いわゆる「企業向けPC」は,企業に大量導入されることが前提として開発される場合が多い.通常,企業向けPCは,Office系ソフトによる文書作成や,サーバのクライアントとして端末的に使用されるため,スタンドアロン的に使用されるコンシュマー向けのPCのように,高い処理能力やTVチューナー等は必要としない.またコンシュマー向けPCの場合,年賀状作成ソフトやビデオ編集ソフトなどがあらかじめプリインストールされている事があるが,企業向けPCの場合,それらの「家庭向け」「お楽しみ」ソフトは不要というよりも,じゃまとなる.このため,企業向けPCでは,必要最小限のソフトしかプレインストールされておらず,その分コンシュマー向けPCよりも値段が安くなっている.この他に,コンシュマー向けPCよりも,ハードウエアのメンテナンス性が重視されるが,逆にデザイン性は軽視される点や,WOLやネットワーク・ブートがほぼ必須となっている点など,企業向けPCにはコンシュマー向けPCとは異なる点は多い.
このような特徴を持つ企業向けPCを,大量に導入するケースにおいては,一台一台のPCの性能やそれに付属するオマケ機能よりも,1台当たりの導入(メンテ)コストがいかに安いか,すなわち,一定予算内でどれだけの数のPCを導入(運用)できるかが,ポイントとなる.
世界的に有名なPCメーカーDELLは,この「企業向けPC」の販売によって,巨大なPCメーカーとなったわけだが,彼らは自社のデスクトップPCを次のように分類している.
- ウルトラパフォーマンス:最高性能PC,3Dゲーマーや特殊用途向き
- ハイパフォーマンス:上級機PC
- スタンダード:中級機PC,標準的能力PC
- エントリー:初級機PC
- バリュー:最も安い(低機能,あるいは,一世代古い)PC,大量導入向き
上記の中でも特に,大量導入向けの「バリューPC」という分類名称は,他のPCメーカーでも採用されている.例えば
- 富士通 Web Mart: FMVバリューライン
- NEC Direct: ValueOne G
といった具合だ.主に大量導入する企業向けであるバリューPCにおいては,従来,ショップブランドを除いては,DELLとHPがシェアを争っていたが,最近では,富士通やNECが参入し,競争が激化している.
そのHPのCompaqブランドから,新たなバリューPCが登場した.驚くべきは,15インチ液晶モニタのセット価格が6万円台であることだ.
9月5日発売のHPの「Compaq Desktop dx2100 ST/CT 15インチモニタセット」は,下記のスペックを持つスモールファクタのデスクトップPCだ.
- CPU:Celeron D 336-2.80GHz
- メモリ:PC2-4200準拠DDR2 256MB
- チップセット:915GV Express
- HDD:SATA 40GB,7200RPM(キャンペーン中は,80GB)
- FDD:1.44MB
- 光学ドライブ:48x CD-ROM(キャンペーン中は,CD-R/DVDコンボ)
- マウス:PS/2 スクロール
- キーボード:PS/2 日本語109A
- OS:WindowsXP SP2 Home
- モニタ:シャープ 15インチXGA液晶『BL-T15G4-B』
- 保証:オンサイト1年,パーツ1年
- 税抜価格:¥59,800
- 配送料込み,税込み価格:¥65,940
2003年10月発売とやや古い15インチ液晶ではあるが,シャープといったブランド力のある液晶モニタをセットし,最新のチップセットである915GVを採用したマシンにしては,かなり安い価格設定だ.なお,FDDについては,カスタマイズすれば省略できる.その場合は,さらに2000円ほど安くなる.またシャープ製17インチSXGAモニタ「BL-173AHP」とのセットの場合,配送料込み,税込み価格は,¥71,190となる.差額は約5000円ほどだが,液晶のサイズも性能も,こちらの17インチの方が上なので,17インチモニタセットの方がお薦めだ.
