一方、
不知火である。
波陀羅の子がいる山科まで足を伸ばす事になるとは
夢にも思っていなかった不知火であるが、
こうなったら仕方がないのと旅仕度を整えると早速出かけて行った。
だが、半日も歩かぬ内に不知火は引き返そうか、
そのまま、山科まで行こうか、迷う事になった。
と、いうのも、向こうから歩んできた年の頃、二十ぐらいの女子が
大きく息をついて傍らの大きな石に持たれかかったのだが、
それがかなり辛そうに見えて傍まで駈け寄ろうとした不知火だった。
が、不知火はうっと息を飲んで立ち止まってしまったのである。
「これは!?波陀羅の子?」
いやな気配がしなくもない。
それもその筈で感じた不安のままその女子を見透かしてみれば
澄明が言っていたような反古界がある。
さてはと不知火も女子の魂の様を見てみれば、その酷さに目を覆いたくなった。
余程、声を懸けようか?何処に行くのか!?何故、こんな所に来たのか?
孕んでいるらしい女子の体を気遣う振りをして同道して、
探って見ようか等と考えている内に女子は息が整うたのか、
立ち上がると歩みだしていった。
「腹の子まで、双神の生贄に捧げるつもりか?」
不知火は女子が行く先を双神の所と踏んだ。
女子を付ければ、双神の社が現われるやもしれぬと考えると
その事を善嬉と白銅に向けて言霊を飛ばしておいて
不知火はそれが間違いなく波陀羅の子である事を確かめる事も含め、
そして、それが正解であったとしても
兄である一樹がどうしているのかを見定めに行くしかなかったのである。
『一樹とやらも、双神の元にいった?そう考えれば、女子が後を追ったのかも知れぬ』
不知火は思い迷いながら山科の町にいる陰陽師を訪ねると決めた。
事の真偽をはっきりさせる為には
やはり、山科に向かって歩み出すしかないのである。
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