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映画「チャップリンの独裁者」


1940 米 125分 監督・脚本・主演 チャールズ・チャップリン 出演 ポーレット・ゴダード 午前十時の映画祭@松江SATY東宝
原題《The Great Dictator》

【作品紹介】チャップリンが、製作・監督・脚本・主演(二役)して痛烈にヒトラーの独裁政治を批判した作品。1939年9月、ドイツがポーランドに侵入し、第二次大戦が勃発したその月にこの映画の撮影を開始し、ドイツがフランスを屈服させた1940年に完成。第二次大戦初期のドイツが破竹の勢いで侵攻している時代に、ヒトラーを戯画化したこの映画は、製作中に脅迫が絶えなかったといわれる。チャップリンは仮想国トメニアの独裁者ヒンケルと、彼と瓜二つのユダヤ人の理髪師の二役をこなす。そして、世界制覇の野望に狂う独裁者の仮面をはぎ、ユダヤ人弾圧の非人道性を訴えた。さらに、全世界の人々に自由のために闘うことを呼びかける……。(以上ぴあより)

この作品にはチャプリンの全才能が注がれており、チャプリン世界の集大成といってもいいと思う。ヒトラーと瓜二つのユダヤ人の理髪師がいる。その卓抜なアイディアをどこから得たのだろう。考えられるのは、バイオリズムの近さだ。チャプリンは1889年4月16日生まれ、ヒトラーはその4日後、1889年4月20日の生まれ。もし男女なら結婚しても円満に添い遂げられそうな関係だ。チャプリンは遠く離れた米大陸にいても、この独裁者を内側から感じられ、かれが偉そうな振舞のかげで、実はこう感じ、こう考えているのだよ、と暴露したかったのでは。

以下思いつくままに。
☆米国で制作すると、情報の少なさもあり、想像が及ばず、どうしてもナチスの暴虐ぶりを控え目に描くようだ。ジョージ・スチーヴンスの「アンネの日記」にもそういう所がある。この映画では突撃隊の襲撃、ユダヤ人居住区(ゲットー)や収容所の様子が、かなり甘めに描かれている。収容所のベッドは実は十人に一床だったが、ここでは小ざっぱりと一人一床が与えられているなど。
☆人間は建前では自己犠牲とか人類愛とか立派なことを言っていてもいざとなると自分の命が一番大事。暗殺者を決めるくじ引き(ケーキ内の金貨)でそれが露呈する。その際、ドイツ高官もユダヤ人も行動は変わらない。
☆第一次大戦で床屋がドイツ将校の命を救ったように、ユダヤ人で軍務についた人は数多い(アンネ・フランクの父も)。
☆借金を申し込む間はユダヤ人を厚遇し、断られるやいなや、また虐待を始める。財政でも軍務でも、ユダヤ人はなくてはならぬ存在だったのに。
☆「金髪璧眼のアーリア人国家を黒髪黒目の独裁者が治める」と言う皮肉はヒトラーが実はユダヤ人であるという説を思い出させる。
☆ヒトラーはもと画学生で、多くのナチスのように芸術愛好家だったという。チャプリンのヒンケルは風船やカーテン相手に踊るし、バラの香をかぐし、肖像画を描かせ、ピアノも弾く。その曲目が、ついリストやブラームス(ユダヤ人作曲家)になるのは皮肉だ。
☆イタリアの国名がバクテリア(ばい菌)、宣伝相ゲッペルスがガーベッジ(ごみ)になるおかしさ。

自由のために立ち上がることを呼びかけたチャプリンは、この時点では楽観的に見えるが、結局はヒトラーは破れた。だが、この映画を作ったことで、CIAに目をつけられ、戦後のマッカーシズムの標的になり国を追われる。そして、当時の日本ではこの映画は公開されていないが、チャプリンの大好きだった日本人がこれを観ていたら、1940年9月の「日独伊三国協定」にもろ手を挙げて賛成することは、なかったろうに。

チャプリンの映画
  →「ライムライト」11-5-8
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