感想:満願 その1

2015-05-01 08:36:37 | ミステリ


『満願』米澤穂信 2014年出版



ブログの更新頻度を上げるため
ミステリ小説のカテゴリを追加します。
興味がある人もない人もよろしく。



アニメ『氷菓』を観ているあいだずっと
原作者である米澤穂信の名前を気に留めなかったのだけれど
それより前に読んだ『インシテミル』の作者だったんだな…。
たしかにヒロインの聖女っぷりや
古典ミステリを下敷きにしたストーリー展開が共通してた。


その米澤が一気に世間の評価を獲得した短編集がこれ。

第27回山本周五郎賞受賞
2015年版「このミステリーがすごい! 」第1位
2014「週刊文春ミステリーベスト10」 第1位
2015年版「ミステリーが読みたい! 」 第1位


すごいな!!
『インシテミル』も『古典部シリーズ』も
古典ミステリにかぶれたフレッシュな若者が書いた印象があったのだけれど
この一連の短編はいずれも社会派ミステリとして秀逸。


とりあえず六篇の作品をひとつずつ
あらすじと読んだ感想を。




『夜警』

交番に左遷された警部補が主人公。
物語は殉職した部下・川藤の葬儀の場面から始まる。
なぜ彼は死ななければならなかったのか。

取材にもとづいた交番勤務における業務の描写が興味深い。
コミュ障で小心者、自分のミスを隠したがる川藤のリアルさ。
「警官に向いていない」という言葉で一貫しているけれど
どこの職場にもいるダメ社員の姿と重なり、身につまされる。

後半は川藤の兄との対話で進み、謎の解明へ向かっていく。
お堅い警察業務、言うならば底辺にいる人々も含めて
リアルな人間観察によって成立しているお話。


『死人宿』

近くに自然発生するガス溜まりのせいで
自殺を願う客が最期に泊まる温泉宿。
その露天風呂の脱衣場で自殺をほのめかす遺書が見つかった。
当日の客は3人。果たして誰が書いたものか。
そしてその命を留めることができるのか。

探偵役は以前恋愛関係にあった証券マンと宿屋の仲居。
都会の日常に追われ、彼女のSOSに気付けなかった男と
過去に自分を助けなかった男への冷徹を残す女との
枯れたロマンス風味が温泉宿の舞台にマッチしていて面白い。

ミステリとしては
遺書の文脈から意図を推察していく国語のお勉強。
推理としての大きなスキームはないけれど
ちょっとパンチの効いた展開で胸に余韻を残す。


『柘榴』

類稀な美貌を持つさおりと、その夫で魔性の魅力を持つ成海、
二人の娘である夕子と月子。
4人をめぐる離婚と親権のお話。

物語はさおりと夕子の視点が交互に描かれる。
超美人母娘の愛憎劇かと思いきや
思考回路の違いから徐々に思惑が乖離していく過程を
シャープに抉っていく。

女性の心理の揺れ動くさまと
日常と非日常の境界にある情景描写の美しさが
谷崎潤一郎の筆致を思い起こさせる。

この短編はミステリではないけれど
登場人物ひとりひとりの心情を考えると
それぞれにたまらなくグッとくる妙作。文章力の勝利。



続きは明日!!
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