスで肝が強く緊張すると、胃腸(肺)の働きが悪くなります。これ
は肝が胃腸を抑制する相克関係の例です。
五臓にはこのような相互関係があるので、たとえば、慢性鼻炎の患者さんには肺を強化
する処方を出すだけでなく、同時に胃腸(肺胃)を強める処方を出します。
中国医学では、このように「からだ全体を治す」治療をおこなうのです。
3 病気の性質、体質を知る
もって生まれた遺伝的な性質と、その後の生活習慣によって、その人の「体質」
「病質」は決められます。「体質が弱い」「体質が強い」などと言いますが、よくよく
考えてみると、体質はなにを指すのか、どこにあらわれるのかは、ひじょうに曖昧です。
体質あるいは病質は、臓腑の健全さと「機能、血液、水分、精力」の状態で決まり
ます。
機能とは、中国医学でいうところの「気」でからだ全体を守り、動かしている力
です。 「気」は目に見えないので、気の作用によって起こるからだの機能で認識
します。 気は血液の流れをよくしたり、内臓を活発に活動させたり、精神力を支える
力となります。
日本語にも「気」を用いた言葉が多くあります。病気、内気、根気、強気、気合など
は、まさに「気」そのものを表現する言葉です。
血液は、からだに栄養を与える物質で、中国医学では「血」といいます。唇や爪が
白っぽく、皮膚や筋肉が弱いのは、血の不足が考えられます。
水分は血液中の水分・リンパ液・唾液・汗など体に存在する体液で、これを「津液」
といいます。口がやたらと乾いたり、舌が赤くなるのは津液不足の症状です。
精力とは、生命のみなもととなるエネルギー。生きていくためのエネルギーで、子ども
をつくる性的なエネルギーも入ります。
精が減少すると、気力や精力がおとろえ、老化がすすみ、歯が弱ったり、白髪が増える
といった顔症状があらわれます。
機能血液、水分、精力の量と質が、その人の体質や病質を決めるのです。
中国医学では、気・血・津液・精の質と量を知ることを、気血津液精弁証(きけつ
しんえきべんしょう)といいます。
4 病気の引き金はなにか
病気にはかならず原因があります。その原因を探りあてることを病因弁証(びょういん
べんしょう)といいます。
病気の原因を「外因」「内因」「不内外因」の3つでとらえます。
外因とは、自然界の気象の変化が病因となるケースです。風、寒、暑、湿、燥、火
(熱)の6つで、六淫(ろくいん)の邪気といいます。邪気とは人に危害を与えるものの
総称です。
内因は、精神状態が肉体に影響をおよぼします。怒、喜、憂、思、悲、驚、恐の7つの
情動があり、これを七情といいます。いわば、精神的なストレスのことです。
外因、内因が過ぎると、五臓を傷め、病気を引き起こすのです。
不内外因は、外因でも内因でもない原因で、おもに生活習慣を指します。
たとえば、食事の不摂生、働きすぎ、なまけすぎ、過度の性行為などはからだを痛め
つけ、病気の原因になります。
また、外傷や虫刺され、動物による咬みキズも不内外因に含まれます。
★自分でできる病気の原因解明
中国医学の方法にしたがえば、これまで「顔からわかる病気と健康」の記事を読んで
いた皆さんは四診のうち、おもに「望診」をしたことになります。
おぼろげながら自分の体質や弱点をつかむことができたと思いますが、まだ顔チェック
情報がバラバラに点在しているような状態です。
次回の中医学講座の記事「内臓タイプごとの顔チェック」では、この点を線でつなぐ
作業をします。
弁証(病気・不調をあきらかにする)をおこない、弱っている臓器をハッキリとあぶり
