uparupapapa 日記

今の日本の政治が嫌いです。
だからblogで訴えます。


ママチャリ総理大臣~時給1800円~【改】第14話 資源開発とジョーカー大統領とカエデ

2023-11-27 06:22:28 | 日記

 ネット政変以降、小林権蔵初代内閣総理大臣の時から政界は旧勢力の妨害をけん制しながら、様々な分野で改革を推し進める。

 だが国政レベルではネット直接民主制が軌道に乗ってきたが、地方議会単位(特に市町村)では人員不足と体制整備の準備不足から、未だ旧体制(代議員制・官僚主義)が残る地域が多数あった。

 そのため、そう云うところは旧政党政治勢力がまだまだ健在であり、守旧派と呼ばれる彼らは根強い抵抗を示す。

 それ故、そうした過去の反省と守旧派の巻き返しの動きを抑えるため、特にそれまでの官僚たちの前例至上主義と、(国民にたいしては)エリート意識からくる鼻持ちならないプライドを持ちながら、対外的には中韓やアメリカに対する低姿勢、特にアメリカに卑屈なほどの忖度と譲歩を示し続ける内弁慶な態度を早急に改める必要があった。

 そんな日本の国内情勢(内情)に対し、中韓や、特にアメリカは極度な警戒を示す。

 それは何故か?

 

 日本のネット政変は極めて大きな政治変革といえ、国際的には国家クーデターや革命と同規模と認識されたから。

 そして経験上、そう云う大きな変革を経た国は、外交的にも多大な変容をもたらす。

 歴史的に見てロシア革命、中国革命など一連の共産化に留まらず、イラン革命、アフガン革命などの宗教勢力が政権を握る国々とは外交関係が悪化し、敵対したり欧米の云う事を聞かなくなる傾向が顕著に表れたからである。

 

 当然日本に対しても、そう云うたぐいの疑心暗鬼からくる警戒心を持つ。

 だが日本は元々民主主義的仕組みや理念が根付いた国であり、その機構が間接民主主義から直接民主主義に移行しただけの国として、理不尽な暴力的混乱を招く勢力とは無縁の【強化民主主義】国とも少なからず認識されていた。

 だから必ずしも政変=敵対国に変わると見なされる訳ではない。

 

 それ故、日本の政策等、成り行きを心配し観察すると云うのがアメリカのスタンスであり、特に圧力をかけるでもなく、行く末をジッと見守る姿勢をとっていた。

 (しかし内心では大きな衝撃を受け、威信を傷つけられたと思っている。特にCIAは特殊工作による日本の政変阻止に失敗した訳で、極めて大きな失点となったから。)

 これ以上、下手な脅しや工作は反発を産むだけで、事態を静観するしかなかったと云うのが本当のところだろう。

 日米の深い経済関係や安保など、出来るだけ壊したくない。

 それが本音だから。

 

 

 そんな微妙な空気を上手く活用するため、歴代の内閣、とりわけ外務省が大車輪の活躍を見せた。

 経産省・防衛省等を巻き込み、団体戦でアメリカに挑み、外交・条約等の体制は現状維持、国内政治は独立独歩の政策を容認させた。

 これは極めて画期的な事で、特に領海内の再開発による資源・エネルギー確保の承認は大きな得点となった。

 

 どういう事か?

 

 それは自前の資源獲得が明治以来の日本の悲願だったから。

 

 日本が国力差を無視し無謀な太平洋戦争に突き進んだのも、アメリカの経済封鎖を突破し、東南アジアの石油や天然資源を確保するのが目的だった。

 

 多大な犠牲を払いながらその確保に失敗、戦後アメリカ隷属状態に甘んじながら、一度は経済繁栄を築いたが、慢性的貿易摩擦から再び衰退を招く。

 

 そんな状態に耐え続けていたが、ネット政変を契機に卑屈な忖度を止め、そう簡単に脅しに屈しない〘日本国民の意思〙という背景を武器に、強気に臨むことができるようになる。

 

 幸いにもこの時のアメリカの責任者はjokerジョーカー大統領。

 彼は他人の意見を聞かないワンマンで、しかもアメリカファーストの政策に固執した。

 日本を子分として、何が何でも従えるというよりも、日本に対し「自分の事は自分でやれ。アメリカの援助や負担を期待するな」との考えの人だった。

 (実際彼は日本に対し、東アジアの軍事的危機に対応するため、自前の核を開発しても良いと容認すらしているのだ。

つまり日米安保に期待せず、日本ひとりで中国や北朝鮮と対峙せよ、と言っている。)

 だから彼のプライドをくすぐり乍ら、日本が(表面上)アメリカ追従の姿勢をとることで、自国アメリカの防衛負担の軽減につながる日本の国力増は歓迎された。

 これは思いがけない大きなチャンスである。

 その結果、日本は自国の領海内に豊富に存在する天然ガスやレアメタルを開発するため、国営開発企業を新たに発足させ、彼らに採掘・商品化を急がせることができた。

 また、日本の発明・技術開発による水素の新技術の活用や、エネルギー変換技術を商品化、流通体制も確立させる。

 もちろんそれに伴う法整備は最速で行い、体制を整えたのは言うまでもない。

 

 ただ、それでも新技術の活用や採掘から安定供給、流通を確立するのに、どう急いでも数年はかかる。

 日本がアメリカから完全独立するにはもう少し時間がかかり、外交・産業の勃興など、あらゆる面で時間稼ぎが必要だった。

 

 そうした事情を抱えた歴代内閣は、産業が落ちぶれ貧困化した状態から脱するため、限られた予算を再編し無駄な権益を削減しながら、民生にもできる限りシフトした。

 

 旧体制の政府・財務省は財政赤字を理由に国民を締め付け、国の借金は国民の借金との大ウソを吐いていたが、口とは裏腹に増税に次ぐ増税を行いながら赤字財政体質には一切手をつけず、湯水の如く国家予算を増やし続けた。

だが歳出が歳入を上回る財政赤字をいつまでも続けられるわけもない。

 国の資産が枯渇した時点で、本当にもう赤字は許されないのだ。

 

 ネット政府がそんな状態にある財政復活等のさじ加減を、鯖江さばえたち素人集団に無謀にも丸投げする訳もなく、優秀な経済専門家たちを集めた常設諮問機関からの助言や、AIによる分析・解析を活用、財政運用を支えた。

 

 それでも最終的な判断は、やはり担当大臣や官僚等の政務官による決断・執行が中心となる。

 だから鯖江さばえのような絶妙な野性的『感』がものを云い、水を得た魚のように活躍した。

 財務省主計局長佐藤鯖江は、そう云う立ち位置にあるのだ

 

 

 

 そんな鯖江さばえと平助を公私ともに繋ぐ役割を果たす『お目付け役』のカエデは遠慮が無い。

 

「平助!お前、昨日角刈り三人衆でキャバクラに行ったんだって?

