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映画「新・喜びも悲しみも幾年月」

1986 松竹 130分 DVD 原作・脚本・監督 木下恵介 音楽 木下忠司 歌 加藤登紀子 編集 杉原よ志
出演 加藤剛 大原麗子 植木等 中井貴一 紺野美佐子 小坂一也 田中健 三崎千恵子

大ヒットした前作を30年近くたってリメイクするとはこれいかにと言いたいところだが、あえて「あの映画は良かったですなあ」などと言わせ、主題歌を歌わせたりするシーンは映画というものの持つ厳しい緊張感と異質な、木下が長年経験したTV界のリラックスした空気が出ている。2時間あまりの上映時間もかつてないことである。

ただ木下恵介らしさを感じさせる点は

1つは、いつでもその時の自分の関心事を、ずばりと表現していること。ここでは植木等と言うかなり自由気ままな、時としてはた迷惑な老人を登場させている。79年の「衝動殺人・息子よ」最後の作品「父」でも老人を描いていた。実子を持たない彼が養子をとってその子との関係に悩んだことを思い合わせると、老人として若い世代に言いたいことは沢山あったに違いない。

次には、かつて表現し損ねた世界をちゃんと描いている。「陸軍」で現場から去った彼が次にとりたかったのはたしか海軍少年兵の世界だったのでは。海上保安庁学校内の様子…美少年に寄るカメラ…最後には連合艦隊を彷彿とさせるシーンも。

大原麗子の奥さんはがみがみ言いつつ面倒見が良い。サッパリとして男っぽい点で高峰秀子と似ているかも。灯台に死に場所を求める女性(紺野美佐子)が現れるが、それが独身を嘆いていた灯台員(田中健)の妻になるというハッピーエンド。その彼女が自分には上等すぎると怯む田中健、本当は2枚目のはずだが、わざと分厚い眼鏡で隠している。

佐田啓二の遺児、中井貴一が格好いい役で登場するのも、父親へのオマージュと感じられる。

植木等が自分の生きがいだった「記念写真アルバム」の焼却を心優しい孫に託す。啄木の

潮かをる北の浜辺の
砂山のかの浜薔薇(はまなす)よ
今年も咲けるや

を口ずさみつつ、アルバムを火に投じようとして、思いとどまるシーンは美しい。木下自身、自分の作品を焼却したいという気持ちも、保存してほしいという気持ちも、両方あるのではなかろうか。

「天才木下恵介」で長部日出雄が彼は「根に持つ人」「決して忘れない人」であると言うが、それはこの作品にも表われているようだ。

植木等
→「黒い十人の女」8-8-23
→「ニッポン無責任時代」13-10-29

加藤剛
→「死闘の伝説」14-3-5
→「忍ぶ川」11-11-1

大原麗子
→「おはん」9-12-20
→「火の鳥」10-3-4

木下恵介
→2014年は2-6、2-26、3-2~3-10 の計7本
および2011-3-27


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