出すのです。
「見る・嗅ぐ(聞く)・問う・触る」で、からだを知る
顔からからだの状態を知るための理論は、[四診]という診察法のうち、「望診」
にもとづいでいます。
四診とは、望診(ぼうしん)・聞診(ぶんしん)・問診(もんしん)・切診(せっしん)
の4つの診察法をいいます。
「望心」は、目で見る診察方法で、患者の顔や皮膚、態度、全身のようすなどを観察
すること。顔のようすや顔色を見る、目を見て精神状態を知る、皮膚を見る、舌を観察
する。さらに、患部の状態や、姿勢、動き、体格などをチェックしていきます。
「問診」は、耳と鼻を使う診察。声の大きさや発音、呼吸音を聞き、口臭、体臭、排泄
物の臭いなどを嗅いで調べること。声が大きいか小さいか、乾いたセキか湿ったセキか、
呼吸は速くないか、口が臭くないかなどを、耳と鼻で感じとります。
「問診」は、おもだった症状や病気の経過、冷えやほてり、痛み、かゆみ、食欲の有無
などの自覚症状を患者さんに質問することです。
現在のからだの状態のみならず、病歴、家族の健康状態、職業や生活リズム、食生活、
妊娠出産、月経の周期、睡眠まで、まさに頭から爪先まで質問します。
「切診」は、からだに触って診断すること。患部の熱や腫れ、むくみ、圧痛、皮膚疾患
の有無などを手で確認するとともに、脈拍の強弱、脈の形状、脈拍数などをみます。
これら4つの診断を総合して、その人の症状から体質、生活背景をつかみ、からだから
発せられる情報を集めるのです。
中医学の医師や漢方の薬剤師さんは訪れる患者さん相手に、四診による情報集めをおこ
なっています。
「寒気は?・ 熱は?」「便通はどうですか?」「食欲は?・」「よく眠れますか?
・」などと質問しながら、顔を観察したり、舌を出してもらったりして、初診の患者さん
には、少なくとも30分かけて慎重かつ丁寧に四診をおこないます。
患者さんの体質、遺伝、生活など全体を把握することが、治療の大切な土台となる
のです。
この段階では、四診から得た診察結果はたんなる情報の山でしかありません。
ここから情報を整理、分析し、病気の見立てを立てて、治療法を考え、処方を決定する
作業にとりかかります。これを「弁証論治:べんしょうろんち」といいます。
「弁」は検討することで、「証」とは病気の証拠調べ、弁証は「病気をあきらかにし、
見立てを立てること」、論治は「治す方法を論ずる」、つまり、「治療法を考え、処方を
つくる」こどをいいます。弁証では、以下の4つのことをあきらかにします。
1 からだのバランスのくずれを見る
2 どの臓器にトラブルが起きているか
3 病気の性質、体質を知る
4 病気の引き金はなにか
それでは、1~4で具体的になにがわかるのかをお話ししていきましょう。
★からだのバランスのくずれを見る
人間のからだは、物質とエネルギーの集合体です。これらの構成要素は一定では
なく、日々刻々と変わっています。このバランスが大幅にくずれると、からだは病気
になります。
からだのバランスは、以下の3つをあきらかにすることで見定めることができます。
①機能・血液・水分・精力はどのぐらい?
からだを構成する要素の量を見ます。機能・血液・水分・精力が足りないことを
「虚証:きょしょう」といい、過剰である状態を「実証:じっしょう」といいます。
②からだは、熱い? 寒い?
からだが冷えているか、熱くなっているかを判断します。からだが冷えていることを
「寒証」といい、熱くなっていることを「熱証」といいます。
③どこに異変が起こっているか?