 一体何を考えてるの?

 一国の首相がキャバクラだなんて。バッカじゃないの?」

「その一国の首相に『お前』って言うな!!それに行ったのはキャバクラじゃない!

カエデも知ってる『スナック たんぽぽ』にカラオケをしに行っただけだ!何処でスナックがキャバクラにすり替えられた?」

(少々深酒してしまったのは確かだけど。)とは言わなかった平助にカエデは、

「じゃァ、何で私も連れて行かない?私はお前のお目付け役だろ。調子に乗ってハメを外し過ぎたらどうするんだ?誰がフォローする?私しかしないじゃない?

 ただでさえお調子者の平助なのに。」

「だからお前って言うな!

 カエデが一緒にいたら、他のふたりと込み入った秘密の話ができないじゃないか!

 大切な国家機密に関わる話がしたいのに。」

「カラオケをしながら国家機密ゥ~?スナックのママや、他のお客さんがいるのに?

 嘘も大概たいがいにしなさい!バレバレなんだよ!!

 大体、平助の何処に国家機密を語れる知能がある?

 どうせ、となりに座るきれいなお姉さんに鼻の下を伸ばしていたんだろう?」

(ギクッ!)

「よ、余計なお世話だ!きれいなお姉さんなんていないし、カエデに関係無いし。」

「ホラ、図星だ!その尋常じゃない狼狽うろたようを見たら直ぐわかるんだよ。

 それに私はご意見番であり、監視役だと云う事を忘れるんじゃない。」

「監視役ゥ?だったら余計にカエデなんか連れて行くか!」

 

 

 お互い墓穴を掘り合う凸凹コンビだった。

 

 

 

 

 

      つづく

 


ママチャリ総理大臣~時給1800円~【改】 第13話 角刈り三人衆

2023-11-23 05:13:20 | 日記

 平助の所信表明演説は、同期の閣僚や官僚たちにとっての初舞台であり、デビュー戦のスタート的意味合いを持っていた。

 彼らは一般公募をメインとし、先行実施された裁判員裁判の裁判員(陪審員)の規模を遥かに超える壮大な政治システム実験の真っ最中であり、ネット政変移行期の旧勢力(議員を中心にした政党勢力)の激烈な妨害工作や現在も続く批判は、素人集団の平助たちの脅威と言える。

 そうした厳しい状況に晒されながらも彼ら第4期生たちは(ネット政変以降の初代内閣を一期生と位置付けると、平助たちは4期生と言えるので)一年の研修の間、互いの絆を深め、職責の軽重や役割の違いはあれど、同じ舞台を作り上げる劇団員のような仲間意識を持つようになった。

 誤解を恐れず例えるなら、劇団と言うより学校祭の演劇のメンバーに近いというべきか?(他に似たような組織編成が見当たらないので、次元と責任の違いを無視した不適切な例えになったが、純粋な組織構成イメージを観察すると、これが一番連想し易いだろう)

 

 同じ学年から選抜され構成されたメンバーが、それまで別々のクラスでほぼ交流も無かったのに、短期間で同じ目的・目標を持った集団と化し、一団となり学年代表としての名誉を賭け(学校祭でただ一度の発表の場で劇の成功と言う)成すべきことを達成するために心をひとつにした(各自にとって)生涯ただ一度の組織と言えた。

 だからこの公募集団に目を戻して見ても、国家元首である内閣総理大臣の役割を担う竹藪平蔵が一番偉いのではなく、他の役者や裏方に至るまで、同じ目的を持った仲間たちが平等に国家経営の重責を担い、責任を分担する4期生としての自覚を共有するシステムが自然に出来上がってきていた。

 

 彼らは様々な年齢構成・性別・学歴・多種多様な職業経験を持つ(軍隊組織で云えば師団単位の)単独で如何なる作戦行動(行政執行)でも成せる可能巨大な集団と言えた。

 ただ階級は存在せず立場は皆平等であり、唯一の指揮・命令系統と云えば、国民からの直接の意見を集約し公表、政府に実行を促す『ネットアンケート管理委員会』からの指示・命令だけであった。

 

 そうした訳で、第一期生から第四期生まで試行錯誤が続いたが、多様な価値観を持つ者たちをひとつにまとめ上げるため、その研修内容はある共通の教訓を精神に浸透させるよう、徹底した反復訓練を重視した。

 

 即ちネット政府が最初に掲げた『学問のススメ』の理念に沿った、自由と平等の概念を刷り込み、ブレない信念を持つ事。

 更に決して増長・慢心しないよう、陽明学の理念を繰返し、人間として持つべき良識(生れながらに持つ道徳心)を身に沁み込ませ、慎ましい謙虚な姿勢と態度を持つよう徹底させた。

 これはネット政変以前の為政者たちの増長・慢心が政治の失敗・停滞を招いた反省から来ている。

 

 『学問ノススメ』だの、陽明学だの、随分古い教えを引っ張りだしてきたが、その意図は明治以降進められた西洋の学問が不要なエリート意識を増長させ、傲慢な個人主義が蔓延し、モラルの低下、国力減衰を招いた事への反省として、権力を持つ者は初心に帰らなければ再び同じ失敗を繰り返すとの強い危機感から強固なモラルと信念を植え付ける手段として採用されたのだった。

