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じゅうよんのなな

2005-03-04 11:35:30 | 日記・エッセイ・コラム
IMGP0394

「その女の顔を忘れることはできなかった。そしてそれ以来、私はどんな女に対しても熱い想いというものを抱けなくなってしまったのだ。どんな魅力的な女と寝たところで、いつも頭に浮かんでくるのはあの女の顔だった。ひと月後に帰還した戦場も、私のそんな狂おしい気持を静めてはくれなかった」
「しかしね、ある日ふと私は気づいたんだ。自分があの女の横顔の一方しか見ちゃいないことにね。左の横顔だ。女は一晩中その姿勢のままピクリともしなかったんだ。私と同じようにね」
 老人はそう言うと、自分の左頬を撫でてみせた。
「そう思うと、私はもう矢も楯もたまらなくなってしまった。なんとか彼女の右の横顔が見たいってね。そこで私は無理矢理に休暇を取って、あの同じ村に戻り、同じ部屋を取った。女はたしかに前と同じ時刻に現れた。同じ籐椅子、同じ姿勢、同じ横顔さ」
 長いあいだ激しい雨音だけが部屋の中に響きわたっていた。