憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

邪宗の双神・11   白蛇抄第6話

2022-12-22 11:20:16 | 邪宗の双神   白蛇抄第6話

「伽羅。我は、邪鬼丸が死んだ事なぞとうに知っておる」
「そうか。邪鬼丸は阿呆じゃったからとうとう、あのような・・・」
何おか話そうとしている伽羅の言葉を波陀羅は遮った。
「どう死んだかも、いつ死んだかも、我は知っている」
「え?そう・・・」
「そうじゃ。何故なら、我が邪鬼丸を殺した本人じゃ」
波陀羅が告げた事実に、
伽羅が猛り狂うて挑みかかって来るかと思っていた波陀羅は
伽羅の撃を払おうと身構えていた。
一度は新羅の手に掛って仇を果たされてしまおうとまで覚悟していた波陀羅も
今は二人を救えないとしても
せめても一樹の子を身篭った比佐乃を案じ、
子のてて親である一樹の心にてて親らしい思い一つでも沸かさせてやらねば
邪淫の果てに生を得た子が憐れであり、
なによりも当の一樹と比佐乃が人として生き得る幸せを、
親の思いになる幸を味あわせてやらねば、
このまま、地獄に落ちるは本当の地獄でしかないと思っていた。
それが叶うまでは波陀羅も決して死ねないと伽羅の激に構えていたのである。
が、
「波陀羅。そうやって構える所を見ると本の事の様じゃの?
どの様になってそうなったのか?我に話してくるるの?の?我が家に、来や」
波陀羅を責めるよりも波陀羅が邪鬼丸を殺さざるを得なかった理由を
そこに至った理由を聞かせてくれと言うのである。
「良人もおろう?そこで、昔の色の事なぞ・・・」
「我は独りじゃ。我も色々あって今は我の事を知る者なぞおらぬじゃろう」
「聞くのは酷いぞや。それに我はお前に討たれてやれぬに。
我の身勝手をきけば・・・、お前が我を討ちに来るようになるに。
我ももう・・・殺生はしとうない」
伽羅が激情に身を窶して波陀羅を襲う事になれば、
嫌でも今は生き延びたい波陀羅が
伽羅を逆に葬り去らねばならなくなる事を言うのである。
「そんな事はせぬ。せぬ訳も我はお前に話したくもある。のう?来や」
再三に渉り言われて波陀羅もやっと頷くと、
伽羅の後を突いて伽羅の棲家まで木岐をわたっていったのである。