 

 

 とはいっても平助たちもただの人間。

 仕事の時と私生活は別。

 

 増長はしないが、身の丈の範囲内であまり〘慎ましくはない〙生活が継続された。

 

 

 平助には4期生の中から新たな親しい友人ができた。

 それは内閣官房長官の田之上 憲治(28)宅配の配達員出身、北海道。

 それに首相専属SPのひとり、[角刈りの杉本](30)、長野県出身。

 

 

 彼らとは職務上頻繁に接する機会が多く、性格的に気が合う者同志だったこともあり、公私共に親交を深める。

 そういった訳でお互い知り合って間もない研修初期の頃のある日、3人で夜の街に繰り出した。

 

 居酒屋でほろ酔い気分になり、お互いに突っ込んだ個人情報を話し合えるようになったころ、酔いが回り顔を赤くした田之上が杉本に聞く。

 「杉本さんはどうしてそんな特徴ある髪形にしてるんですか?」

 「自分は田之上さんより年上だけど、こうして3人でいる時は敬語で話さなくて良いよ。

 こうした場ではお互い肩肘張らず、もっとリラックスしていたいからね。

 ね、竹藪さん。」

 「僕も竹藪さんじゃなく、平蔵で良いよ。」

 「じゃぁ、平蔵さん、君も聞いてくれる?

 自分が角刈りなのは、自分の憧れの人が角刈りだったから、その人にあやかって同じ角刈りにしてるんだ。」

 「へぇ~、杉本さんにも憧れの人が居るんだ?で、どんな人?」

 「君たちはフレディ・マーキュリーって人、知ってる?」

 「フレディ・マーキュリーって、もしかしてあの伝説のボーカリスト?」

 「そう、良く知ってるね。【クイーン】ってイギリスの人気バンドでボーカルを担当していたんだけど、そのフレディ・マーキュリーが日本公演でいつも警備を担当してた伊〇久夫さんという人物がいてね、その伊〇久夫さんが角刈りだったんだ。

 フレディは伊〇久夫さんの仕事に対する姿勢やその人格に深い感銘を受けて、自分もかくありたいという意味で角刈りを真似たんだって。

 そんなエピソードを聞いて自分も深く伊〇久夫さんに興味を持ってね。

 自分も一度だけ面会してお話をさせて貰ったことがあったんだ。

 そうしたらあの方の魅力にとり憑かれて、自分もかくありたいと思うようになったのさ。」

「それで角刈りに?」

「そう、似合わないかな?」

「そんな事ない!凄くよく似合ってると思う!杉本さんの人柄をよく表しているよ」

「僕も思い切って角刈りにしてみようかな?」

 

 そう云って平蔵と田之上が杉本に真似、角刈り三人衆と呼ばれる事となった。

 

 三人が角刈りになったその姿を見て、ご意見番のカエデと、平助の第三秘書であるエリカ(年齢不詳)が腹を抱えるように思い切り笑った。

 

 第三秘書のエリカ?

 

 後に詳しく紹介する機会もある筈だが、平助にとって彼女とは特に親しい間柄とは言えない。

 だが何故か要所々々で絡んでくる美人で曲者感のある存在であった。

 

 女性陣に思い切り笑われ、渋い顔の三人。

 心のどこかで彼女たちの賞賛を浴びれると期待していた分、ショックが大きい。

 

 どれほど身の程を知らない勘違いの己惚うぬぼれ屋だったのだろう?

 

 その日の仕事終わりにお互いの傷を舐めあうため、再び行きつけの居酒屋に足を運ぶ角刈り三人衆であった。

 

 深酒をして翌日板倉にたしなめられたのは言うまでもない。

 

 ちょっと残念な3人ではある。

 

でも最終的にはそんな世間(カエデやエリカ等の風評)の冷たい風にもめげず、一年かけて成長した面々。

 

 その成果が所信表明演説であり、公募4期生たちがひとつにまとまった瞬間と言えるのかもしれない。

 

 彼ら三人衆の容姿を除いて。

 

 

 

 

 

 

     つづく

 


ママチャリ総理大臣~時給1800円~【改】第12話  所信表明演説

2023-11-17 04:45:18 | 日記

 一年の研修を終え、前任首相の退任式、引継ぎ、平助の就任式を経て、第 四代竹中平蔵内閣が正式に発足する事となる。

 それに伴い第三代岸畑章夫内閣が総辞職、特別国会が召集された。

 その後、国会決議(衆参ネット政治委員会審議委員が、ネット国民投票の結果に基づき行う決議)を経て竹中平蔵第四代内閣総理大臣を正式に指名した。

 組閣のメンバーも既に(一年前に)決まっているため、自動的に内閣発足となる。

 

 冒頭、平蔵は所信表明演説を行う。

 

 しかし壇上の平蔵は中々口を開かない。それはそうだろう。

 一年の首相研修で各省庁を回り研鑽を積むうち、様々な事実と現状を知った平蔵。

 頭の中というより、胸の中を重く複雑な想いが駆け巡り、重責のプレッシャーより今まさにこの国で泣いている人、苦しんでいる人、悩んでいる人が切実に求める救いの手を何としても早急に差し伸べたいとの思いばかりが先走り、何から話そうか思い惑うのだ。

 本当に苦しんでいる人々が、平蔵の演説にどれだけ耳を向けるのか分からない。

 しかし、暗闇に閉じ込められ、救出をひたすら待つ被災者のように、救援の呼びかけを固唾を飲んで待つ人々は確実に存在する。

 その人々に「お~い!助けに来たよ!」と叫ばなければならないのだ。

 

 平助はこの所信表明演説に臨む数日前から板倉にアドバイスを受けている。

「平助さん、首相の所信表明演説って、そんなに肩肘張って臨むものではありませんよ。

 そりゃ、ネット政変以前の演説は国民向けと言うより、議会向けにあれをやりますとか、これをやりますとかのオンパレードで、中身の無い実行不能な政策発表の場でしかなかったけれど、今はそんなパフォーマンスは必要ありません。

 やるべき政策は、国民のネットアンケートが決めるのですから。

 平助首相が心がけなければならない事は、如何にして実行するのか?です。

 そのために多くの国民の信用を得ることです。

 だから内容の伴わない演説では、聞く者に何も伝わりません。

 国民に寄り添い語りかけるような話し方で、心に響くような内容じゃなきゃ何も伝わらないんです。

 間違っても国会の場ということを考え、話す内容のレベルとか次元とか、高尚なお話をしようなどと思わないでくださいね。

 主権者である国民に寄り添い、語りかけるのです。

 何が相応しいか?

