伊吹山には鬼が居る。人はそれを高麗童子と呼んでいる。高麗とは外つ国の事である。うすく青い瞳を持ち、ちじれた髪は僅かに異種の血である茶色を呈していた。其の容貌を垣間見た人は高麗童子と彼を呼んだ。これが、大台ケ原から居を移した光来童子であるとは、知る人はいなかった。
「かなえ」心に刻んだ思いのままを口に乗せると童子は空をあおいだ。瞳は空の色を移したかと思うほどに青い。双眸に浮かぶ一抹を孤独と呼ぶ。葵 . . . 本文を読む
アマロは英吉利のケジントンにくらしていた。伯爵の爵位の通り、絢爛な生活は裕福としかいえない。このアマロが、ケジントンからリバプール行きの船にのったのは、年老いた母の病の報をしったゆえである。アマロは三日の船旅の後、母にあえるはずであった。家に残した七つの娘と五つの息子の事がきになったが、長の別れではない。この後には長の別れになるだろう母に、せめて一目合いたいと、アマロは単身、故郷に赴く法を船旅にし . . . 本文を読む
「さて・・・」男がアマロを見る。目はもう一度上から下までアロマを舐める。「お前の心がけ次第だが。他にやるにはおしい・・」アマロの美貌をして、アマロを独占したくなると男はもらした。だれかれお構いなく伽の相手を勤めるよりは、この男だけの女で居た方が良いだろうと、男はアマロをなだめてみたのか、おどしてみたのか。「どっちにしろ・・」答えかけてアマロはやめた。陵辱にかわりはしない。こういえば、男の癇がたつ。 . . . 本文を読む
ロァの横をすり抜けた女に惜別の翳り一つも見せぬまま、ロァは新しい女を部屋の中に迎え入れるに大げさすぎる礼を見せた。ドアのノブを押さえ大きく開くと、胸元に左手をあて、右手の平で部屋の中へどうぞとアマロをいざなう。「公爵夫人。どうぞ、中に」もちろん、今あったばかりのロァがアマロの身分をしるわけはない。多少なり着衣の品が良く、その好みもアマロの気品につりあうものであった。アマロの外見上をいうか、あるいは . . . 本文を読む
「ロァ」居高々に呼び捨てにしてみせると、一気にいいつのってみせた。「私は、公爵夫人ではありませんことよ。伯爵夫人でしたの。もっとも、海賊風情の愛人に身をおとすのですから、どちらでも、よいことですけれど」棘のある言葉をぶつけられたロァは、怒るかと思った。だが、「おまえは、俺を充分にそそる女だ」男にこびることない、女の自尊心の高さをしてロァはいう。「俺は鼻っ柱の強い女を、こいつでくみしく男だ。それを今 . . . 本文を読む
「おや?おきたかね?」ドアを開けて入ってきたロァはアマロにわらいかける。女を牛耳った男の余裕がただようと、アマロはさっき伯爵夫人の名にあらぬ自分の変貌ぶりをおもいかえさせられていた。思い返しても身の毛がよだつはずであるのに、アマロの膚は赤らみ上気のさまをあらわしはじめている。「ふん?」女の中におきた変革が何を物語るか、嫌と云うほど、女を女に替えてきたロァには、語るに落ちたアマロの主張である。「お前 . . . 本文を読む
品物のように売買される惨めさと、このまま下にいて、何人も男の欲望を拭う惨めさとどっちがましだろうか?どのみち、先の運命はかわりはしない。どのみち、これ以上惨めになんかなりゃしない。「でも、ジニーはどうだろう?」人の命を犠牲にして生きてゆく海賊なんかに抱かれてるより、見知らぬ異国であっても、精一杯、稼いだ金で買われるなら、この方が自分を腐敗させはしない。いずれアマロもジニーと同じ運命ではある。ならば . . . 本文を読む
