ネット政変以降、小林権蔵初代内閣総理大臣の時から政界は旧勢力の妨害をけん制しながら、様々な分野で改革を推し進める。
だが国政レベルではネット直接民主制が軌道に乗ってきたが、地方議会単位(特に市町村)では人員不足と体制整備の準備不足から、未だ旧体制(代議員制・官僚主義)が残る地域が多数あった。
そのため、そう云うところは旧政党政治勢力がまだまだ健在であり、守旧派と呼ばれる彼らは根強い抵抗を示す。
それ故、そうした過去の反省と守旧派の巻き返しの動きを抑えるため、特にそれまでの官僚たちの前例至上主義と、(国民にたいしては)エリート意識からくる鼻持ちならないプライドを持ちながら、対外的には中韓やアメリカに対する低姿勢、特にアメリカに卑屈なほどの忖度と譲歩を示し続ける内弁慶な態度を早急に改める必要があった。
そんな日本の国内情勢(内情)に対し、中韓や、特にアメリカは極度な警戒を示す。
それは何故か?
日本のネット政変は極めて大きな政治変革といえ、国際的には国家クーデターや革命と同規模と認識されたから。
そして経験上、そう云う大きな変革を経た国は、外交的にも多大な変容をもたらす。
歴史的に見てロシア革命、中国革命など一連の共産化に留まらず、イラン革命、アフガン革命などの宗教勢力が政権を握る国々とは外交関係が悪化し、敵対したり欧米の云う事を聞かなくなる傾向が顕著に表れたからである。
当然日本に対しても、そう云う類の疑心暗鬼からくる警戒心を持つ。
だが日本は元々民主主義的仕組みや理念が根付いた国であり、その機構が間接民主主義から直接民主主義に移行しただけの国として、理不尽な暴力的混乱を招く勢力とは無縁の【強化民主主義】国とも少なからず認識されていた。
だから必ずしも政変=敵対国に変わると見なされる訳ではない。
それ故、日本の政策等、成り行きを心配し観察すると云うのがアメリカのスタンスであり、特に圧力をかけるでもなく、行く末をジッと見守る姿勢をとっていた。
(しかし内心では大きな衝撃を受け、威信を傷つけられたと思っている。特にCIAは特殊工作による日本の政変阻止に失敗した訳で、極めて大きな失点となったから。)
これ以上、下手な脅しや工作は反発を産むだけで、事態を静観するしかなかったと云うのが本当のところだろう。
日米の深い経済関係や安保など、出来るだけ壊したくない。
それが本音だから。
そんな微妙な空気を上手く活用するため、歴代の内閣、とりわけ外務省が大車輪の活躍を見せた。
経産省・防衛省等を巻き込み、団体戦でアメリカに挑み、外交・条約等の体制は現状維持、国内政治は独立独歩の政策を容認させた。
これは極めて画期的な事で、特に領海内の再開発による資源・エネルギー確保の承認は大きな得点となった。
どういう事か?