それは自分らしい、背伸びをしない自分を正直に、誠実に見せる事。

 それが今の時代のネットで決められた国の代表に求められる資質なのですから。

 良いですか?分かりましたか?」

 そう云われ、半分以上理解できなかったが、それなりに納得しこの場に立っている。

 だから国会議事堂の雰囲気に呑まれず、余計な力を抜き、落ち着いた気持ちで語ろうと決めていた。

 

 ふと、この場を中継するテレビクルーが視界に入る。

 そのうちのひとりがしきりに欠伸あくびをしていた。

 連日の仕事疲れで相当眠いのだろう。何度も何度も欠伸あくびをし、そのうち流石に不謹慎と思ったか、欠伸あくびを無理やり押し殺す様子に、平助は思わず

「フッ!」と一瞬、微かに笑った。

 そして自然に言葉が出てくるようになる。

 

 

「唐突で、この場に相応しくない話から始めましょう。

 こいつは頭がおかしいのか?と思われるでしょうが、どうか最後までご清聴お願いします。

 私はある人が欠伸あくびをするのを見ました。

 そしてその様子を見て、ある事に気づいたのです。

 それは欠伸あくびをするのは眠い証拠。どれだけ我慢しても眠さを解消しなければ欠伸あくびは止まらない。

 でも一度ひとたび熟睡してしまうと、もう欠伸あくびはしない。

 寝ている間はいびきをかく事はあっても、寝ながら欠伸あくびをする人は見た事がないという事実に気づいたのです。

 そんな事今更気づいたの?

そう、遅すぎるかもしれませんね。

でも気づくのが遅すぎても、それに気づくことが尊いのだと思います。

何が言いたい?

今、この国の人々は疲れ果てています。

欠伸あくびを必死で噛み殺し、寝る間を割き頑張っています。

欠伸あくびは不謹慎ですか?失礼ですか?その場に相応しくありませんか?

欠伸あくびは罪ですか?

 

では何故、皆さんは欠伸あくびの原因を解消しようと思わないのでしょう?

仕事や勉強や家事や様々な活動。

そうした日常に追われ疲れ果てているのに、何故忙しさにかまけ、寝る間を惜しむのでしょうか?

 今、この国は疲れ果てています。

 十分眠れば欠伸あくびを解消できると知っているのに、です。

 

 我が国日本以外の諸外国には、もっとのんびり暮らしている人々が大勢います。

 勤めている人でも、昼休みに昼寝ができるほど余裕を持てる職場環境にいる例はたくさんあります。

 ひるがえって我が国の国民の皆さんは寝る間を惜しみ、歯を食いしばり頑張っています。

 なのに、その頑張りが報われる人ってどれだけいるのでしょう?

 私は欠伸あくびについて、気づくのが遅い人間でした。

 そして私はこの場に立つにあたり、一年前から専門的な研修を受けてきました。

 政治・行政の現場で様々な喫緊の問題を抱える現状を知りました。

 研修を受けなければ気づかない人間でもありました。

 気づくのが遅い人間です。

 でも気づくのが遅いから、その問題の解決を諦め、放置して良いのでしょうか?

 否!気づいたら直ちに行動するのが私の責務です。

 疲れ果て、気力を失いかけている人々に活力を提供し、頑張った分、その成果に正当に応え、心と身体に安息をもたらす政治を実現しなければならない。

 欠伸あくびを我慢する生活から、その原因である疲れや悩み・不安を取り除き、安心して眠れる環境を作り出す。

 サボるのではなく、誰もが心と身体にゆとりを持ち、希望と安心を持って暮らせる、そんな社会を目指したいと思います。

 つまり国民の皆さんからいただいたご意見から、この国の負の原因である不安材料や不合理な材料を取り除き、より充実した環境を提供する事。

 それらを実行するのが内閣の責務であります。

 

 だから、これら私たちの姿勢と訴えをできるだけ多くの皆様に届け続けるために努力し、実現に向けて励みます。

 

 

 

 ここでもうひとつ、おバカであまり相応しくない例え話を。

 

 これから一年、私が訴え続け、実行し続ける事は、そのひとつひとつの言葉と行動に命を吹き込み、私の持つ唯一の実現に向けた強力な武器にするつもりです。

 私はそのひとつひとつの言葉や行動を命がけで続けます。

 そのため私は出産を控えた『亀』になります。

 

 それはどういうことか?

亀は出産間近になると特定の浜辺に行きます。

 そして月夜に涙を流しながら砂場に掘った穴の中に卵を出産します。

 そして幾日も経過した後、その無数の卵たちは孵化ふかし、一斉に波打ち際に向かって必死に走ります。

 けれどその無数の亀の赤ちゃんは、その全てが海に辿り着ける訳ではありません。

 弱肉強食のこの世にあって、彼らは格好の餌食となり、多くの者たちが鳥などに捕食されてしまします。

 運よく海までたどり着けても、亀の赤ちゃんは、今度は魚に狙われ、多くがその命を落とします。

その結果、一回の産卵で大人になるまで生き残れるのは、ほんの数匹のみ。

 

 亀やその他の生き物の一番の使命は子孫を残す事。

 その使命を達成出来るのは、ほんのひと握りであり、命がけなのだと思うのです。

 だから私は自分の使命を達成するため、亀の子の生き様のように命がけで言葉を発し、命がけで行動できるよう、手本としたいと思います。

 

 『命がけ?』何だか昔の政治家たちが選挙の時だけ発するポーズとしか思ないフレーズですが、私は彼らのような野心や欲を満たすための道具として語っているのではありません。

