日本経済はバブル崩壊後の30年間低迷している。その要因には様々なものがあると思われるが、究極的には企業の価値創造性が低下したためである。
経済成長は、市場メカニズムではなく企業の価値創造性によるところが大きい。企業が創造する価値を市場が選択することによって高められるからである。特に成熟した経済を成長させるには量的投資ではなく、常に新たな価値の創造が求められる。しかし政府の成長戦略は、市場経済のメカニズムに基づいた規制緩和や金融緩和などの競争促進と総需要増大政策であった。
市場と組織は不連続であり、それが組織を形成する理由である。しかし、いわゆる「組織の経済学」と称される理論の多くは、組織の機能を市場と同様、資源の効率的配分と考え、企業組織の価値創造性を考慮していない。
日本経済の低迷の一因は、市場の原理を企業組織に導入し、企業の価値創造性が低下したためである。組織経済における企業の目的は利潤ではなくアイデンティティ(企業理念や文化、コア・コンピタンスなど)に基づいた価値創造である。しかし、市場原理主義は企業組織を市場と同様、利潤最大化の手段とするため、規制緩和は金融経済の拡大やグローバル競争の中で、企業の価値創造よりもコスト低下や証券投資を促した。また雇用においては、労働者が専門性を発揮し組織から自由に自己利益を追求する「仕事人」が望ましいように主張された。その結果、成果主義の導入や非正規労働者の増加により、低賃金化と雇用の流動化を促した。
価値創造とは、アイデンティティを製品として実現することである。それが新技術を開発し、あるいはICTなどを活用して付加価値を高める方向になり、需要の高度化とマッチすることによって経済を成長・発展させる。
かつての日本的経営では、長期雇用のもとに企業と従業員が一体となった集団主義が価値創造性を高めた。それは企業内での従業員教育を積極的に進め、先進国の技術にキャッチアップするには効果的であった。それは、常に新たな価値創造が求められる成熟経済では必ずしも有効とはいえないが、企業のアイデンティティのもとに、企業や従業員が価値観を共有し、専門性により創造性を発揮することは、組織の普遍的なあり方である。「仕事人は組織人」でなくてはならない。日本文化の長所でもある企業と人間、人間同士の関係を重視し、常に新しい創造性を発揮できる新たな日本的経営が求められる。