宇野ルーツだより

ご先祖のルーツを探す旅

獣が町にやってきた

2011-05-02 18:49:43 | 日記
  連休の谷間。風が強く、雨降りの一日です。ここ2,3日、こんな天候なので
 自然観察にも足が向きません。西日本から関東にかけては黄砂とのこと。宇野ゆかりの
 皆さまの地域ではいかがでしょうか?

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                 獣が町にやってきた

       それは、これといって稼げる漁のない貧しい町だったが
       白砂青松の浜を誇りとして、共に助け合って暮らす町に
       ある日、こっそり訪れた人々が、町長に
       「まだ決まったわけではないが」と前置きして
       「あの獣を引き受けてほしい、ここで飼い始めたい」と耳打ちした

       「大丈夫か、凶暴だと聞いているが」町長が言う
       「大丈夫だ、絶対に逃げ出さないから」男たちは何度もくり返した
       「頑丈な檻に閉じ込めている、どんな災害にも壊れない」とも言った
       せまい町のことだ、東京からの珍客のうわさは
       あっという間に拡がり、町は騒然となった

       「安心できねぇ、外国では逃げ出したことがあるって聞いたぞ」
       「先祖代々の浜を壊す気か、漁ができねくなるべさ」
       「逃げ出したら、真っ先に襲われるのは子どもなのよ」
       「絶対に許さない!」町を二分した争いになって
       人々から、屈託のない笑顔が消えていく・・・

       「今後、10年間は、迷惑料として獣交付金を支給させていただく」
       町の予算とは、ひとけた違う数字が並んでいた
       「獣を管理するために、地元から1000人規模の雇用を約束する」
       「自然環境の保全には、じゅうぶんな配慮をさせていただく」
       作られたアセスメントの分厚い報告書が積み上げられ、さらに
       「町の振興プランですが、こんなのはどうでしょうね」
       机上に拡げられた青図、水産観光センター「マリンパーク希望」

       前の首相の構造改革の影響で、町の財政は逼迫していた
       高卒で若者が町を出て行き、子どもたちの声が消えていく
       その町に、ふってわいたような「いい話」
       「町の将来、発展を考えるとやむをえないな」
       町長たちから、想像力を奪っていく・・・

       やがて、太い道路ができ、資材搬入のトラックが行きかい
       青い松林が、白くなっていく、砂ぼこりで
       「ここが、安住の地なのか・・・」
       その獣は、檻の建設を静かに見つめていた、怪しく青白く輝きながら・・・
         
                              (宇野誠一郎、つづく)

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   雨降りの寒い日々ですが、植物たちは耐えながら花開く時を準備しています。
   被災地にも、本当の春が必ず来るものと信じ、早くそうなることを願っています。