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にじゅうななのヨン

2005-12-16 02:03:05 | 日記・エッセイ・コラム
 しかし僕は何ひとつ悔みはしない。
 暗く長い夜、部屋の壁に沿って長く伸びた(そして今は語ることもない)自分の影を眺めながら、僕はあの壁に囲まれた街を想う。高い壁を想い、図書館のほのかな電灯の下の君を想い、通りにひづめの音を響かせる獣たちを想い、風に揺れる川柳を想い、そして人気のない工場街を吹き抜ける冷ややかな季節風を想う。
 これ以上失うべきものは何もない。それだけが僕の救いだ。まるで十六の歳に感じたあの風のように、今すべては僕の体を通り抜けていく。僕はあの街を失いこそしたけれど、僕の想いはあの街のどこかに今も残っているはずだ。
 いつまでも・・・・・・、と君は言った。いつまでも。君が僕を忘れないように、僕も君を忘れはしない。夏の川縁の想いを、そして季節風の吹く冬の橋上の想いを。
 いつまでも・・・・・・

 曇った秋の夕暮、僕はあの角笛の響きをふと耳にする。その音はおそらく、あの不確かな壁のどこかのすきまから、僕の耳に届いてくるのだろう。北の尾根から吹き下ろす冷ややかな季節風に乗って。

                                                                   (了)
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