じゃっくり

日常をひたすら記すブログ

定年退職でさくらを歌う

2006年04月01日 | 雑記
職場の定年退職者であるOさんの送別会で「さくら」を歌ってきました。「さくら」はいっぱいありますが、森山直太郎のさくらです。

老人の視線が集中する。緊張。歌えそうで、なかなか歌い始められない。はじめの「僕らの」「ぼ」で全てが決まる。「はようたいないな」「みんながまってるで」「幼くんがうたわんとはじまらんで」。老人はせかしてきて、さらに歌いにくくなる。こういうのは勢いにまかせて歌わないといけない。

あれは小学校の合唱発表会。僕は嫌で嫌でたまらなかった。全校生徒の視線が自分に集中しているような気がして、顔が真っ赤になり、耳は顔以上に真っ赤になり、ゆげでもでてきそうだった。思えばそれが人の視線恐怖のはじまりだったのかもしれない。

はじめて人前で歌おうと思った高校二年生、ミスチルの「エブリシング」は全く声がだせず、それを見た友達に助けてもらい、なんとか終えた。僕以外の人は思い思い、楽しそうに歌っていたのに。

「僕らはずっと待ってる」

大丈夫。なんとか声はでた。「いいなあ」眼鏡をかけたおばあさんから早くも声があがる。「さらば、友よ、旅立ちのとき」。裏声がうまくでてこなかったが、できる限りの思いをこめた。顔はたぶん真っ赤だろう。耳はそれ以上に真っ赤だろう。前を見ることができず、歌詞がかかれていないメモ用紙をひたすら見つめる。

「あ、あありがとうございました」頭をぺこりと下げると拍手が聞えてきた。「まさかあんなに歌えるなんて、思いもしなかった」「テノールがよかった」「もっと大きなホールで聴きたいね」。

あれから何か変わっただろうか。人前で歌うことは変わらず苦手だ。歌っているときに、人の目など見ることはできない。だけど、やっぱり歌うことは好きだ。歌っているとき、何かから解き放たれたような感覚に陥る。それを味わいたくて歌うのだろう。