typeKIDS Report

活字書体を使う人のための勉強会

蒟蒻版(寒天版)のこと

2020年01月21日 | Circle OWN
Circle OWN Winter 2020
Report 2

夏目漱石の『坊っちゃん』に「蒟蒻版」の出てくる場面がある。蒟蒻版? 最初はなんのことだかわからなかった。
「謄写版」が一般的に使われるまでの間、「蒟蒻版」は簡便で少部数印刷という特徴のため、官庁や学校、企業などの会議資料や内部文書に広く利用されていたそうだ。
「蒟蒻版」とは平版印刷の一種で、謄写版が発明される前の明治時代初期に、西欧から日本に伝わった「ヘクトグラフ(Hektograph)」のことなのだ。
「ヘクトグラフ」は、ゼラチンにグリセリンを加えて撹拌し、固めて平板状にした版だ。その上に濃い染料インクで書いた原稿を当てて転写させてから、印刷用紙を載せて印刷する方法である。最大数十枚の複写が可能だった。日本ではゼラチンの代用として蒟蒻が使用されたことから「蒟蒻版」、あるいは寒天が使われていたことから「寒天版」と呼ばれていたという。
蒟蒻版(寒天版)は、大量印刷向きではなかった。大量印刷には、蒟蒻版(寒天版)よりも硬質の石材を利用した「石版」が利用されたということである。

科学と学習PRESENTS『紙すき&寒天印刷キット』(株式会社学研プラス、2018年)という、児童(対象年齢:6歳以上)向けの紙漉きと寒天版印刷が体験できるキットが販売されていた。印刷博物館の協力で、詳しいガイドブックが付いている。




Circle OWN Winter 2020

2020年01月07日 | Circle OWN
日時:2020年1月4日11時〜15時00分
場所:備前焼伝統産業会館/他



JR伊部駅・備前焼伝統産業会館からスタート。昨年公開された奈緒主演の映画「ハルカの陶(すえ)」の岡山・備前ロケ地マップに沿って散策した。各ロケ地にあるQRコードで映画のシーンを見ることができるようになっている。



駅前の公園・炎の里、赤煉瓦の煙突が印象的な桃蹊堂、備前焼が飾られたショーウインドウのある興楽園を経て、天津(あまつ)神社へ。狛犬、参道、屋根瓦に至るまですべて備前焼だ。





昼食は古民家レストラン・衆楽館本店で、備前カレーをいただく。映画の原作になったコミックス版「ハルカの陶」の第2巻にも、ほんの少しだけ紹介されている。以前、閑谷学校前店で食べたことがあるが、こちらはもう閉じられて、今は本店だけになった。



午後から備前市運動公園に向かう。ここからメインの撮影現場となった窯元・天人窯を臨むことができる。



再び駅前に戻り、ロケ地のひとつである備前市立備前焼ミュージアムへ。特別展「獅子十六面相」が開催されていた。とくに宇佐八幡宮(備前市指定)の宮獅子の修理過程の展示が興味深かった。

話は変わるが……



木版印刷とは、木の板に文章または絵を彫って版を作る、凸版印刷の一種である。中国では雕版印刷というそうだ。
木版印刷そのものはタイポグラフィではない。とはいえ中国では、宋朝体、元朝体、明朝体、清朝体など木版から多くの活字書体を生み出してきた。活字書体の源泉なのである。
2016年1月11日(月曜日)、午後から姜尋さんの木版印刷の工房「煮雨山房芸術文化有限公司」を訪問した。
まずは版木彫刻の現場の見学から。薄い紙に文字を書いて、それを裏返しにして貼っていた。彫刻刀で版木を彫っている作業を見せてもらった。彫り終えた行と、これから彫る行の違いがよくわかる。作業中の版木は梨だそうだ。硬い木なので彫刻するには力が要る。
この版木に墨や絵の具などを塗り、紙をあてて上から馬楝(ばれん)で摺って制作する。日本の馬楝は芯を竹の皮で包んだものだが、中国では狭く長い刷毛または櫛形刷毛で摺る。木版印刷の版木と、その印刷物を見せてもらった。彫りが深いのは、印刷部数を多くするためとのことだ。
煮雨山房で製作された木版印刷の書物のひとつ、ノーベル文学賞作家の莫言氏の著書『大風』を見せていただいた。ところどころに剪紙があしらわれている。この本の複雑な綴じ方は姜さんの創案によるものだそうだ。帙も凝りに凝っていた。姜さんは、このほかにも次々に版木や書物を出してきて説明してくれた。