伽羅の住処に入りきた波陀羅はその家を眺め回した。
凡そ男臭い物は何もなく、
それが伽羅が連れ合いを無くして久しいと波陀羅に教えていた。
「伽羅の連れ合いはいつ亡くなった?」
尋ねた波陀羅に
「伽羅は邪鬼の事が忘れられなんだに、今以って独り身じゃ」
伽羅は答えた。
余りに意外な返事に、波陀羅も流石にきづつない思いを隠す術もなく
「す・・・すまなんだ」
と、言う事しかできなかった。
「謝らずともよいに。謝られたら恨み言の一つもいえんようになる」
「・・・・・」
「邪鬼はひどい色狂いじゃったに。いつか、祟り目がくるとは思うておった。
話しとうもなかろう事じゃろうが、どういう経緯で邪鬼丸を手にかけたか、
お前が今頃なんでこんな所に現われたか?色々、話して聞かせてくれるの?」
こくりと頷いた波陀羅が、最初に話したのは、
邪鬼丸に捨てられた恨みを晴らしたいが為に、邪宗の宗門をくぐった事からだった。
邪宗と判った時には全てが遅かったのである。
織絵を死に至らしめた陽道と、
その織絵の身体を乗っ取って恋の道行きを気取っている内に子を孕み、
立つ瀬が無くなってしまうと邪鬼丸をだしにして、
それで、すんなりと陽道と夫婦に納まる事ができたのも束の間
波陀羅自身の手で陽道を潰えてしまったのだと、話すところで、伽羅が一言
「愛されたかったのじゃの」
と、呟いた。
伽羅の言葉に涙が落ちそうになるのを堪えながら
波陀羅は、その陽道の身体を同門の男鬼に乗っ取らせたのが
運の尽きだったと悲しい顔で笑った。
邪宗の双神が独鈷を使いにして何をさせたかったのか、判った時には
我が子と思う二人の子も、波陀羅自身のその魂までも、蝕まれていたのである。
それは丸で蜘蛛の餌食にあった虫けらさながら
体液を吸われ、血を吸われ、生命を吸われて行く様に似てもいた。
「な!?なんで?そんなになるまで気がつかなんだんじゃ?」
伽羅も恐ろしげに、尋ねて来た。
「性魔じゃ。マントラを唱えさせ性の根源力を吸い尽くしよる。
一樹も比佐のもその術に落ちて、
悦楽の高みが欲しいだけの事に、兄妹で睦みあう畜生道におちて・・ひ・・ひ」
「どうした?という?」
「比佐乃は・・孕みよる」
「おまえはそれをほうって、どうしてここに?」
「陽道の身体ごと不動明王の呪詛の力を借り畳針を独鈷に突き通してやった。
そうなれば我の正体も暴かれよう?
我ももう織絵の中になぞおりとう無かった。
織絵の身体を捨てて双神に一討でもくれてやろうと森羅山に入ったのに
社がのうなっておるのじゃ」
「お前。そうやって激情に身を流されてばかり・・・。
!?待て、森羅山?というたの?森羅山に社など始めから、ないに」
「あるのじゃ。あるのに、奴等があらわさない」
それが嘘ではない死の覚悟がみえた。
伽羅は波陀羅の覚悟を見て取ると、
死に場所をなくした女鬼の活路を見出してやりたかった。
おまえはそれでよかったのだというてやりたかったし、
こんな伽羅の鬱積をすくうてくれてもおると告げたかった。
「波陀羅。お前のその双神の話しを聞いた時にの、
邪鬼が命をおとして良かったと思うた。
お前にはすまぬが一樹らの様に双神の手におちていたら
もっとむごかったやもしれぬと思えてな。
それに我にもお前と同じ様に我が子と思う子がおってな。
それがやはり、姉弟での。ついぞ玉のような元気な女子の子をうんだがの。
それがこともの仲のよい事がよほど、幸せな事じゃ思うたら、
なんぞ心の堰がとれたようじゃ」
淋しげに伽羅の幸せに頷いた波陀羅に伽羅の思いは届いたのであろうか?
「きついことを言うたの」
「いや、その通りじゃ。己のした事が返ってきた事にすぎん」
「のう・・・お前」
「なんじゃ?」
「澄明という女陰陽師を頼ってみぬか?
成せる事かどうか判らぬが、あれなら一樹と比佐乃を救い出してくれるかもしれぬ」
「女陰陽師?」
「ああ。我の子とも思う悪童丸を浮かぶ瀬に立たせてくれおった女子じゃ。
悪童丸もてて親になっておるに幼名を改むるに
澄明の字を一つ貰い受け様ともおもうておる。
その許しも得たくもある。その折を作るに、お前の事を話してみよう」
「無駄じゃろう。陰陽師なぞが、役に立つような相手ではない」
「かもしれんが」
首を振る波陀羅が心の底に何かを決意していたのさえ伽羅が知る由はなかった。
寝床を共にして夜遅くまで波陀羅と伽羅の二人の話しは続いた。
やがて、朝になると波陀羅は伽羅の眠っている内に伽羅の元を黙って立ち去った
無論、伽羅は波陀羅の行く当ての無いを、察するゆえ、
話の中で何度か、ここに居ればいいと勧めたのであるが、
それも甲斐の無い事になってしまったのである。



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