LOST IN TIME 『時計』

先行シングル「蛍」に書いたような理由で、ロストインタイムのこの新しいアルバム、正直期待値はあまり高くありませんでした…

が。

結構いいぞ。「蛍」もシングルで聴いた時はそんなことなかったのに、なんか泣きそうになってしまった。シングルでは伏字になってたラストの「言えなかった言葉」がしっかり書いてあったり、細かい演出がニクイね。
基本的に路線は一緒だと思うのですが、なんだろ、偉そうな物言いになってしまいますが、表現力が追いついてきた感がありますね。『冬空と君の手』の路線が『群青』で達成されたように、前作『昨日のこと』の路線が見事に達成されたアルバムだと思います。「羽化」の歌詞とかすげえ。《生活の匂いのする　帰る場所を見つけたとき　少女は女に　変わりゆくのでしょう》って…。《気が付けば僕の翼は　大人という名の斧でへし折られて》（「翼」）なんて唄ってたのを思い返せば、見事に羽化した姿に見えますね（笑）。それがちゃんと聴ける唄になってるもんなあ。ストリングスとかバンドアレンジで、前作ではちょっと臭みの見えたロックバラードをしっかり自分たちのものにしてると思いました。ただ速い曲がややカタルシスに欠け、メリハリという点ではやや不満も。
個人的に面白いなあと思ったのは、「柊」の《背中に焼きついた罪のせいだろうか　昨日を捨てることが出来ない僕は》という歌詞。僕の最も好きなバンドの代表曲では、真夏の太陽の下の「背中に焼きついた罪」を唄っているのですが、ロストは冬の情景としてこれを描いたのですね。あとロストといえばブッチャーズですが、「サンカク」というブッチャーズが自称して言う（今は四角だけど）単語をタイトルに抱いた曲も。手触りはまったく違うのですが、ブッチャーズの叙情性を再解釈したもののようにも捉えられるような。先達へのリスペクトも感じられる気がするなあ。それも路線が煮詰まってきた余裕なのかもしれませんね。あと「冬空と君の手」の、最初「誰か」だったのが「僕」「君」に変わってくところが泣けた。あ、やべ、泣きそうだ今。

昔青春パンクというムーヴメントがありましたが（どうでもいいけど好きな音楽ジャンルを問われて「インディーズ」と答える奴はなんなんだ）、その中で居心地が悪そうだった彼らも（イベントなんかで、ロストの時だけフロアが静まり返ってるとか言われてたな）、しっかり自分らの表現を確立して、見合ったリスナを獲得したのではないでしょうか（徒花もたくさん咲きましたが、サンボマスターやロストを輩出したことだけでも意味のあることではありましたね）。
海北の声はCDで聴いてもいいですが、ライヴで聴きたいなあ…（実は未経験）。あとさあ、メガネは外しちゃったの…？　岸田といい…。分かった。松本素生が外したら俺も外すよ。それでいいんだろ？

時計 LOST IN TIME 曲名リスト 1. 羽化 2. はじまり 3. 柊 4. ライン 5. サンカク 6. 蛍 7. 残像 8. 証し 9. NEWS 10. 冬空と君の手 Amazonで詳しく見る by G-Tools