病気が皮膚や筋肉、鼻やノドなどからだの浅い部位で起こっているのを「表証:ひょう
しょう」といいます。内臓などのからだの深部で起こっている場合、「裏証:りしょう」
となります。
この3つのチェックポイントを総合して、からだが陰に傾いているのか、陽に傾いてる
かを判定します。
虚・寒・裏は「陰」の性質で、実・熱・表は「陽」の性質とします。
陰陽のバランスのくずれを合計8つのチェックポイントで調べるので、このことを八綱
弁証(はちこうべんしょう)といいます。それによって、病気の姿をまずおおまかにとら
えるのです。
からだの陰陽とは、今から約三千年前の中国で生まれた「陰陽説」の思想をもとにし
ています。
陰陽説とは、「世の中にあるすべてのものは、対立する二面性をもつ」とする考え方
です。
動きの激しいもの、熱いもの、明るいもの、上に向かうものは「陽」で、動きが静か
で、冷たいもの、暗いもの、下に向かうものは「陰」とされています。
太陽が当たれば影ができるのと同じことで、これはどちらが良くてどちらが悪いという
ことはなく、物事に不可欠な2つの要素と考えられています。
世の中の物事は、すべて陰陽に分けることができるのです。
たとえば、男は陽、女は陰、天は陽、地は陰、といった具合です。
からだにも陰陽のバランスがあり、それがどちらかに極端に傾いてしまったとき、
体調もくずれます。中国医学でいうバランスとは、つまるところ、この陰陽バランスなの
です。
人間のからだは陰陽が調和しているとき、つまり中庸であることが「健康」だと考えら
れています。どちらかに大きく偏ってしまったときに、病気が起こるのです。
2 どの臓器にトラブルが起きているか
慢性的な病気や不調があるときは、多くの場合、いずれかの臓器に異変が起こって
います。
治療や養生の方法を決めるには、病んでいる臓器を突き止めなければなりません。
弱っている臓器を突き止めることを臓腑弁証(ぞうふべんしょう)といいます。
よく内臓のことを「五臓六腑」と表現します。
五臓とは「肝、心、肺、肺、腎」、六腑とは「胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦(さん
しょう)」を指しています。
(六腑の三焦は形としては実在しませんが、その機能としては存在するとされます。
中国では古くから三焦についてさまざまな見解があります。ここで読者の方がからだを
理解していくうえでは、三焦をはぶいた五臓五腑で足りると考えます)
五臓と五腑は、肝-胆、心-小腸、肺-胃、肺-大腸、腎-膀胱という主従関係をもっ
ています。
つまり、五臓という主人がしっかりしていれば、五腑という従者もよく働くという関係
です。あるいは遂に、五臓がよく機能していないと五腑も働かないという関係でもあり
ます。
図にすると下のようになります。
私たちが日々の健康管理をするには、この「五臓」を基本に考えればいいのです。
中国医学の古典をひもとくと、解剖図らしきものはありますが、西洋のように緻密な
ものはほとんど見あたりません。
はるか三千年前に中国医学をつくりあげた知識人たちは、死んだ人間のからだを解剖
することには熱心でなく、生きた人間があらわす症状や現象から、からだの内部を読み
取り、「五臓五腑」理論に至りました。
中国医学がいうところの「肝、心、脾、肺、腎」は、それぞれ西洋医学の「肝臓、
心臓、胃腸、肺臓、腎臓」におおむね当てはまります。
ただし、中国医学でいう「五腑」とは、西洋医学で考えるよりももっと広い生理機能
を有するものとしてとらえられています。
どの臓器が弱いのかは、顔チェックである程度、探し当てることができます。
まず、顔の色(肝→青、心→赤、胃腸→黄、肺→白、腎→黒)と、顔の諸症状
(肝→目、心→顔全体、胃腸→目、肺→鼻、腎→歯・髪)で、おおまかに五臓の状況は
確認できます。
さらに、舌の状態、自覚症状などを組み合わせれば、より正確に五臓の状態を知ること
ができるわけです。
もしかしたら、いままで書いてきた顔チェックで「肝臓が悪いと思ったら、どうやら
胃も弱いらしい。いや腎臓も……自分はいったいどこが悪いんだ」と混乱した人もいる
かもしれませんね。
人間は、一つの生命体です。五臓のうち、一つの臓器だけが悪くて、あとはすこぶる
