澄明とて、恐ろしいのだ。その恐ろしさに身をひけぬ「思い」がある。いかにしてでも、銀狼をすくいだしたい。ーわしはほんにあほうじゃー一瞬の気配もみのがすまい。もしも、雷神がひのえにいかずちをあたえでもしたら、いかずちが落ちる前にひのえの手から畳針をうばう。ひのえ、いや、澄明の守護にはいると、白銅は静かに目をとじた。気配に集中するために・・・。もういちど、澄明の手をありかを確認しようと、うすめを開けた時 . . . 本文を読む
かちかちと恐ろし気な音もひそかなものにかわると、あたりの霞もうすまりはじめ、黒いもやでしかなかった霧が薄墨いろにかわり、その中に雷神の影が揺らめいた。「いずながどこにいるか、知っているというのだな?」雷神の姿がくっきりと現になり、稲妻の音も消え去り、霞は白いもやになり、雷神の足元にだけ、うずくまっていた。
「なるほど・・おまえ、あの時の陰陽師だな?」あの時、長い眠りからさめたとしか、かんがえつか . . . 本文を読む
「判ったぞ。おまえらが、いずなをかくしさったのだな」その畳針を持っているのが、証拠だと雷神は二人をにらみすえた。
澄明の手の先、畳針をにらみすえると雷神の体から
青く小さな電光がそこかしこにわきだす。
ぴしぴしとはぜる音がひとつの場所にあつまりはじめると、
青い光のかたまりにかわり、ゆらめきながら雷神の手にのった。
「ひのえ、いかぬ。畳針を放せ」
白銅が叫び、澄明を庇うより先雷神の . . . 本文を読む
「まず、いづなの行方をお話します」
雷神のいぶかしげな顔が縦にゆれた。
「今、いづなは、銀狼に転生しています」
雷神の瞳が大きくみひらかれると、大きな涙があふれ、頬に伝った。
「い・・いづな・・は、死・・死んでしまったということなのだな?何故?」
霊獣であるいづなが、死ぬなど、希なことである。
「私が・・電撃を?」
思い当たることはそれしかない。
澄明の眼がかすかに、地をみつめた。 . . . 本文を読む
「言霊をご存知ですね?」
答えをしっているのは、澄明しかない。
雷神は、唐突な質問が、答えの手引きであると、解すると、尋ね事の返事だけをかえすことにした。
「知っておる」
「言霊が発動するとき、言霊を発した本人が、今、言霊を発動させるぞと、お思いになって、言葉を発しますか?」
「いや。それは、まず、無い。
当て込んだ思いでは、言霊は発動しない。
思い誠の真に天がのってくる。
だから . . . 本文を読む
「そうです。海です。
雷神、貴方のいづなを思う気持ちはたおやかで、凪いだ海のごとく、
水・・つまり、情にあふれるものなのです。
ところが、どういう加減か、そこに荒波がたってしまった。
その波がいづなをのみこんでしまったということです」
ふにおちたのだろう。雷神の瞳から、怒りがきえていた。
「その波をおこしたのが、貴方なのです」
「うとましいと思った・・確かにそう思った。それが、呪詛に . . . 本文を読む
「どうすれば、私がかけた呪詛がとける?」
「かけてしまった呪詛をとりはずすのは、貴方が許す気持ちになればそれで、すむのです。
今までそれに気がつかず、知らずにいたわけですが、貴方はもうそれがわかって
許す気持ちになっておられる。それだけで、充分なのです」
「あ・・・・」
ちいさな気づきの声がもれると雷神は再び澄明にひざまづいた。
「貴方は、榛の木から私をすくいだしただけのみならず、
. . . 本文を読む
残るは山の神の呪詛であるが、
これは、簡単に解けそうにない。
雷神の場合は我知らず、思うた念であるから
雷神が気がつけば、呪詛はその効力を失う。
だが、山の神は、あえて、呪詛をかけている。
そのうしろには、たつ子を沖の白石に変えさせられた悲しい憤りがある。
これにより発せられた呪詛の念は
たとえ、たつ子を元の水の神にもどしたところで
消えるものだろうか?
山の神が、「気が . . . 本文を読む
「ひのえ・・」
白銅が呼ぶ。
「わしは・・・山の神はたつ子さえ戻ってくれば
銀狼への憎しみを昇華できるとおもう」
白銅はなにゆえ、そう思うのであろうか?
「山の神は、たつ子が戻ってきても、なお
銀狼のー愛するものを自分こそが貶め苦しむ転生ーを見て
山の神の胸内はすくかもしれぬが
次にたつ子とおなじ苦しみをあじわうものがでてくるということにきがつこう?」
「そう・・ですね」
「た . . . 本文を読む
2人が来るのをまちうけていたのが、不知火であるが
相変わらず、口が悪い。
「棒鱈のようになるまで、気がつかぬ、澄明もうつけじゃ」
ひからびた銀狼の身体に水分をあたえ続けただけのことはあり
銀狼はこれが、平素のとおりと思われるほど精気をとりもどしていた。
ーなんと、精悍な・・-
その立派としかいいようのない姿に惚れ惚れしている間に
澄明の隣で電光が小さくはぜる。
雷神が現れると銀狼の . . . 本文を読む
雷神とて、おもいおこせば、そうであった。
榛の木の精霊をふたつに分かち
己は榛の木の中でねむっていたらしい。
それが、突如 鋭い痛みをおぼえ、
薄目をあければ、榛の木の精霊が元の雌雄同体の姿にもどってそこにいる
やがて、妙な女鬼に揺り動かされた。
奇妙なところにおると思いながらも
畳針の作った小さな穴から光がもれてくる。
さては、どこかに迷い込んだか
そんなきがして、外にぬけだし . . . 本文を読む
ちかづく澄明をたつ子はぼんやりとみていた。
「たつ子さま・・」
声をかけられ、はじめて、たつ子は白石の外に出たときがついたようだった。
「あれは・・・」
白石まで銀狼がはいりこんできて
一条の光めがけて、逃げ出したが、
銀狼はおいかけてはこなかった。
「あなたたちが?」
聞かずとも、白石の傍にいるものが助けてくれたとしか考えられない。
銀狼を白石にとじこめ、たつ子を外にだしてくれ . . . 本文を読む
「たつ子が山の神に戻る前に、いそぎましょう」
たつ子が山の神にあえば、
ひょっとすると、さまに、怨念がほどけるかもしれない。
ほどけてから
銀狼を白石もろとも、打ち砕いては
銀狼の「魂」ごと、消滅してしまう。
山の神の怨念は、銀狼をくるしめるために
「不死」を与えている。
そのおかげで、体がきえうせても、その魂が消滅することがない。
だが、そのままでは、銀狼の魂の殻の中にいづなが . . . 本文を読む