「まず、いづなの行方をお話します」
雷神のいぶかしげな顔が縦にゆれた。
「今、いづなは、銀狼に転生しています」
雷神の瞳が大きくみひらかれると、大きな涙があふれ、頬に伝った。
「い・・いづな・・は、死・・死んでしまったということなのだな?何故?」
霊獣であるいづなが、死ぬなど、希なことである。
「私が・・電撃を?」
思い当たることはそれしかない。
澄明の眼がかすかに、地をみつめた。
「いいえ。違います。ですが、いづなが、銀狼に生まれ変わったのは貴方のせいです。
そして、銀狼に生まれ変わったいづなは、山の神の呪詛をうけ、死ぬこともできず、もがきくるしんでいます」
澄明の言葉は雷神にいくつもの、混乱を生じさせていた。
「山の神の呪詛?
いや、待て。
死ぬこともできず?
死ぬほうが良いほどくるしんでいるということか?
いやいや、待て待て・・。
何故、銀狼に生まれ変わってしまったのだ?それが、なぜ、私のせいなのか?」
順序を追って話していかなければ、わからないことではあるが、
いづなが、銀狼に転生した、そもそも因である雷神の呪詛を発祥させた雷神の横恋慕を思い出してもらわなければならない。
「貴方は水の精霊に懸想したことがありますね?」
哀しい記憶である。
また、そのために、榛の木にやつあたりをして、結果的に榛の木に閉じ込められてしまい、その長い年月の果てにいづなを失った。
「それが、いづなと、なんの関係がある」
胸の中の傷をつつきまわされる痛みにたえかね、雷神は、その答えをはぐらかそうとしていた。
「覚えていらっしゃるのなら、けっこうです。その時、いづなが、あなたの邪魔になった。そうですね?」
ぐうと喉の奥にうなり声をこらえながら、雷神の瞳は怒りにふるえていた。
それは、澄明の言い方にたいしてなのか、自分のせいだとおもいあたったせいか。
「いづなをうとましく思ったのは事実だ。だが、そのせいで、いづなが、死んだというのか?」
大きな瞳が情けなさに揺れうごめいていた。
「いづなが、死んだ理由は、簡単です。
貴方がいなくなって、いづなは、雷を捕食しなかったせいです。
ときおり、自然界では、森羅万象の差配で、貴方の力でなく、雷ににた根源力が生じていたはずですが、
いづなは、それをとりこもうとしなったのです」
「な・・なんで・・・」
「貴方が消滅したのは、自分のせいだと思ったのだとおもいます」
拳を握ると目頭あたりをおさえつけた雷神のその手の隙間から滂沱の雫がこぼれおちていた。
「それで・・私のせいか・・」
納得を諦めと共に理解した雷神であったが
「いいえ、そうではありません」
澄明の言及が続いた。
「いづなが死んだ理由は確かにそうでしょう。
ですが、問題は銀狼に転生したことであり、
銀狼に転生させられるために、いづなは、飢え死にを選ぶ思いにかりたてられたということです」
拳で涙をぬぐうと雷神は澄明をみつめかえした。
「銀狼に転生したことが、良くないということなのだな?それは、いかに?」
「貴方がしくんだのです」
「え?」
戸惑いのまま、雷神はいづなとの過去をおもいなおしていた。
だが、あえて、いづなに呪詛をかけてしまったわけでない雷神におもいあたることがない。
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