
2013年作品 文庫版2016年出版
「イヤミスの女王」の名を確固たるものにし、
いまや直木賞候補にも名を連ねる芦沢央。
部屋の整理をしてたら当時買ったまま忘れてた本が出てきたので
なんとなく読んでみたら面白かった!!
目撃者はいなかった
リフォーム会社のダメ営業部員。
ある月に突然好成績を達成するが、それは自身の誤受注によるものだった。
ミスを隠蔽するために商品を自身で買い取る腹を決め、
運送業者を装って取引先へと向かう。
ダメな奴がミスを隠すのはよくある話とはいえ、
こんなに行動力のあるやつが営業で上手くいかないわけがない気がするがw
そして、取引先で交通事故を目撃したことがきっかけで
少しずつ追い詰められていく。
その過程が緊迫しすぎて、読んでいる間にも手に汗が滲んでしまった。
事故を目撃するというストーリーの蓋然性の低さを吹っ飛ばすほど
パズル的な伏線の組み方が面白い。
ありがとう、ばあば
輝かしい子役の世界に憧れていた杏を、ばあばは英才教育を施し夢を叶えるが
撮影で訪れた冬のホテルで杏はばあばをベランダに閉じ込めてしまう。
このままでは凍死はまぬがれない。
一体何が目的なのか。
最初にばあばがベランダに閉じ込められる場面から始まり、
過去の時系列へと戻る。
芸能という過酷な世界へ進むための努力は並大抵ではなく
幼少から押さえつけられることで自分を失っている杏の言葉は
何が本当で何が嘘か、読者には見抜けない。
そしてラスト1行で何が本当で何が嘘か判明した時の衝撃。
短編にぎっしり詰め込まれた伏線の細やかさが
もう一度読み直したときに美しく広がる様に惚れ惚れする!!
絵の中の男
浅宮二月なる女流画家。
たおやかな女性とは思えぬそのグロテスクな画風で高い評価を受けていたが、
あるときからまったく絵を描くことができなくなる。
周りからのプレッシャーに精神的に追い詰められていくなか、
ともに画家である夫の恭一を殺害し刑に服することとなる。
物語はかつて二月の世話をしていた画廊の店主である女性の口述で進んでいく。
凄絶な浅宮二月の人生のほとんどを見て取ったその女性。
一人の女性画家の凄絶な一生の話でもあり、
なぜ殺人を犯さなければならなかったのかのミステリでもある。
「同じ場面を見ても捉え方によって真逆の意味を導き出せる」というトリックは
風刺画などでよく見かける手法ではあるものの、
それを何重にも組み込んで深く読者を混乱させておきながら、
迷路のように最奥から出口へと誘導する文章の巧みさが
救いのない話の読後に得も言われぬ爽快感をもたらす。良作。
姉のように
罪を犯してしまった姉。
そのせいで妹としての様々な行動に対し周囲から不審の目が向けられる。
精神的に追い詰められていくなか、自身の子育てとも板挟みとなり
次第に限界を感じるようになる。
さすがにこれは実際に子供を育てたことがないと辛さに共感できん。
それでも主人公の苦悩を伝えきる文章力は流石。
ところどころに違和感を残しながら、うまく目をくらますかのように
読者にもフラストレーションを共感させていく。
そして一気に大きく放り投げるラスト。それと同時に驚愕させられる真相。
華麗で悪趣味なトリックに度肝を抜かれる。
許されようとは思いません
諒一は祖母の遺骨を持って、生地の村へと向かう。
かつて曾祖父を殺したことで「村十分」となり
弔うことすら許されなかった祖母。
なぜ余命わずかな曾祖父の命を奪う必要があったのか。
「村十分」とは村八分からさらに葬儀と火事の世話を除いたもの。
田舎の村社会の酷さがまざまざと描写される。
諒一は彼女の水絵とともに電車で祖母を弔いに向かうが
その過程で祖母との思い出を振り返るごとに、
大人になってから理解できる閉鎖社会の凄惨さが露わになっていく。
祖母の苦悩に対する諒一の共感と、考えるほどに深まっていく謎が、
水絵の聡明さによって救われていく流れが圧巻。
短編集としての多彩な舞台設定と、それに合わせた描写力の高さが素晴らしい。
「なぜ殺人を犯したか」が主眼になる作品が多いのがいかにも今風のミステリ。
当然ながら、そこには重厚な心理描写が存在し、
読者を納得させるだけの文章の圧力に唸らされる!!
満足度(星5個で満点)
文章 ★★★★☆
プロット ★★★★
トリック ★★★★