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活字書体を使う人のための勉強会

第4回 近代明朝体の定着(美華書館・商務印書館・人民文学出版社)

2015年06月14日 | typeKIDS_Seminar
第4回 近代明朝体の定着(美華書館・商務印書館・人民文学出版社)
話者:今田欣一
日時:2015年6月13日(土)15:15−17:15
場所:新宿区・榎町地域センター 大会議室B

「近代明朝体」活字は19世紀前半に上海や香港にあったロンドン伝道会と北米長老会によって製作されました。ロンドン伝道会の印刷所である上海・墨海書館と香港・英華書院で使用された活字は、ヨーロッパで活字母型が製造されたものだそうです。
その後に中国で印刷された書物から、近代明朝体の変遷を見ていくことにします。




1『舊約全書』(1865年、美華書館)



北米長老会の印刷所であった上海・美華書館において木製種字と電鋳母型という活字製造法が考案されました。この方法で製造された五号活字をもちいて印刷された代表的な書物が『旧約全書』(上海・美華書館、1865年)です(欣喜堂では、この本文に使われている近代明朝体を「美華」という書体名で試作しています)。ハンディ・サイズの聖書です。


参考資料:『教会新報』所載美華書館活字見本(1868年) ※『印刷史研究 第八号』印刷史研究会、2000年)より

2『中国古音学』(張世禄著、1930年、商務印書館)



『中国古音学』は張世禄の著作で、1930年(民国19年)に 商務印書館から『国学小叢書』の一冊として刊行されました(欣喜堂では、この本文に使われている近代明朝体を「上海」として試作しています)。『国学小叢書』編集主幹の王雲五(1888年−1979年)は、1912年に孫文の秘書となり、1920年には商務印書館編集翻訳所所長となっています。四角号碼検字法・中国図書統一分類法を発案したことでも知られている人です。

3『瞿秋白文集』(瞿秋白著、1953年、人民文学出版社)



人民文学出版社は1951年3月に創業されて以来、8,000種あまりの書物を出版しています。瞿秋白(1899年—1935年)は中国の政治家・文学者です。『瞿秋白文集』(1953年 北京・人民文学出版社)は、本文は近代明朝体です(欣喜堂では、見出しに用いられているゴシック体を「端午」として試作しています)


参考:近代明朝体、ゴシック体、アンチック体をめぐって

『BOOK OF SPECIMENS』(平野活版製造所、1877年)では、欧字書体のローマン体とともに、ゴシック(GOTHIC)、アンチック(ANTIQUE)が掲載されています。ゴシックはサンセリフ、アンチックはスラブ・セリフと呼ばれるカテゴリーに属します。
『座右之友』(東京築地活版製造所、1895年)には、漢字書体の明朝体とともにゴシック形活字、アンチック形活字が掲載されています。この名称は『BOOK OF SPECIMENS』所載の欧字書体の影響を受けて命名されたのではないかと推測されます。





『座右之友』に掲載されている近代明朝体は、『旧約全書』(上海・美華書館、1865年)に使われている書体に近いように思われます(欣喜堂では、『座右之友』のゴシック形文字、アンチック形文字を、それぞれ「伯林」「倫敦」として試作していますが、近代明朝体は『旧約全書』から試作した「美華」を当てています)。
なお、『活字と機械』(野村宗十郎編輯、東京築地活版製造所、1914年)には、近代明朝体、ゴシック体は掲載されていますが、漢字書体としてのアンチック体は見られません。


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