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にじゅうななのに

2005-12-06 18:41:06 | 日記・エッセイ・コラム
 そして壁は消えた。
「終ったよ」と僕は言った。「行くか?」
「いいとも」
 僕たちは雪の中でコートを脱ぎ、靴を脱ぎ、そして二人のベルトをしっかりとつなぎあわせた。
「離れるなよ、絶対に」と影は言った。「離れたら最後だぜ」
 僕は肯いた。雪の上に置かれた二組の黒いコートと黒い靴はなんだか不思議な眺めだった。
「ひょっして俺は間違っているのかもしれない」と影はぽつんとそう言った。「君の都合で巻きぞえにしているだけなのかもしれない」
「そう?」
「君と壁の話を聞いていてふとそう思った」
「弱気を出すなよ」と僕は言った。「間違いは誰にでもある」
「君がそう言ってくれると嬉しいよ。もし地上に出たら、また仲良くやろう」
 僕たちはベルトをつなぎあわせたまま、しっかりと握手した。そして大きく息を吸い込んでから、僕たちは同時に氷のように冷ややかなたまりの中に頭から飛びこんだ。
 そして次の瞬間、僕は意識を失っていた。