 私に与えられた期間は一年のみ。

 その間、私が見知った深刻な現状を少しでも早く、良くするためには、悩み・苦しみ・絶望の暗闇から抜け出せずにいる人々に対し、真剣に救出の呼びかけを続ける必要があるのです。

 この社会には一刻の猶予も無い状態にいる人が大勢います。

 それらの人々の想いに応えるために、必死の呼びかけや行動を続けなければなりません。

 しかし、そんな呼びかけや行動はいくらやってもなかなか彼らには届きません。

 様々な障害や妨害に合い、力尽き途中で消え去り、死んでしまうのです。

 だから、呼びかけを待つ人々に届くのはほんの一握り。

 成人した亀が太郎を竜宮城に連れていけるのは僅かでしかありません。

 でも諦めず、続けなければ多くの人を救えないのです。

 だから私は命がけの亀の子を産む親亀になります。

 そして与えられた一年、自分の言葉で、行動で卵を産み続け、海に向かって命がけの赤ちゃんを放ち続ける決意です。

 そしてその私の決意と行動を見て、後に続く亀の有志が出てくる事を期待して。

 そのために私は与えられたこの一年、その全てを全力で立ち向かいます。

 

 しかし今の私個人には、国民の皆様を導くための何の力も能力もありません。

 何故なら私は只の庶民であり、無力な一般人でしかないからです。

 学歴も財産も人材のネットワークも持たない私に、一体何ができるでしょう?

 ただ、そんな私でも、ひとつだけ誰にも負けない力が有ります。

 それは決して諦めず訴え続ける強い意思です。なにものにも屈しない決意です。

 私がそんな姿勢を示し続ける事で、必ずや国民の皆様の支持を得、協力していただけると信じて職務を全うしたいと思います。

 皆様の期待が力となり、この国を変えてゆくのです。

 そしてその流れがその後の規範となり、私が任期満了で退任した後、後に続く人々の力となるよう、強固な道を作るため頑張ります。

 首相としての私の立場は、明日のあなたの姿です。

 私のように、いつ誰が首相になってもおかしくないのが今の日本です。

 決して他人事ひとごとなどではありません。

 だからそのつもりで私を見てください。

 見守ってください。

 自分たちひとりひとりの力を信じて。

 

 

 令和〇年〇月×日

  第4代内閣総理大臣 竹藪 平助 

 

 

 

 この演説以降、平助はアクビのカメ首相と呼ばれるようになるとは、この時全く思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

                つづく

 


ママチャリ総理大臣~時給1800円~【改】第11話 悲劇の体験

2023-11-15 03:35:25 | 日記

   今、社会が沈滞している。

 失われた30年以降産業が衰退し、経済が坂を転げ落ちるように落ち込み、その産業や経済を支えてきた名も無き者たちは厳しすぎる現実から目をそらすようになる。

 特に未来を担う若者たちにその傾向が顕著にみられた。

不満をぶつける先もなく、現状に対する諦めから現実逃避の夢を持つ。

 自分の趣味や志向にしか興味を示さず、ファッションなどの流行や、ゲームや押しに自分の生きるエネルギーの大半を費やす。

 いや、夢や趣味に罪は無い。むしろ夢や希望の持てない世など、生きる価値が半減するというもの。

 大いに持つべきであろう。

 だが、それだけで完結する暮らしで良いのか?

 それではいつまで経ってもそのまま状況は変わらず、貧困に対する不満や、理不尽な不平等、降りかかるあらゆるハラスメントを打開できない。

 一度しかない自分の人生を、問題を抱えたまま終わらせるつもりか?

 

 自分の一番の敵はそんなこの世の問題ではない。

 

 敵はではなく、我にあり。

 諦めこそが自分の人生の沈滞の原因なのだと知るべきだ。

 

と、誰かが言ってたっけ。

 

 だが自分の人生の問題の多くは、実は自分のせいばかりではない。

 実は世の中の仕組みや、この社会を構成する多くの民の常識、ひとりひとりの心の奥底の性根にある。

 その事を無意識の意識が理解していながら、諦めが問題解決の行動の邪魔をする。

 何もしないまま、何をしたらよいか分からぬまま、自らの意思の弱さ故に不満を抱え無為に過ごす。

 それが今の大多数の人々の現状であった。

 

 でも考えて欲しい。

 日本の大衆の歴史を見返すと、江戸時代の沈滞期を経て、明治にあらゆる産業の花が開花し、創意工夫が活力を生んだ。

 大衆は明るい希望と未来を見いだし、貧困から脱出する方法やその見本が雨後の竹の子のように芽吹いた。

 その後、維新から7~80年を経て、国民は日中戦争から第二次世界大戦戦争に及ぶ長い戦いで辛く耐え忍ぶ経験を強いられた。

戦況悪化から国家権力の圧力と江戸時代以来の沈滞を経験した国民は、その苦しい未曾有の体験から解放された終戦後、再び明るい希望と未来を見いだした。

瓦礫の中から力強く復活し、世界第2位の経済大国になるまでの活気を見せる。

しかし、そのあまりに急激な繁栄は近隣諸国の脅威となり、日米貿易不均衡の摩擦が常態化、苛立ちが最高潮に達したアメリカは、ひとつひとつ日本の産業を、力を背景にした脅しで潰した。

それに平行して、日本の援助や技術供与を積極的に中韓に推し進めた日本だが、その結果奇跡の繁栄を得た中韓がその恩を仇で返し、日本産業へ浸食する。

それらアメリカと中韓の波状攻撃が日本の国力を削ぎ続けた。

更に国を護るべき日本の行政機関が国民の期待や願いに背き、それらの諸外国に資産や誇りまでも売り渡す。

その結果が失われた30年であり、再び日本人は自信と希望を失う。 

 

そんな状況が続いた後、ネット政変以前の『増税メガネ』の異名を持つ財務省傀儡の元首相による止めどもない増税がキッカケとなり、ネット政変が起きたのだ。

 

そして今、この時期に平蔵が次の内閣総理大臣に指名され、その準備期間に入った。

 

平蔵は研修を重ねるにつれ、各省庁を回り沈滞と縮小によりしぼんでしまった日本の社会の惨憺たる現状を目の当たりにする。

そして平助は考え込んだ。

この深く暗い海底に沈んだような雰囲気の大元おおもと(原因)は、一体何処にあるんだろう?と。

そしてある異様な光景に何かのヒントを得たような気がした。

それはスポーツや国民的祭事などで目撃された。

例えば野球やサッカー、ラグビーなどの国際試合や、ハロウィーン、クリスマス、バレンタインなどのお祭り騒ぎが、外国の注目を集めるまでに盛り上がる様子。

その異様な盛り上がりのエネルギーは一体どこから来るのか?

