山口建設

社長の独り言

伊香保温泉ー第3回

2010年06月05日 07時56分13秒 | 日記


声の主の方に顔を向けた。
小柄で、痩せ型の年齢60代過ぎの女性である。
この小さなスナックで、温泉の酔客相手に何十年の時間を過ごしてきた風情が見える。
どれほどのお客を相手に、又どれほどの痴話話をきいてきたのだろう。
すべてがおみとうしである。
ただ、黙って、聞いて、見てるだけ、それがスナックのママとしての礼儀と心に
決めてる様子が見受けられる。
やがて、ふたたび、ビールが運ばれ、カラオケのマイクが渡された。

酔いに任せて普段無口な友人が思いがけない歌を選曲した。
カタカナの若いミユージシャンが歌うメローデーをマイクに向かった歌い始めた。

どこで覚えたのだろうか。
なにおきっかけで歌い始めたのだろうか。
そんなことを思いながら友の顔を見つめていた。

やがて、歌い疲れたころ、ママサンが手料理で玉子焼きを作ってくれた。
口に運ぶとほんのり甘い香りと昔おふくろが作ってくれたあの玉子焼きの
姿がダブって見えた。
「玉子焼きが上手に作れる女性は素晴らしい奥さんになれるのよ」
ママサンの言葉に一同納得。

なぜか、ママサンの昔の姿の一遍が見え隠れしたが、余計なことは聞かず
黙って口に運んだ。
「どんなに頭が良くても、どんなのにお金があってもこの世は男と女しかいないのよ、
それが私の哲学よ」
照れくさそうに話す彼女の姿に酌婦のお姉さんも納得している。

やがてお開きの時間が来た。
当然、会計である。
2次会での予算として実は彼女に20000円渡していた。
この範囲で歌って飲んで遊べる店としてこの店に連れてこられた。

会計が終わり、彼女からおつりを手渡された。
8000円。
私としては、渡したお金ですべてまかなえば後は彼女のチップと考えていたが
おつりをよこすとはビックリした。
そして 彼女は置屋に延長がないと報告している。
彼女の無料サービスとわかっているので20000円の中からおつりは
チップとして渡すつもりであった。
しかし、それをおつりとして私の手元に渡そうとしている。
酔客相手に生活をしながら、しかし甘えることしないその姿に
嬉しい夜を過ごした。
我々男同士は彼女にホテルの入り口まで送ってもらった。
「今夜の楽しい時間有り難う御座いました」
その声を背中で聞きながら、ゆっくりとホテルのドアを開けた。