散歩と俳句。ときどき料理と映画。

家仕舞い その1〈風信帖〉

昨日は遠足仲間のひとりMさんの〈家仕舞い〉のための
粗大ゴミの搬出の手伝いに中落合まで行く。

母親を去年亡くされ、父も介護施設に入所でもう実家の借家を
維持する必要もないので〈家仕舞い〉となる。
47年間親子で暮らした家ともなると、
残された生活用品は膨大な量である。
昨年からすこしずつ処分を始めて
ようやく目鼻がついてきたというところらしい。

片付け物のなかにお母さんが書いたという一幅の書が出てきた。
それが下の写真である。

なにかを手本としたものだと思われるが、立派な字である。

下に書かれた名前の上の〈風信帖節臨書〉という文字を手がかりに調べてみた。

〈節臨〉とは古典の一部分だけを臨書(歴代の書道の名品とされる作品を
手本としてよく観察し、そっくりに真似て書く)ことをいう。
まあ無学なワタシでもそのくらいは知っている。

つまりこの書は〈風信帖〉という古典の一部を書き写したものということになる。

〈風信帖=ふうしんじょう〉は空海が最澄に宛てた尺牘(せきとく=手紙)3通の総称である。
その一通目が下の写真。

Mさんのお母さんはこの〈風信帖〉の最初の3行を書き写して
一幅の書としているのがわかる。

この手紙の内容は

〈風信雲書自天翔臨
披之閲之如掲雲霧兼
恵止觀妙門頂戴供養
不知攸厝已冷伏惟
法體何如空海推常擬
隨命躋攀彼嶺限以少
願不能東西今思与我金蘭
及室山集會一處量商仏
法大事因縁共建法幢報
仏恩徳望不憚煩勞蹔
降赴此院此所々望々忩々
不具釋空海状上
   九月十一日
東嶺金蘭法前
         謹空〉

文面は、冒頭の挨拶、『摩訶止観』のお礼、比叡山には行けない旨を告げたあとに、「あなた(最澄)と堅慧(推定)と私の3人が集まって、仏教の根本問題を語り合い仏教活動を盛んにして仏恩に報いたい。どうか労をいとわず、この院(乙訓寺と推定)まで降りて来て下さい。ぜひぜひお願いする」という趣旨の内容である

この漢字だけの文章を読み解くことはワタシにはできない。
こうやって翻訳があるのはありがたい。

解説には次のような文章も付されている。
書風は王羲之の書法に則した謹厳なもので、それは「風」や「恵」その他が『蘭亭序』と酷似していることでも立証できる。特に「恵」の最後の点を右側に大きく離し、収筆を上方にはね上げる運筆は王羲之の書法の特徴の一つで、この収筆のはね上げにより、運筆のスピード感と切れ味を字形全体の印象として感じさせる効果をもたらす。王羲之書法に傾倒する人の筆跡にはこの運筆が見られ、米芾の『蜀素帖』の中の「穂」や「盡」にも認められる

Mさんには、これは大事なものだから掛軸仕立てもいいけど
このサイズが入る額縁を探して飾ったらいいと思うよと伝えた。

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