typeKIDS Report

活字書体を使う人のための勉強会

正富汪洋の詩集を組む-ゆきぐみノーマルで読む『世界の民衆に』

2017年07月23日 | typeKIDS_Library
底本にしたのは、詩集『世界の民衆に』(正富汪洋著、新潮社、1925年)である。この詩集では、前半の世界改造の志を訴えた詩と後半の叙情的な詩とが同居している。



この詩集の前半部分を「SDゆきぐみノーマルW3」(和字書体のみ)で組み、線装で製本してみた。



線装とは明代の万暦期以後に流行した装丁法で、二つ折りにした紙の折り目を左側にして重ね、右側に穴をあけて糸や紐で綴じる方式である。綴じた糸や紐が装丁の一部になる。中国では線装というが、日本では唐綴もしくは明朝綴と呼ばれている。袋綴の一種で、康熙綴・亀甲綴・麻葉綴・五目綴(朝鮮綴)などのバリエーションがあるが、一般的な四目綴(四針眼訂法)を採用した。



はじめての体験なので綴じ方がゆるく、ちょっと不細工になった。



正富汪洋(1881–1967)の詩は、膨大な数にのぼる。五七調から、短い詩、長編の詩、散文詩、民謡調の詩まで、まことに多彩だ。幼馴染の竹久夢二(1884–1934)ほどには知られていないが、その実績は夢二にひけをとらない。夢二と遊んだ岡山県瀬戸内市の国司ヶ丘には詩碑がたてられている。
正富汪洋の晩年の著作に、『明治の青春 与謝野鉄幹をめぐる女性群』(北辰堂、1955年)と『 晶子の恋と死——実説『みだれ髪』』(山王書房、1967年)がある。汪洋と与謝野鉄幹(1873–1935)、与謝野晶子(1878–1942)とはあさからぬ関係があるのだ。
鳳(与謝野)晶子が、先妻をおしのけるかたちで与謝野鉄幹と結婚したはなしはよく知られているが、その先妻である林滝野と結婚したのが汪洋なのである。この結婚には父親が猛反対し、汪洋は勘当されてしまう。汪洋はまだ学生だったので、夫人が郵便局につとめて生計をたてたそうだ。
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「typeKIDS−活字は踊る」報告

2017年07月09日 | typeKIDS_News
7月5日に開催されたFONTPLUS DAY セミナーにおいて、 Vol.9 「typeKIDS-活字は踊る」という演題でお話しさせていただきました。講演の内容は公式レポートが公開されますので、ポイントだけ簡単にまとめておくことにします。

typeKIDS seminar
中学校の国語の教科書には「コンピュータの文字」とだけ書かれているけど、碑刻・木版印刷・活字版印刷の、それぞれの時代の書物から誕生した多くの書体が現代に継承されてきたこと。
(今回は漢字書体に絞りました。和字書体、欧字書体は割愛しました)

typeKIDS workshop
タイプフェイスは原字をデザインするだけではなんの役にも立たない。製本まで含めた「本づくり」の一工程として捉え、3Dプリンターで樹脂活字を作ったり、写植の簡易文字盤を作ったりしたこと。







typeKIDS library
サイン、ディスプレー、パッケージ、広告、ブランディング、そしてウェブなどへと用途は広がっているけど、その中心はやはり書物の本文に置くべきだと考えていること。
(今回は時間の関係で詳しい話は割愛しました)


そして、typeKIDS以後のこと。
個人的にはこれが本当の主題だと思っています。それは、絵画におけるデッサン、書道における臨書に相当することをタイプフェイスデザインでやってみたいということです。「活字は踊る」プロジェクト発進の宣言です。
具体的には、デジタルタイプの和字書体「ときわぎ」、漢字書体「白澤」、欧字書体「Vrijheid」を素材にした『タイプフェイスデザインの手引書』を作りたいと考えています。




追記(2017年10月14日)
『タイプフェイスデザインの手引書』目次(案)




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タイプフェイスデザインのための臨書のすすめ

2017年07月04日 | typeKIDS_Workshop
タイプフェイスデザインは書字が基本なので、タイプフェイスデザイナーが習字をすることは無駄ではありません。もちろん書家をめざすわけではないので、筆やペンの動きを知ることだけでもよいでしょう。
せっかく学習するのであれば、最初の一歩として古典の名品の臨書から入るのがいいと思います。そこで、タイプフェイスデザイナーが学びやすいものを、漢字、和字、欧字からひとつずつ選んでみました。

漢字 『褚遂良千字文』
褚遂良(596–658)は唐代の政治家で、書家としても知られています。欧陽詢、虞世南とともに初唐の三大家と呼ばれています。漢字書道では、まず褚遂良の代表作である『雁塔聖教序』を学ぶことが多いのですが、タイプフェイスデザインの学習用として『褚遂良千字文』を取り上げることにしました。筆の運びがわかりやすいものだと思います。


[図版引用]『中国古代法書選褚遂良千字文』(魏文源編、江蘇美術出版社、2014年)より

欧字 『時祷書』
漢字と同様に欧字においてもタイプフェイスデザインの基本は書字にあります。欧字ではカリグラフィーが漢字の書道に相当します。カリグラフィーでは、ブラックレター、イタリック、スクリプトを学びますが、タイプフェイスデザインの学習のためにはヒューマニスト・ミナスキュール+ヒューマニスト・キャピタルがいいと思います。
この『時祷書』は1500年ごろ、ボローニャのジョヴァンニ・ベンティヴォーリオのために制作されたものだそうです。


[図版引用]『もっと知りたいカリグラフィー―絵と写真で見る歴史と技法』(ディヴィッド・ハリス著、小田原真喜子監修、弓狩直子翻訳、雄鶏社、1997年)より

和字 『小学書方手本』
かな書道では、最初に『高野切第三種』など古今集写本を学ぶことが多いのですが、タイプフェイスデザインの学習のためには、「楷書に調和するひらがな、カタカナ」の方が望ましいと思います。
そこで国定教科書『小学書方手本』を取り上げました。子供たちが学びやすい平易な書風で書かれており、現在においても手本として最適だと思います。この手本を書いた鈴木翠軒(1889–1976)は大正・昭和時代の書家です。


[図版引用]『鈴木翠軒 復刻版甲種尋常科用小学書方手本』(安藤隆弘解説、芸術新聞社、1987年)より
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