urt's nest

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eastern youth 『365歩のブルース』

2006年03月28日 | listening
当ブログをご覧の方には周知のことと思いますが、僕が最も愛するバンドであるイースタンユース、その新譜です。
吉野寿が言うには、このアルバムは一人の男の生活を切り取った、ストーリー・アルバムなのだそうです。確かにそうして聴いてみると、詞の連続性も感じられ、またそれにより、最初に通して聴いてた時の自分の感覚が、うまく説明されたのでした。
バラエティがない。
前作『DON QUIJOTE』の序盤、多種多様な音色の楽曲が生み出すドラマティックさが、このアルバムには欠けているように感じられたのでした。その印象はこのアルバムの、主人公の男の生活の連続性、という主要なコンセプトによる部分が大きかったのでしょう。

《明日に何があるか知る由も無いが/生きている「今日」を見据えている/悲しみは不意に溢れて来るけれど/溺れてちゃ走れないんだ》(「荒野に針路を取れ」)

「男」なんて言ったって、我々は結局そこに生活者としての吉野寿の姿を重ね合わせずにはいられないわけで。その「生活」のなかのさまざまな感情……悲しみ、憤り、あるいは温い諦観、絶望といったそれらが、「塊」と化した鉄壁の演奏と、より剥き出しになったように感じられる吉野の歌唱(特に引用部分は「絶唱」と言っていい凄みがあります)の中から、連続性を持って立ち現れる。その歌にあるリアリティは、前作やあるいは『感受性応答セヨ』にあったような作家性とは異なる、ソングライター・吉野寿と、表現者・イースタンユースの魅力を伝えるものだと思います。聴き込めば聴き込むほどに、この十曲に込められた感情の濃度が自分を侵食してくるような密度を持ったアルバムです。
アンセムの一つになるだろう「片道切符の歌」、硬質の詞と泣きのギターフレーズが存在感を放つスローナンバー「希望の丘」、幻視的な詞が凄まじい「夏の光」、クセのある曲が多いですが、まさにクセになる曲が多いとも言えましょう。

《みんな分かっている、全て分かっている事が/どうしても捨てられないから/探してばかりの、迷ってばかりの日々を/やっぱり今日も繰り返している》(「片道切符の歌」)

音楽を、自分にポジティヴな影響を与えてくれるものとして評価するならば、僕にとってのイースタンはやはり至上の音楽家だと、このフレーズに泣きながら再認識しました。

在東京初ライヴは来月のクアトロ。行くよ。

365歩のブルース365歩のブルース
eastern youth 吉野寿

曲名リスト
1. 荒野に進路を取れ
2. 片道切符の歌
3. ひとり道,風の道
4. 希望の丘
5. 非力なる者
6. 夏の光
7. 子羊と月明り
8. 赤い背中
9. 瓦の屋根に雪が降る
10. 365歩のブルース

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