アマロが部屋に戻るとロァがまっていた。「いい風だったろう?」甲板をほっつき歩いたロァの仔猫をなであげるとロァは葉巻にひをつけた。アマロはロァにひきよせられると、目を閉じた。「ふううん」ロァの次の動作でアマロを求めだすと判っているアマロであることを確認させるに充分なアマロであるが、「おまえは・・」ロァの心に嫉妬を湧かせるにも充分なアマロでもあった。「この葉巻の匂いに何をかさねあわせている?」アマロが . . . 本文を読む
「どちらかと云うのは、何と何なんだろうかね?」「あ・・」シュタルトの事を話そうとしたアマロが急にぞっとした思いにつつまれたのはアマロもまた、いつかシュタルトの船に連れてゆかれる事を恐れるせいだ。「おしゃべりな男にどこまできかされた?」「シュ・・、シュタルトのことを・・・」「なるほどな・・」アマロの身を包むおびえが一層理解できる。「それで、一層、お前はジニーのように俺に捨てられる事に脅えたというわけ . . . 本文を読む
「ジニーにあわせてほしい」ロァは背を廻しアマロの表情をうかがいみた。「俺は、本当にジニーのことなぞ・・」アマロはストップといった。「あなたのことじゃないのよ。ロァ。是はケジントンの私への気持ちがどうであるかを気にかけるあなたなら判る事よね?私もジニーのあなたへの気持ちがしりたいの。どうにも成らないこの先であっても、せめて、ジニーの心に」後はアマロの涙の声で潰れた。「アマロ?」ううん、とアマロは首を . . . 本文を読む
自分の心を覗き込む事を止めて目の前のジニーに真っ直ぐ顔を向けると待っていたかのようにジニーの方が切り出した。「で、わざわざ、こんな女に話があるっていってたのはなんなのさ?海に飛び込むのをみていてくれってことなら、さっさとおやり。さっきも言ったとおり私はとめやしないよ。気紛れだったと気がついても飛び込んじまえばもう、完了さあ」語るに落ちたともいおうか。アマロはジニーにもある死への憧憬をかぎとった。「 . . . 本文を読む
「私の場所を奪った女が、ロァを愛しもせず、あの馬鹿はそんな女に本気になってる。そんな女にどっちにしたいか?なんて、きかれる事がどんなに惨めか判るかい?よほど、ロァを独り占めしたがってシュタルトに売っ払われたほうが、せいせいするよ。だって、それなら、少なくとも、あんたはロァに本気だろう?」「ジニー。違う。そうじゃない。だって、考えてみてよ。私もいつ下にいけといわれるか判らないのよ」「それが?それがど . . . 本文を読む
「それで、元の話ってのは要するに、あんたがロァの女でい続けられる限りは私にシュタルトか、此処かを選択させてやるってことだったよね?」「そうね。そういうことね」ロァの女でいれる限りにおいては、ジニーの選択をかなえることはできる。「ふーん。あんた。その約束は当然ロァも承諾しているんだよね?」「あたりまえでしょ」約束も取り付けず、ジニーに話すわけにはいかない。少し、癇に障ったらしくアマロの顔が切りつまり . . . 本文を読む
突然。殺戮への準備を知らせるドラがなる。女をいたぶっていた男たちがあわただしくうごきはじめる。「襲撃だよ。船をみつけたんだ」捨て置かれたあの娘の側ににじり寄るとジニーはその悲惨さに目をふせたくなる。口の中の抵抗をふさいだだけであきたらず、娘の手は縛り上げられ、括られた部分は娘の抵抗の様を物語る擦り傷から血がにじみだしている。「あんた。こんなめにあっても・・」娘の口からぼろ布をひっぱりだしてやると、 . . . 本文を読む
船倉の中に新たに捉えられた女達が、一塊になってふるえている。すでに男達の欲望を舐めさせられた初めの虜囚を先輩と呼ぶのは滑稽だが、此処で女が海賊達に何を差し出せばいいか知っている女を先達とよぶしかないかもしれない。塊り、震える女達にかける言葉なぞあるわけがない。先達である女たちが黙っていても、男達に生き延びる術が何であるかを、いやおうなくその身体におしえられる。それを敢えて同じ女の口からいわなければ . . . 本文を読む