いつもの沈滞からどうやって芽吹き、その都度復活するのか?

 

実は人々の意識は萎え、死んでしまったのではなく、いつでも爆発(弾ける?)

できるように準備が出来ているのでは?

心の芯まであきらめ、いじけているのではなく、機会を探っているのでは?

そう思えるようになってきた。

 

 

 貧困は国の積極的介入や、社会の有志達を増やすことでカバーできる。

 ハラスメントは皆の意識改革とコンセンサスで撲滅できる。

 不平等は社会全体がチャンスの機会を均等に、しかも間口を広げる事でかなり解消できる。

 産業の沈滞は政府が具体的に明るい未来を指示し、産業の規制緩和と政府の積極的な育成で、環境と意欲を復活できる。

 

 これらは国民全体の意識改革と具体的な行動で変革できることだと気づく。

 要は誰かが積極的に、必死になって訴え続け、リーダーシップを取れば人心をひとつにして実現できるはずだと感じ始める。

 

 平助はいつしか、そう思えるようになった。

 

 それは省庁研鑽の時に体験した、ある出来事が契機となる。

 

 ある日、国民からの陳情・要望処理担当デスクに山積みされた書類に目を通していた時の事。

 

 その日はホストクラブにはまり、安易な売掛金つけを意図的に計上、請求することで借金が雪だるま式にたまり、破たん、自己破産する悪質なホストクラブ被害者たちの案件や、(計画)企業倒産後の補償に悩み、救済を求めたが埒が明かなかった案件等に目を通していたが、その時ネット政府の審査委員会から一報が入る。

 

 

 巨大で勢力が非常に強い台風の接近で西日本全域が暴風雨圏に入り、とりわけ台風の通り道であるA県〇市が甚大な被害を受けた。早速総理大臣実地研修生の平助が現地に向かうと、多くの宅地が暴風雨の被害に遭っていた。

 その惨状もさることながら、臨時避難所に視察に行った際の、被災者の訴えが心に刺さる。

「これで3度目の被害で、2度目に妻を亡くし、今回、家が全壊した私(70代後半の高齢者 男性)にこれからどうしろと言うんですか?」

 力なく訴える老人に、慰めの言葉も無かった。

 被災し老い先短く、成す術を持たない被災者の彼に、国はどう報いたら良いのだろう?

 見舞金の意味を持たせた一時給付金の支給で終わりなのか?

その後、乏しい年金だけで生活を立て直せるというのか?

 

 その被害が多きかった現場は山間やまあいから雨水が集まり、鉄砲水となり易い地区だった。

 度々問題提起されていた地域なのに、行政の怠慢から放置したまま、大きな被害を招いてしまった。

 通り一遍の言葉を掛けただけで、その場を退散するしかなかった平助。

 

 だが東京に帰る間もなく、北日本の地震地帯で直下型の大地震が発生したとの報。

 ひと時も休めないまま、平助は現地に直行する。

 瓦礫の山の規模は台風のA県〇市以上だった。

 避難場所の地元の中学校の体育館に慰問に行くと直ぐ、悲報が届く。

 添避難場所の中学に通う女子中学生が自〇したと云うのだ。

何故!

到着して草々の悲報に反応した第一声だった。

理由として考えられるのは、一番絆の深かった母がこの地震で犠牲になり、しかもその女子中学生は今回の地震の前からずっと壮絶ないじめに遭っていたとのクラスメートの告発があったと報告された事。

 いじめに耐え、その挙句の果てに災害による母の犠牲。

 誰も彼女に救いの手を差し伸べられず、唯一の味方だった母を失い、絶望の末の自〇。

 平助は棺に手を合わせながら、無力な自分を責め、ただただ遺影を見つめた。

 

 打ちひしがれながら二度目の帰郷で新幹線のホームから出て直ぐ、第三の災害の速報を耳にする。

 今度は日本海側北部の港町で大火事が発生。

 100軒を超す全焼被害が有ったという。

 平助が駆けつけた時は消火がようやく完了。

まだ消火時の水蒸気と煙がくすぶる焦土の後か痛々しい状態だった。

 犠牲者の数も記録的で、テレビでその尋常じゃないその数に戦慄を憶える平助。

その中にあって間一髪焼け出され、生き延びた被災者たちもいる。

中には4~5歳のいたいけな幼女も含まれていた。

 その子は名を里穂ちゃんと云い、一家4人のうち、助かったのは彼女だけだったという。

 その時点で親戚などの引き取り手が判明しておらず、児童保護施設に行くことになりそうだった。

 平助は彼女の目線に合わせ、かがんで彼女の両肩に優しくそっと手を置く。

 しかし里穂ちゃんは涙も見せず、硬い表情で平助を睨んだ。

 唇を噛み絞め、突然降りかかった悲劇に、幼いなりに雄々しく立ち向かおうとしているかのように。

 

 ここでも無力な平助。

 もし火災に強い防災の仕組みをもっと早く取り組んでいたら、この里穂ちゃんは被災する事も無かったかもしれない。

 家族は皆無事で、明るく楽しい未来を閉ざされることも無かったかもしれない。

 明日からのこの子は、どうなるのだろう?

