yasminn

ナビゲーターは魂だ

小林 良一 霰弾

2016-01-04 | 
愉快らしい星が 北へ飛んだ。
枯木の をのゝく頃に
又一ツ、 つうと飛んだ。

若い男がそれを見て 泣き声で
「女みたいだなァ」と言った。

犬が啼いて
男が泣いて
そのお共に 月がないた。

男が男に弄ばれた。
それでも笑ってゐた。
氣味の悪い男が 波止場に咲いた。
今に 女につまゝれるかも知れぬ。

丹念に、丹念にと 女は
レター一枚送るに 赤い辭典を引いた。

男は苦笑しつゝ
「す」か「し」かとレターに聞いてみた。
レターは男を痩せらせた丈だつた。

女は 返事を待って 待って寝た。
男は 状差に打込んで かびらせた。

女はあきらめたらしい。
男は忘れてしまった。

茶碗をわった時に女は
「男奴(おとこめ)」と言った。
耳がほとった時に男は
「ど奴だ」と言った。

            


伊藤整  雪夜

2016-01-03 | 
 あゝ 雪のあらしだ。
 家々はその中に盲目になり 身を伏せて
 埋もれてゐる。
 この恐ろしい夜でも
 そつと窓の雪を叩いて外を覗いてごらん。
 あの吹雪が
 木々に唸つて 狂つて
 一しきり去つた後を
 気づかれない様に覗いてごらん。
 雪明りだよ。
 案外に明るくて
 もう道なんか無くなつてゐるが
 しづかな青い雪明りだよ。