健康ということはまずありません。
五臓はおたがいに助けあい、影響しあう臓器なので、どこかの臓器が変調をきたせば、
それはほかの臓器にも多かれ少なかれ影響をおよぼします。
五臓のあいだには「相生(そうしょう)・相克(そうこく)関係」があります。
相生とはだかいに協力し、助けあうことで、相克とは、ある臓器がほかの臓器を抑制
する関係です。
たとえば、慢性鼻炎の人は肺機能が低下しています。肺は相生関係にある胃腸(肺)
によって養われています。
鼻炎や皮膚炎など肺の機能が低下している人は、その背景に胃腸虚弱がひそんでいる
ことが多いのです。
また、精神的ストレスで肝が強く緊張すると、胃腸(肺)の働きが悪くなります。これ
は肝が胃腸を抑制する相克関係の例です。
五臓にはこのような相互関係があるので、たとえば、慢性鼻炎の患者さんには肺を強化
する処方を出すだけでなく、同時に胃腸(肺胃)を強める処方を出します。
中国医学では、このように「からだ全体を治す」治療をおこなうのです。
3 病気の性質、体質を知る
もって生まれた遺伝的な性質と、その後の生活習慣によって、その人の「体質」
「病質」は決められます。「体質が弱い」「体質が強い」などと言いますが、よくよく
考えてみると、体質はなにを指すのか、どこにあらわれるのかは、ひじょうに曖昧です。
体質あるいは病質は、臓腑の健全さと「機能、血液、水分、精力」の状態で決まり
ます。
機能とは、中国医学でいうところの「気」でからだ全体を守り、動かしている力
です。 「気」は目に見えないので、気の作用によって起こるからだの機能で認識
します。 気は血液の流れをよくしたり、内臓を活発に活動させたり、精神力を支える
力となります。
日本語にも「気」を用いた言葉が多くあります。病気、内気、根気、強気、気合など
は、まさに「気」そのものを表現する言葉です。
血液は、からだに栄養を与える物質で、中国医学では「血」といいます。唇や爪が
白っぽく、皮膚や筋肉が弱いのは、血の不足が考えられます。
水分は血液中の水分・リンパ液・唾液・汗など体に存在する体液で、これを「津液」
といいます。口がやたらと乾いたり、舌が赤くなるのは津液不足の症状です。
精力とは、生命のみなもととなるエネルギー。生きていくためのエネルギーで、子ども
をつくる性的なエネルギーも入ります。
精が減少すると、気力や精力がおとろえ、老化がすすみ、歯が弱ったり、白髪が増える
といった顔症状があらわれます。
機能血液、水分、精力の量と質が、その人の体質や病質を決めるのです。
中国医学では、気・血・津液・精の質と量を知ることを、気血津液精弁証(きけつ
しんえきべんしょう)といいます。
4 病気の引き金はなにか
病気にはかならず原因があります。その原因を探りあてることを病因弁証(びょういん
べんしょう)といいます。
病気の原因を「外因」「内因」「不内外因」の3つでとらえます。
外因とは、自然界の気象の変化が病因となるケースです。風、寒、暑、湿、燥、火
(熱)の6つで、六淫(ろくいん)の邪気といいます。邪気とは人に危害を与えるものの
総称です。
内因は、精神状態が肉体に影響をおよぼします。怒、喜、憂、思、悲、驚、恐の7つの
情動があり、これを七情といいます。いわば、精神的なストレスのことです。
外因、内因が過ぎると、五臓を傷め、病気を引き起こすのです。
不内外因は、外因でも内因でもない原因で、おもに生活習慣を指します。
たとえば、食事の不摂生、働きすぎ、なまけすぎ、過度の性行為などはからだを痛め
つけ、病気の原因になります。
また、外傷や虫刺され、動物による咬みキズも不内外因に含まれます。
★自分でできる病気の原因解明
中国医学の方法にしたがえば、これまで「顔からわかる病気と健康」の記事を読んで
いた皆さんは四診のうち、おもに「望診」をしたことになります。
おぼろげながら自分の体質や弱点をつかむことができたと思いますが、まだ顔チェック
情報がバラバラに点在しているような状態です。
次回の中医学講座の記事「内臓タイプごとの顔チェック」では、この点を線でつなぐ
作業をします。
弁証(病気・不調をあきらかにする)をおこない、弱っている臓器をハッキリとあぶり
出すのです。