yasminn

ナビゲーターは魂だ

吉野 弘            虹の足

2011-11-11 | 
雨が あがって

雲間 から

乾麺 みたいに 真直な

陽射しが たくさん 地上に 刺さり

行手に 榛名山が 見えたころ

山路を 登る バスの中で 見たのだ、 虹の足を。


眼下に ひろがる 田圃の上に

虹が そっと 足を 下ろしたのを!

野面に すらりと 足を 置いて

虹の アーチが 軽やかに

すっくと 空に 立ったのを!

その 虹の足の 底に

小さな村と いくつかの 家が

すっぽりと 抱かれて 染められていたのだ。

それなのに

家から飛び出して 虹の足に さわろうとする 人影は 見えない。

――おーい、 君の家が 虹の中にあるぞォ

乗客たちは 頬を火照らせ

野面に立った 虹の足に 見とれた。


多分、あれは バスの中の 僕らには 見えて

村の人々には 見えないのだ。

そんなことも あるのだろう

他人には 見えて

自分には 見えない 幸福の中で

格別 驚きもせず

幸福に 生きていることが――。