「ひのえ・・」
白銅が呼ぶ。
「わしは・・・山の神はたつ子さえ戻ってくれば
銀狼への憎しみを昇華できるとおもう」
白銅はなにゆえ、そう思うのであろうか?
「山の神は、たつ子が戻ってきても、なお
銀狼のー愛するものを自分こそが貶め苦しむ転生ーを見て
山の神の胸内はすくかもしれぬが
次にたつ子とおなじ苦しみをあじわうものがでてくるということにきがつこう?」
「そう・・ですね」
「たつ子さえ、助かればそれでいい・・と、思うだろうか?
たつ子のような苦しみをあじあわせてはいけない
くりかえさせてはいけないときがつけば
山の神とて、銀狼の思いをくみとって、赦し、愛してやるしかないときがつこう」
白銅のいうとおりであろう。
「山の神は、変わるでしょうか?」
不安はそこにある。
「山の神といえど、すぐには、変えられぬ思いであるとはおもう。
だが、それをかえてこそ、山の神自身の救いになるのではないか?」
誰をかを憎む無灯明地獄にいるのは山の神のほうなのかもしれない。
「それも、山の神は自分でもきがついていない。
だが、
嫌でも、自然は曲がったものを矯正するように動くものだ」
いまさらながら、陰陽の紋を思う。
白あらば同じだけ黒がある。
山の神の憎しみという黒がふえれば、
どこかで同じだけ、それを打ち消していく白が継ぎ足される。
「かむはかりにまかせるしかない・・だろう?」
そうしかないかと覚悟すれば
いっそう、一か八かの、銀狼の救出が悲しい。
「ひのえ・・それも、勝算があるのではないか?」
澄明の心をよみとるに聡いは夫ゆえであろうか。
「どういうことでしょう?」
「へたに山の神の呪詛をときはなたぬほうがよいとうことだ」
それは、何故だろう?
「考えてもみろ。
山の神の呪詛は銀狼を不死にしておるのだぞ」
「あっ!!」
それは、言い換えれば
死にえない銀狼を打ち砕けば
器をなくしたいずなの魂が浮上するということでもある。
あとは、いずなの魂がはいりこむ器があればよいということになる。
それは、太古の昔 器をもとむる魂と命のかけらが
電撃により和合をはたしえ、ひとつの生命体をうみだしたのににている。
「ああ・・」
電撃を与えたのは、ほかならぬ雷神であろう。
「おそらく、一人でさびしい雷神の思いが命の芯になり・・」
いずなという生命体をつくりだしたのであれば
「いずなとして、よみがえってくるということですね?」
白銅は首をかしげていた。
あくまでも、推論でしかない。
「だが、それを信じるしかあるまいて」
たんに澄明の迷いを払拭しようとする白銅のつくり話でしかないかもしれない。
「いずれにせよ。このままでは、山の神もたつ子もすくわれぬ」
そして、銀狼も
ひいては 雷神も・・・救われぬのである。
やるしかない。
白銅の言葉を言霊として、発動させるためにも。
そう決めると澄明は雷神を振りかぶった。
「さきほど、話した手はずどおり・・・」
二人の会話の意味合いをつかめたのか、
それとも、いずなの消滅があるとするなら
わが手で、と、思うのか
雷神は黙したまま深くうなづいた。
「銀狼の元へ・・」
3人・・いや、雷神はおのが力でいくとみえて姿をくゆらせはじめていた。
2人を銀狼の元へおくりとどけようというのか
いつのまにやら黒い影があらわれていた。
そして、2人は銀狼の元へ飛ぶがごとくに運ばれていった。
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