[ヤル気にさせた徳田校長さん]
◇アリ地獄からの脱出
四月の移動発表の日、彼が転任してくると知った瞬間、
職員室にパァーっと拍手が沸きおこった。
「あの校長が来てくれたら、ヤル気が起こる」
という噂をチラホラ聞いていたあたしたちは、
これでやっとアリ地獄から脱出できる!と泣いて喜んだのです。
えっ?どういう意味かって?
つまりそのくらい前のが大変だったわけ。
学校ってのは校長次第でガラリと変わるもんです。
教職員をヤル気にさせる校長はアッサリ気持ちよく休みをくれる。
年休は権利だからあたりまえのことなんだけど、
ダメな校長ほどイヤミの一つや二つ平気で言う。
◇「その子の一生を考えて」
自慢じゃないけど年休消化率ナンバー1のあたしは、
これ以上休んだら減給ですよというイエローカードの時に
こんなことがあった。
「校長先生、今から家庭裁判所へ行ってきます。
六年前に卒業した生徒が殺人事件を起こしてしまい、
今日がその審判なんです。
よく保健室に来ていて、気持ちのやさしい子やったのに、
家庭はめちゃくちゃ。どうしても気になるんで行きたいんです」
すると校長さんはいつものようにニッコリ微笑んでこう言った。
「教師に必要なものは情熱と感動と愛情だと思います。
その子の一生にかかわることですから、すぐ行ってあげて下さい」
それから二年間、少年院へ面会に行くたび、校長さんは、
あたしが学校を休みやすいようにあれこれ気を配ってくださった。
人間とは不思議な生きもので、「休むな!」と言われると、
サボってでも休みたくなるのに、
「ゆっくり休んでいいよ」と言われると、
その分、戻ったらがんばっちゃおう!と元気になるのよね。
「バテたら休む」じゃなくて、「バテる前に休む」ようになった先生たち。
あんなに暗くシラケていた職員室がいつのまにか明るい笑い声に包まれ、
授業へ行くセンセイたちの足取りが軽くなった。
◇ビビったこともあったけど
そうそうその頃ちょうど入学してきた純子さん。
さすがの校長さんも彼女にはビビっていたなぁ。
言葉がはっきり出ないせいか、腹を立てると肉だんごのような体を、
壁や棚にぶっつけ、校舎にあちこち穴をあけ、ガラスもぶち割った。
友だちとのケンカは毎日パワフルにこなすし、授業中でもよく歌い、
よく踊る。
「これじゃあ、うちの子が困る!」と、
他の生徒の保護者から苦情も続き、センセイたちはヘトヘト。
そのたび、どーしたらいいのだろうか?と職員会議。
小学校では5年生まで障害児学級にいた彼女だが、うちの中学校には
障害児学級はないので、普通学級に入ることになったらしい。
よーく見ていると…、純子さんとのつき合いに一番慣れていたのは、
保育園の頃から一緒に過ごしてきた教室の子どもたちだった。
「うるせー!」「ばか!」「どっかいけ!」とお互いをののしり合いながら、
本気でぶったり蹴飛ばしたりもしていたけれど、
いつの間にかゲラゲラ笑いながら遊んでいたもん。
授業も、理科の実験とか、家庭科の調理、音楽の合唱の時は、
ノリまくって場を盛り上げてたしね。
◇「先生は伸び伸び。責任は私が!」
どんなに事件が続いても、校長さんはドーンと構えて、
「先生方、伸び伸びやって下さい。何かあったら私が責任もちます。」
それしか言わなかった。
でも、ある日、彼女がふざけてナイフを振り回し、
強敵(?)の健一くんを脅した時だけは、
校長室に親子を呼んでビシッとお説教をした。
その日の放課後、校長さんは、小さな声で私にこう言った。
「純子さんは養護学校の方がいいと思いますか?
お母さんが転校させようかと悩んでいました」と。
私は正直に言った。
「校長先生、もしあの子がいなくなったら、
他の子どもたちががっかりしますよ。
あの子がいるから、この学校って活気があるのに…」
勉強、勉強と追い立てられている中学生にとって、
ひらがなもイマイチの純子さんが思いきり笑ったり、泣いたりして、
トラブルをふりまく日々は、刺激的で、理屈抜きにホッとするんだ。
これって、一緒にいないとわからないんだなー。
徳田校長さんが退職したその年、純子さんもこの中学校を卒業した。
急に静かになった校舎で、1・2年生たちが
「なんだかもの足りないよ」とつぶやいていたっけ。
「のびのび職員室を作ることで、教室ものびのびし、
いじめや仲間外れはぐっと減った。
(続く)
【草の根通信 2003年1月号】より
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