蒼い空の下で

文系男子の何気ない1日を記します。

夏のあとがき①—悲劇—

2016-09-05 22:24:19 | 2016年学童野球
連日連夜、寝付けない夜が続いた。
—9月5日 午前2時—
この日もそうだった。
前日の疲れから蒼空は大の字になって寝ている。
妻・しのぶも次男坊の歩夢もそれぞれ熟睡している。

「もしかしたら今日が最後になるのかも」
考えだせばきりがない。
弱気になる自分が確かにいた。

5時に起きて1階に降りると、和室には前泊した義母が既に起きていた。

挨拶をすませるとリビングの窓から少しだけ外を見た。
雨が降った形跡がある。
そうしている内に妻も起きて身支度を始める。
「2人を起こしてきて」と頼まれる。

我が家の長男及び次男、5時40分起床。

朝が苦手とはいえ
妻が作った朝食をなんとか食べ尽す。

そうしているうちに時間が過ぎ、いつものルーティンへと移る。
試合当日の朝に必ず家の前でする事。
キャッチボールからのピッチング練習。
そしてトスバッティングだ。

言っておくが、ちなみに家の前の売土地を勝手に使用しての身勝手なルーティンだ。

空を見上げると9月になったばかりだというのにやけに雲が高い。
ろうきん杯予選の頃を実感する。

いつも通り、蒼空とのルーティンを済ませると
隣近所の拓志が家からでてきた。
200m先に住むこはるの姿はまだない。

—6時45分に和田小グラウンド集合ー
欠席者なしの18名と監督との円陣が組まれ点呼が行われる。
その後、監督からの言葉が続く。

—これまで自分を支えてくれた人達に一生懸命な姿を見てもらおう—
この日の敗戦は6年生達の引退を意味し、監督自身の退任をも意味する。そして同時に私も会長職を辞さなければならない。ある意味、三位一体というやつか。
監督とは、呑んでは言い合いになり、しばしば衝突する事もあった。しかし、それが楽しい時間でもあった。この数年間は、友人と呑んでいる時間よりもはるかに充実していた。しのぶや雄介の妻・明美ちゃんからはよくからかわれたものだ。
「あんたらは3人は親友やな」っと。

準備体操を終えると、約1時間程の練習をグラウンドで行う。
いつも通りの冴えない練習風景だが、いたしかたない。

練習時間が経過するに連れ、少しずつ保護者の姿が見え始める。
保護者の自家用車数台に乗り込み、8時過ぎには中央球場に向けて出発。

—到着—
改装中の中央体育館の脇を通って球場の1塁側へと向かう。
グラウンドへ入ると大飯スリーアローズの姿がすでにあった。
相手の保護者とあいさつを済ませながら通り過ぎる。

まだ試合開始までは時間があったが、応援スタンドには少しずつ人が集まってきた。
応援してくれる人たちの顔ぶれも試合を重ねるにつれ覚えられるようになった。

ここから若狭和田のブルペンを見るとエースと正捕手の姿がある。
蒼空と星輝。
この2人はチームの生命線だ。

お互いにシートノックを終えると、試合はほぼ定刻とおり開始した。
先攻が若狭和田、そして後攻が大飯。
先頭バッターの星輝に対し、大飯の左腕ピッチャー・温喜が投げ入れるが
甘く入ったストライク球を見事に左中間へ打ち返し、二塁打を決める。
ここからノーアウト満塁の場面が演出された。
ここで登場した蒼空がショートへの内野安打を打って先制。
まだノーアウト満塁のチャンスが続いたが後続が経たれ、得点は1点のみ。

嫌な予感はしていた。

その裏、蒼空は先頭バッターの大暉にヒット打たれると
3四死球から1点を奪われ、なおもノーアウト満塁。

平静で見ていられる状況ではなかった。
私はここからカメラを手放して応援だけに集中した。

そのお陰か、この場面で奇跡が起こった。
5番・温喜の打球はショートライナー。
すかさずサード・瑞生に投げて飛び出したランナーをアウトに。
そして、そのままファーストへと送球してランナーをアウトにしてみせた。

いわゆるトリプルプレーというやつだ。

若狭和田ベンチとスタンドは一気に盛り上がる。
お互いにノーアウト満塁といった場面を作りながらも
1点ずつしか奪えなかったイニングだった。

続く2回から若狭和田・蒼空も大飯・温喜も調子を取り戻す。
そんな中、会場をどよめかせたのが3回の守備で魅せた亘佑の肩だった。
レフト前に転がった打球を捕球し、すかさずファーストへ矢のような送球をした。
ファーストの翔太も上手く足を延ばしてノーバウンドで捕球。
見事なレフトゴロが演出された。

しかし、いつもとは違う空気を帯びていた。
若狭和田には、初回の1点しか奪えていない焦りが少しずつ見えかけていた。
ランナーを出してもあと1本が飛び出さず残塁が続く。

—悪夢の5回裏—
それは2アウトランナーなしから起こってしまう。
エラーとヒットから出塁された2アウトランナー1・2塁の場面からだった。
ショートを守る睦生が2塁ランナーを気に掛け過ぎていたように見えた。
相手は右バッター。
私自身「牽制はセカンド・悠矢に任せろ」
と叫ぼうと思たが、なぜか止めてしまった。
その直後だった。
打球はショートの定位置へと飛ぶ。
やはり守備へ戻る睦生の体制は遅れた。
打球を処理して、ファーストへと送球したが、それは翔太が前に弾いた。
その間にランナーは一気に駆け抜け、逆転を許す。

この後も連打を浴びる。
相手4番・大心の気持ちの乗ったヒットを始め
ここへ来て3点を与えてしまう。

若狭和田のスタンドが静まり返った。

5回を終えたところで1対5。
ここで私は初回のピンチから置きっぱなしにしていたカメラを持ち直し
少しずつ撮り始めた。
私が負けを覚悟した瞬間だった。

6回の攻撃で、亘佑からホームランが飛び出すも得点はこれだけ。
その裏、3人で抑え2番・睦生からの好打順だと期待を寄せた時だった。

「試合終了」

球審の口から確かに聞こえた。
歓喜に沸く大飯スリーアローズ側。

そんな状況の中、若狭和田のメンバーは涙を拭いながら整列へと向かっていった。

若狭和田応援席にいた多くの人達の目にも同じものが見えた。

整列を終え、ベンチへと引き上げる子供達の中でひと際涙していたのが蒼空だった。
グラウンド整備に向かおうとした私は、泣きじゃくりながら引き上げてきた蒼空をつかまえて一言だけ言った。
「ほんまによう頑張った。」
悔しさのあまり、わずかな声しか絞りだせなかった。

応援席へ上がってみると、緊張の糸が切れた多くの保護者の姿がそこにはあった。

しばらく私はテントの中で休んだ。
連日連夜、眠れなかった事もあって少しだけ眠気が押し寄せてきた。

遠くから聞こえるセミの鳴き声がやけに気になり
それがなぜか悔しさを増させていた。
                          
                         つづく
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