ちなみにほぼ同スペックのバリューPCをDELLでカスタマイズしてみると…
- 本体:Dimension2400
- CPU:Celeron 2.6GHz
- メモリ:DDR 256MB
- チップセット:845GV
- HDD:EIDE 80GB
- FDD:1.44MB
- 光学ドライブ:CD-R/DVDコンボ
- マウス:USB オプティカル,ホイール
- キーボード:USB 日本語
- OS:WindowsXP SP2 Home
- モニタ:DELL エントリー17インチ液晶 E173FPc
- 保証:センドバック1年
- 税抜き価格:¥76,210
- 配送料込み,税込み価格:¥80,020
となった.上記のDimension2400のカスタマイズでは,モニタが17インチとなっているがエントリーレベルのモニタであり,またPCケースはスモールファクタではなく,マイクロタワーとなる.また見て頂ければわかるとおり,PC本体のパーツが古く,最新仕様とは言えない.ある意味では,バリューPCらしい,バリューPCだ.
このように,今回投入されたHPの新モデルは,DELLの同レベル機に対して,かなりのアドバンテージを持っている.DELLに強烈なライバル意識を持つHPとしては,DELL以上のコストパフォーマンスモデルを投入し,シェアを追い上げたいところなのだろう.ただ,このCompaq Desktop dx2100 ST/CTには,一つの謎がある.
実は,このCompaq Desktop dx2100 ST/CT,企業向けPCではないのだ.なぜか個人ユーザーのみ購入可能となっており,法人の購入ができない.ちなみにHPのデスクトップPCの場合,この機種以外のすべてのモデルにおいて,法人購入が可能となっている.
さらに,ほぼ同じスペックを持ち,企業購入が前提とされる(注:個人購入も可)HPの「Compaq Business Desktop dc5100 SF/CT 15インチモニタセット」のスペックは
- CPU:Celeron D 330-2.66GHz
- メモリ:DDR2 256MB
- チップセット:915GV Express
- HDD:SATA 40GB,7200RPM
- FDD:1.44MB
- 光学ドライブ:48x CD-ROM
- マウス:PS/2 スクロール
- キーボード:PS/2 日本語109A
- OS:WindowsXP SP2 Home
- モニタ:三菱 15インチ液晶『RDT154LM』(法人専用モデル)
- 保証:オンサイト1年,パーツ3年
- 税抜き価格:¥59,800
- 配送料込み,税込み価格:¥65,940
と,なんと同価格になっている.
キャンペーンを適用しない場合の「Compaq Desktop dx2100 ST/CT 15インチモニタセット」と,「Compaq Business Desktop dc5100 SF/CT 15インチモニタセット」の違いは
- CPUがCerelon Dの330(dc5100)か,336(dx2100)か
- モニタが三菱製(dc5100)か,シャープ製か(dx2100)か
- パーツ保証が3年(dc5100)か,1年(dx2100)か
- 個人または法人購入可能(dc5100)か,個人購入のみ(dx2100)か
- アプリなし(dc5100)か,アプリ1本あり(dx2100)か
と言った点のみだ.事実,この2機種の外見や公開されている内部写真を見比べてみればわかるが,この2機種はハード的には,ほぼ同じPCと考えて良さそうだ.だとすると,なぜHPは,これほどまでに似たPCを別々に販売しているのか?
おそらくHPは,今後,企業向けだけではなく,個人向けのバリューPCも売っていきたいのだろう.今回はそのテストとして,Compaq Business Desktop dc5100 SF/CTをコンシュマー向けバリューPCとしてパッケージングしたのが,Compaq Desktop dx2100 ST/CTではないだろうか?もしこれで成功すれば,同じバリューPCのハードベース(ベアボーン)を,企業向け(保証や保守の充実,ソフト無し)とコンシュマー向け(機能・性能を重視,ソフトの充実)にカスタマイズして,それぞれの系統で販売することも可能となるだろう.
ともあれ,今回のセットモデルの価格は衝撃的だ.今後もHPの動きには注目したい.そしてもう一つ.この機種と共に,1000台限定のキャンペーンではあるが,同じくHPのバリューPC「HP Business Desktop dx5150 MT/CT 17インチ液晶モニタセット」の,配送料込み・税込み¥65,100も見逃せない.こちらの液晶も,2003年12月下旬頃発売となっているので,古い機種ではあるが…
こうなるとショップブランドもうかうかしてはいられないと思う.HP,恐るべし…