それは自前の資源獲得が明治以来の日本の悲願だったから。
日本が国力差を無視し無謀な太平洋戦争に突き進んだのも、アメリカの経済封鎖を突破し、東南アジアの石油や天然資源を確保するのが目的だった。
多大な犠牲を払いながらその確保に失敗、戦後アメリカ隷属状態に甘んじながら、一度は経済繁栄を築いたが、慢性的貿易摩擦から再び衰退を招く。
そんな状態に耐え続けていたが、ネット政変を契機に卑屈な忖度を止め、そう簡単に脅しに屈しない〘日本国民の意思〙という背景を武器に、強気に臨むことができるようになる。
幸いにもこの時のアメリカの責任者はjoker大統領。
彼は他人の意見を聞かないワンマンで、しかもアメリカファーストの政策に固執した。
日本を子分として、何が何でも従えるというよりも、日本に対し「自分の事は自分でやれ。アメリカの援助や負担を期待するな」との考えの人だった。
(実際彼は日本に対し、東アジアの軍事的危機に対応するため、自前の核を開発しても良いと容認すらしているのだ。
つまり日米安保に期待せず、日本ひとりで中国や北朝鮮と対峙せよ、と言っている。)
だから彼のプライドをくすぐり乍ら、日本が(表面上)アメリカ追従の姿勢をとることで、自国の防衛負担の軽減につながる日本の国力増は歓迎された。
これは思いがけない大きなチャンスである。
その結果、日本は自国の領海内に豊富に存在する天然ガスやレアメタルを開発するため、国営開発企業を新たに発足させ、彼らに採掘・商品化を急がせることができた。
また、日本の発明・技術開発による水素の新技術の活用や、エネルギー変換技術を商品化、流通体制も確立させる。
もちろんそれに伴う法整備は最速で行い、体制を整えたのは言うまでもない。
ただ、それでも新技術の活用や採掘から安定供給、流通を確立するのに、どう急いでも数年はかかる。
日本がアメリカから完全独立するにはもう少し時間がかかり、外交・産業の勃興など、あらゆる面で時間稼ぎが必要だった。
そうした事情を抱えた歴代内閣は、産業が落ちぶれ貧困化した状態から脱するため、限られた予算を再編し無駄な権益を削減しながら、民生にもできる限りシフトした。
旧体制の政府・財務省は財政赤字を理由に国民を締め付け、国の借金は国民の借金との大ウソを吐いていたが、口とは裏腹に増税に次ぐ増税を行いながら赤字財政体質には一切手をつけず、湯水の如く国家予算を増やし続けた。
だが歳出が歳入を上回る財政赤字をいつまでも続けられるわけもない。
国の資産が枯渇した時点で、本当にもう赤字は許されないのだ。
ネット政府がそんな状態にある財政復活等のさじ加減を、鯖江たち素人集団に無謀にも丸投げする訳もなく、優秀な経済専門家たちを集めた常設諮問機関からの助言や、AIによる分析・解析を活用、財政運用を支えた。
それでも最終的な判断は、やはり担当大臣や官僚等の政務官による決断・執行が中心となる。
だから鯖江のような絶妙な野性的『感』がものを云い、水を得た魚のように活躍した。
財務省主計局長佐藤鯖江は、そう云う立ち位置にあるのだ
。
そんな鯖江と平助を公私ともに繋ぐ役割を果たす『お目付け役』のカエデは遠慮が無い。
「平助!お前、昨日角刈り三人衆でキャバクラに行ったんだって?
一体何を考えてるの?
一国の首相がキャバクラだなんて。バッカじゃないの?」
「その一国の首相に『お前』って言うな!!それに行ったのはキャバクラじゃない!
カエデも知ってる『スナック たんぽぽ』にカラオケをしに行っただけだ!何処でスナックがキャバクラにすり替えられた?」
(少々深酒してしまったのは確かだけど。)とは言わなかった平助にカエデは、
「じゃァ、何で私も連れて行かない?私はお前のお目付け役だろ。調子に乗ってハメを外し過ぎたらどうするんだ?誰がフォローする?私しかしないじゃない?
ただでさえお調子者の平助なのに。」
「だからお前って言うな!
カエデが一緒にいたら、他のふたりと込み入った秘密の話ができないじゃないか!
大切な国家機密に関わる話がしたいのに。」
「カラオケをしながら国家機密ゥ~?スナックのママや、他のお客さんがいるのに?
嘘も大概にしなさい!バレバレなんだよ!!
大体、平助の何処に国家機密を語れる知能がある?
どうせ、となりに座るきれいなお姉さんに鼻の下を伸ばしていたんだろう?」
(ギクッ!)
「よ、余計なお世話だ!きれいなお姉さんなんていないし、カエデに関係無いし。」
「ホラ、図星だ!その尋常じゃない狼狽え様を見たら直ぐわかるんだよ。
それに私はご意見番であり、監視役だと云う事を忘れるんじゃない。」
「監視役ゥ?だったら余計にカエデなんか連れて行くか!」
お互い墓穴を掘り合う凸凹コンビだった。
つづく