 想像するだけで胸が張り裂けそうになった。

 

 行政の無策や怠慢。

 

 悲劇を未然に防げなかった無力感と救済の不十分さが脳の奥、胸の奥まで浸透し、傷だらけのまま、ようやく蓬莱荘の自室に辿り着いた平助。

 

 いつものように当然ながらカエデが待ち受けている。

 疲れ果て、鬱積うっせきしていながら我慢していた思いが一気に噴き出す。

 

 カエデの姿を目にしても、止めどもなく流れる涙を隠すこともなく肩を震わせ、むせぶような声を押し殺し、「オ、オ、オッ・・・・」と泣き続けた。

 

 平助の様子が変!!

 

 突然の事にカエデは戸惑い、ただ立ち尽くして平助を見つめる。

 これは只事ただごとではない。

 咄嗟に察したが、自分はどうしたら良いのだろう?

 見なかったことにして、この場を去るべきか?

 涙する平助をそっと抱きしめるように引きせるべきか?

 

 カエデの答えは後者だった。

 

 男泣きに泣けない平助は、「オ、オ、オッ」と無理やり押し殺す。

そんな平助の呻きをカエデは受け止め慰めた。

 

無力に打ちひしがれた男と、寄り添う女のシルエットが窓の外に浮かんで見える。

 

 この日を境に平助は人が変わった。

 総理大臣として自分は何を成すべきか、答えが見えたのだろう。

 目つきと仕事に対する姿勢が別人格のように変化する。

 この時ようやく内閣総理大臣として覚悟と自覚を兼ね備えた、竹藪平助次期首相が誕生したのだった。

 またカエデの目には、平助の首相としての明確なビジョンが鮮明に見え、自分が本気で支えようと思った瞬間でもあった。

 

 そして研修・研鑽が最終局面を迎え、ようやく教育係板倉のOKサインがでた。

 それは板倉の厳しい特訓の賜物か?

 今のこの国の現状を垣間見た者なら、当然そうなる程深刻な状態だからか?

 

 

 しかし固い決意を胸に、まなじりを上げた平助の顔は、キリッと引き締まっている筈なのに、やはり炭酸の抜けたサイダーのように締まらないなぁ、と心の中で思うカエデであった。

 

 えっ?ところで・・・あの日の夜、ふたりに何かあったかって?

 ご想像にお任せするが、あの二人に限って何かある筈はないでしょ!

 それが作者の見解でした。

 

 

 

 

    つづく

 


ママチャリ総理大臣~時給1800円~【改】第10話 平助とカエデの深い関係

2023-11-10 03:09:54 | 日記

         

 

        第10話 平助とカエデの深い関係

 

 

  平助が佐藤 鯖江さばえは財務省主計局長に任官したと知ったその日、自宅アパートに帰ると矢張り当然の如くカエデが居た。

(この頃カエデは何故か毎日のように平助の部屋に入り浸っている。

かなり以前、自分の不在時に届く荷物を代わりに受け取ってもらうために部屋の鍵を渡したが、それ以降返そうとしない。いくら言っても聞かないから今日は敢えてそれには触れず)

「おい、カエデ!お前、何でスーパーの激安おばちゃんが公募で主計局長になる事を教えてくれない?

 さっき会ってびっくりしたぞ!!」

「平助のくせに、お前って言うな!

 鯖江さばえさんが財務省に入る事まで、何でいちいち平助に報告せにゃならん?

 って言うか、平助も天下の内閣総理大臣になる程の立場だったら、私から言われなくとも事前に分るだろう。」

 「そんな他人の人事まで知るか!

 自分の事で精一杯だよ。総理大臣だぞ!国の代表だぞ!他の大臣や官僚の人事なんぞ、構ってられるか!」

「まぁ、平助ならそんなところだろうと思ってた。

 だからワザと黙ってたんだ。ね、驚いただろ?アハハハ!」

「可愛くない奴!

お陰で地雷を踏んでしまい、弱みを握られてしまったぞ!どうしてくれるんだ!」

「へぇ、早速地雷をねぇ。どんな地雷なん?」

平助(ギクリ!!)

「・・・いや、それは国家機密だから、人には話せない。」

「国家機密ゥ?平助!お前、何を隠している?言え!吐け!」

 そう言って平助にヘッドロックを咬ませるカエデであった。

「ウウウゥ・・・国家機密ゥ~・・・」

 最後まで抵抗し吐かない、口の堅い平助であった。

 さすが次期内閣総理大臣!!

 なんて、ただ平助がカエデの悪口を鯖江さばえの前でしゃべった事をバラすと言われ、ビビったなんて、口が裂けても言えねぇ、言えねぇ。そう思う平助であった。

 

 翌日平助は首相官邸大ホールに居た。

 今日は全公募組の正式な顔合わせの日。

 全閣僚・上級官僚等、それぞれが全メンバーの前で紹介され、それぞれの部署でのリーダーとして活躍するための決意と覚悟と自覚を持つ機会として、この場が設けられた。

 

 その後彼らは別々の場所で一定期間研修を受け、それぞれの現場に配属、公設秘書のひとりとしてその年の現職閣僚など、先輩に当たる役職の下に付き、研鑽を積む事になる。

 だから一年の任期と言うが、実質二年ほどの出向になる。

 「エェ~?そんな話、聞いてないよォ~!一年という約束でしょ?それが二年なんて・・・、それってまるで詐欺ジャン?もう帰らせてくれ!」

 そう云って板倉を困らせる平助であった。

 「総理大臣の任期は一年。その前に研修期間があり、それも約一年。

合計二年って最初に送らせてもらった書類にちゃんと書いてありますよ。

 読んでいないのですか?」

 「あんな分厚い書類、全部読んでいる訳ないジャン!しかもあんな小さくて細かい字の集まりなんて!!あれって保険の約款みたいで誰も読まないと思うよ。」

 「とにかく!あなたは天皇の前で正式に任命されたのだから、もう逃げ道はありませんよ!いい加減、覚悟を決めてください!!この『へたれ』!!」

 「ヘタレで悪かったよ!あぁ、私はヘタレですよ!それが何か?」

 「あぁ、開き直った!!そのヘタレ根性を今日から徹底的に叩き直すから、覚悟しれください!」

 

 この辺の会話は、板倉の竹刀を持った特訓が始まる二日前の事だった。

 

