うらくつれづれ

折に触れて考えたこと ごまめの歯軋りですが

日本の官僚制度

2007-08-28 14:32:30 | 政治・行政
2007/3/16(金) 午後 5:51

総務省の放送政策課長が更迭された。NHKに対する政策をめぐり大臣と相違があったという。日本の官僚制度からは異例の事態です。もっとも、小泉政権では、郵政民営化にからみ、次官・局長級が更迭されましたが、課長レベルでは聞いたことがない。

日本の官僚制度は、キャリア官僚制と呼ばれ、身分を保証された公務員が政治信条に拘わらず政治家に使える仕組みです。終身雇用の枠組みのなかで人事は、公務員自身の自律にまかされた。特定の政権に偏った人事が行われれば、政権変更の場合に報復人事が行われることになり、制度は混乱するでしょう。実際には、政治家の意向にそった人事は行われてきたが、それは、定期人事異動の中で目立たない形で行われ手きた。今回の事例は、政治効果をねらい、見せしめ的に行われたという点が注目点です。

アメリカでは、大統領が交代する度、2、3千人程度の官僚が交代します。新たな大統領の政策を実施するため、それにふさわしい人材を任命するのです。政治任用制と呼ばれます。大統領自身は、直属の長官(Secretary)など要職公務員しか選びませんが、その専任された公務員がまた自らの意を体する部下を人選します。数ヶ月かかる大作業です。

行政組織は、職階制と呼ばれる組織原則により運営されます。これは、職務毎に責任と資格要件を明示し、それに相応する俸給を支払うというものです。また、行政組織の構成は大統領の専権で、新大統領が最初に発する行政命令は、新政権の組織改正です。政策目標があり、それを達成するための組織がある。そして、その後に、ふさわしい専門能力を持った人物が任命されるという訳です。

ちなみに、職階制は公務員に特有の制度ではなく、米国等では民間でも普通に見られる制度です。職務内容を明確に記述(job description)し、職責に応じた処遇をする制度は、経済のグローバル化により、日本でも広まりつつあります。もっとも、アメリカでも、企業トップは就任直前には、さまざまな職種を経験し、全体的視野を養う。また、職階制は、専門職をめぐる外部労働市場の成立にも関係します。アメリカでは、官僚、学者、民間企業間の転職が可能な労働市場が成立しています。

実は、この職階制は、占領下、米国により日本に持ち込まれた。公務員は、資格試験に合格しなければ課長等に昇進できず、試験勉強でパニックに陥ったという。現在も、国家公務員法には、職階制が規定されている。しかし、人事院規則により、実施が凍結されている。終身雇用制のなかで、さまざまな業務を経験する( job rotation )なかで人材育成をはかる制度とは、相容れないというのが理由です。

今回の更迭劇で、明らかになりつつあるのは、日本の政治による政策主導の方向が明確になりつつあり、官僚のあり方にも構造変化が起きていることでしょう。

明治以来、官吏は天皇の官吏とされ、議会に対し超然たる権力を行使してきた。戦後、国民全体への奉仕者へと、位置づけはコペルニクス的転換をしたが、国民意識は、従来の考えを引きずっていた。日本の官僚の中枢機能は、行政ではなく、実は政府提案という形で立法をすることでした。これには、西欧に類似する国家をつくる上で指導者としての役割をになった明治以来の伝統があったことは、想像に難くない。

日本の政治がイデオロギー闘争にあけくれていた時代、官僚は政策を主導し、政治家はコメンテーターでした。官僚の能力の判断基準は、政策を実現するために、いかに政界工作に長けているかでした。こうして、戦後の自由民主党の長期政権のなかで、官僚と自民党とは癒着していきました。

いま、戦後60年かかって国民側にも官僚側にも憲法が目指した本来の意識が生まれつつあるのではないか。政策は政治家が主導し、官僚はそれを誠実に実行する。政治と行政との分離です。

アメリカの方式は、大統領制のもとでの解答ですが、議員内閣制をとる豪州の制度も今後の官僚制を考える上で参考になります。

豪州では、省の組織とは別に、大臣は大臣室という組織があり、政治判断はそこで行います。例えば、議会での質疑、省は、毎日、行政関連情報を book という形式でまとめ大臣室に届けます。大臣は、その情報をもとに議会答弁を行いますが、これは、大臣の全責任のもとに行います。日本のように想定問答を、官僚がつくることはありません。省には、キャリア官僚の省長(department head )がおり、省の人事を含む管理権を行使します。これにより、政治と行政執行の中立性のバランスを確保しようとするものです。

職階制の精神もゆるやかな形で導入すべきでしょう。この点、すでに導入している先進的な民間企業の例を参考にすべきでしょう。科学技術の発展と社会の複雑化により、行政に求められる専門性が増大しています。少数の人間がすべてをカバーできる時代は終わりました。行政の質的な高度化が求められています。

最後に官僚への人材供給システムにも配慮が必要でしょう。社会の発展維持のために、優秀な人材を公務員に引き付けることは重要です。官僚を希望する人材の劣化の結果、損失を蒙るのは結局国民となるのでしょう。


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