yasminn

ナビゲーターは魂だ

佐々木信綱           夏はきぬ

2011-04-30 | 
卯の花の 匂う 垣根に

時鳥(ほととぎす) 早も き 鳴きて 

忍び音 もらす 夏は きぬ



五月雨の そそぐ 山田に 

早乙女が 裳裾(もすそ) ぬらして 

玉苗 ううる 夏は きぬ



橘の かおる 軒端の 

窓 近く  螢 飛び交い 

おこたり 諫むる 夏は きぬ



おうち 散る  川辺の 宿の

門 遠く 水鶏(くいな) 声 して

夕月 涼しき 夏は きぬ



五月 闇 螢 飛び交い

水鶏 鳴き 卯の花 咲きて

早苗 うえわたす 夏は きぬ



                小山作之助作曲
 

与謝野 晶子         雑草

2011-04-25 | 
 
雑草こそは賢けれ

野にも街にも人の踏む

路を残して青むなり。



雑草こそは正しけれ、

如何なる窪も平らかに

円く埋めて青むなり。



雑草こそは情けあれ、

獣のひづめ、鳥の脚、

すべてを載せて青むなり。



雑草こそは尊けれ、

雨の降る日も、晴れし日も、

微笑みながら青むなり。


吉田 正一   中能島 欣一 評伝より

2011-04-22 | 箏のこと

 ――― 箏の「五段調」「六段調」「七段調」「八段調」「九段調」を 続けて弾くと 三十五段。


  これを  三回 繰り返すと  百五段 で 役一時間かかる。


  目標の 千段に 至るには 約十時間 が必要ということになる。 


   昼食は パン。 


  むすび では 指が汚れ  押し手に 差しつかえる からである。



  で、パンを 小さく切っておき  手のあいた時に すばやく 口にほうりこむ。



   まず その以前に 六百段の 予行演習を行い、 それから 実行に移す。


  このことが 下谷西黒町に 一人で 二階借りしていた頃の 手記に、ある。



  
 どんな分野でも そうだろうが、 芸術の 高峰にのぼるには、


 
 狂という 谷間を 渡らねばならないのだろうか。

生田 春月               渦巻の中で

2011-04-21 | 
       
おれを 溺らさうとした 波があつた

おれは 必死に 泳いだのだ

波の間に 白くきらめく 人魚を 追うて

人魚は 逃げた、逃げながら おれを 招いた

いま、 その影は 遥かに 遥かに 薄れてしまつた



おれは 又、 新しい 渦巻の中に 巻込まれた

新しい岸へ それは おれを 搬(はこ)ばうとした

だが、 おれは 生きて その岸へ行き着けるか

人魚ではない、 幻の女でなかつた

巨大な鰐、 鮫のたぐゐか

おれは その背に 乗れるか

その口に 呑み込まれるか



どうなるものか、 魚は何丈、 おれは五尺

いつも 呑まれてしまふまでだ

尻尾に 跨つて、 威張つてたつて

山なす波が さらつてしまふ

どうなるものか、 呑め、 呑め、 呑め

さらつて行け、 おまへの 好きな方へ

おれは 観念つけて 浮んでゐようよ



梁性佑         子供たちの遊び場で

2011-04-16 | 
いくら 自分のくいぶちは  生まれたときから つきのものだといっても、


持てるものは もっと多く持つために あがき


おお、 めざめた 母と父は 鞭打たれて 捕らわれ


落ち葉のように 倒れる


この刃(やいば)の 時節に育つ いたいけな  子供たちよ。


心配するな。  それでも 今は まだ希望がある。


あるいは 大声で笑い、 裸足で 泥水のなかを ころげまわる


腕白の お前たちがいるからこそ

この国の上には まだ 希望があるのだ。


そうだとも  お前たちの 時節には   いちどきに

夜よりも 濃い暗闇が 明けて、  飢えても


誰もが ともに ひもじくない 喜びの日が


来るだろうから、


心配するな。  あるいは 鼻を すすりあげながら ぶらんこを押し、


すべり台ですべる、


幾重にも しみこんだ  赤い血潮を 肥料(こやし)に育つ


いたいけな 子供たちよ。