 

 

 

 そして極め付けがあのカエデ。

 本名 藤本 楓(27)。竹藪平助の幼馴染で近所のスーパー≪激安≫のレジ係。

辛い過去を背負い、平助とはツンデレの関係ではあるが、この後予想外の行動に出る。

 

 

 ある日。

 カエデが平助に通告する。

 「教育係の板倉さんに頼まれて、私に平助のお目付け役になって欲しいと頼まれたよ。

しかも時給は1500円。」

「エ~ッ!嘘だろ?!冗談だろ?!なっ!違うって言って!!」

「生まれてこの方、私が嘘や冗談を言った事あるか?」

「有る!何度も有る!数え切れないほどたくさん有る!!」

「そ、そ、そんなにはないわよ!大体、存在そのものが冗談の塊りの平助にそんな風に指摘されたくないわ!」

「あああああ、最悪!」

 

 フッ、フッ、フッと不敵に嗤うカエデ。

 

 しかし実際はカエデが直接、教育係の板倉に直談判し、自分を売り込んだと云うのが真相だった。

 

「なんでカエデが僕のお目付け役なんだよぉ!寄りにもよってカエデだなんて!世の中おかしいだろ?理不尽だ!」

「どうしてそんなに私を嫌う?

 こんなにいい女がそばで面倒を見たり、助けてやろうと云ってるのに。

 それに、きっと板倉さんが平蔵ひとりじゃ心許ないと思ったんでしょ。平助にはしっかり者の私がついていなきゃダメなのよ。誰が見てもそう思うわよねぇ~」

「そんな訳あるかい!

 大体、カエデが四六時中そばに居たら、僕は何も悪い事できないだろ?

 カエデの監視付だなんて最悪!!板倉さんに文句言ったる!!」

 「この期に及んで、まだ悪さをする気?

 だから私がお目付け役なのよ!もう観念しなさい、このヘタレ平助!!」

「べ、別に悪さなんてしてないし!」

 

 こうして可哀そうな平助とカエデの新たな日常が始まった。

 

 

 そもそもどうして平助とカエデがこんな親密な(?)関係なのか?

 それは相当昔にさかのぼる。

 二人が小学二年生のクラスメートだった頃、カエデの家の経済事情で、遠足の弁当を持たせられない程の危機的状況にあった事がある。

 前日から浮かない顔のカエデ。前日ではない、もっと前からあんなに明るい性格だったカエデが無口になり、いつも気配を消すような暗い子になっていた。

 その頃、二軒おいて隣に住む平助は、偶然近所の大人たちの噂でカエデん家の経済危機を知り、注意深く学校でのカエデを観察していた。

 そして遠足の日が近づくにつれ、どんどん暗くなる。

 そして遠足前日、カエデが友達に

「明日の遠足は休むかもしれない」

 と言い出した。

 

 事情を察した平助はある決心をする。

 

 母親に、「明日の遠足の弁当とおやつを二人分用意してくれ」

 と頼んだ。

 母親が「どうして?」と聞くと、平助は

「恩を返したいんだ」と一言。

 さすが察する能力に長けた平助の母。それ以上何も聞かずに請け合った。

 

 そして早朝、弁当とおやつを二人分用意した母は、

「はい、用意したよ。早く持ってお行き!」と促す。

「ありがとう!」そう云って家の玄関から勢いよく走り去った。

 カエデの家をノックし家の人が出てくると、平助が勇気を振り絞り、

「これをカエデに渡してください。」

と言う。家の人は(?)という表情になり

「どうして?」と聞く。

「これは僕の母ちゃんが作ってくれた弁当です。カエデが今日、休むと言っているのを聞きました。

 でも僕はカエデに休んで欲しくないんです。僕はカエデに恩が有ります。

 人には言えない大変な恩が有ります。その恩を今、返したいんです。

 一緒に遠足で楽しみたいんです。

 だからお願いです。カエデにこれを受け取って欲しい、そして一緒に遠足に行こうよって伝えて欲しいんです。お願いです!お願いです!!」

家の人は無言で奥に去り、暫くしてカエデが顔を出す。

「どうして?どうして私にこれを?恩って何?」

「中身はうちの母ちゃんが作った弁当とおやつだよ。

 母ちゃんが作ったものだから大したことないし、気に入らないかもしれないけど、良かったら今日遠足にこれを持って来て欲しいんだ。」

 「・・・どうして私にこんな事してくれるの?私の家の事知ってるの?恩って何?」

 「ゴメン、偶然知っちゃったんだ、カエデの家の事。悪く思わないでね。でも同情じゃないよ。僕には本当にカエデから恩を受けているんだよ。

 ほら、覚えてないかい?一年生の時、僕が皆と遊んでいる時、おもらしをしちゃった事があるでしょう。

 あの時カエデは校庭の花壇に水やりをするために、バケツに汲んだ水を如雨露じょうろに移そうとしていた。

 そして僕の異変に気付き、咄嗟にバケツを持って僕の方に向かってきて、つまづいたふりをしてワザとに僕のズボンに水をかけたよね。

 そして「ゴメーン!間違っちゃった!」て言って誤魔化してくれたよね。

 おかげで僕はカエデの他、誰にもおもらしを気づかれずに済んだんだ。

 あの時、本当にありがたかった。

 だからその時のご恩を返したいんだよ。気を悪くしないでね。これは決して同情で渡そうとしているんじゃないって、分かって欲しいんだ。助けるんじゃなくて、恩返しだってこと。

ね、受け取って。そして一緒に遠足に行こうよ。ね、ね。」

 

 カエデの頬から一筋の涙がこぼれるのが見えた。

「ありがとう。」

そう云って弁当とおやつの入った包みを受け取った。

 

 その日を境に、カエデと平助のツンデレ関係が続く。

 

 カエデの家は、その後最悪の状態を脱したが、いつまで経っても裕福とは言えない経済状態ではあった。

 でもそれは平助の家も変わらない。

 と云う事で、ふたりとも高校を卒業後、大学には進学せず就職を選び、今日に続く。

 

 

 

 

 

       つづく