銅版印刷とは、銅製の一枚板を使った凹版印刷の一種である。活字版が陽刻・凸状の版になるのにたいし、凹版は陰刻・凹状の版になる。その素材として銅が多く使われたために、凹版印刷のことを一般的には銅版印刷と呼んでいる。
金属板にじかに彫刻する方法(エングレーヴィング)での銅版印刷は1420年から1430年ごろにかけて、ドイツとイタリアではじめておこなわれた。17世紀以降には腐食銅製技法(エッチング)が主流になったが、フランス宮廷ではエングレーヴィングを銅版印刷の唯一の製作技法と認めていた。
私が「日本カリグラフィー協会CLA」(注1)の通信教育講座「カリグラフィー講座」(注2)を受講したのは、1991年頃だった。
「カリグラフィー講座」の教科書は「イタリック体」、「ブラックレター・ゴシック体」、「カッパープレート体」の3冊とガイドブックがあり、いろいろなペン先と、ペン軸2種、インク4色がセットになっていた。このうちの「カッパープレート体」というのが、銅版印刷の書体だ。
初級コースの講座の受講期間は6カ月だった。3書体それぞれに添削テストがあり、最後にまとめて認定テストを提出するシステムだ。全部で10回の課題を提出することになっていた。
 注1:現在は「日本カリグラフィースクール」(運営は株式会社カリグラフィー・ライフ・アソシエイション)になっています。
 注2:講座の内容はほぼ同じですが「本格入門コース」という講座名になっています。



謄写版印刷と和文タイプライターのこと

2019年09月27日 | Circle OWN
Circle OWN Summer 2019
Report 2

謄写版印刷のうち、鉄筆法(ガリ版)のほかに、和文タイプライターを使ったタイプライター法(タイプ孔版)があった。
金属活字のような凸版印刷や、タイプライターの印字物や写植の印字物を版下にしたオフセット印刷に比べれば、印刷物としての品質は高くなかったが、ガリ版とはレベルが違うものだった。高校時代の筆者にとっては、もっとも身近で安価なタイポグラフィだった。



高校の『文化祭パンフレット』(1972年)は、A5判、26ページの、タイプ孔版で印刷したものだ。高校の前にあった印刷屋さんにお願いして作ってもらった。表紙だけはオフセット印刷にした。本文もタイプオフで作りたかったのだが、予算の関係であきらめた。このパンフレットも想定外のページ数になったので、地元の商店をまわって、寄付金を集めたものだった。



当時、高校の部活のひとつに「タイプ部」があった。文化祭では、詩を組んで展示していた。英文、和文タイプライターの体験もあり、時間内に決められた文字数を打つ競技会(イベント)も行われていた。



『自画像』(1973年)は、B6判、40ページの冊子であるが、これもタイプ孔版による印刷である。『文化祭パンフレット』と同じく高校前の印刷屋さんにお願いした。

文・今田欣一

謄写版印刷のこと

2019年09月15日 | Circle OWN
Circle OWN Winter 2019
Report 2

印刷の4大方式とは、凸版、凹版、平版、孔版である。孔版印刷の一種に謄写版印刷がある。
謄写版印刷は、蝋引きの原紙に孔(あな)をあけ、そこから印刷インキを滲み出させて印刷するという仕組みだ。文章の場合には文字が孔になるのだが、鉄筆で蝋を削り取る方法(ガリ版ともいう)、和文タイプライターで打ち込む方法がある。謄写ファックス、プリントゴッコなども謄写版印刷の仲間である。
ここで取り上げるのは鉄筆法である。タイプライター法であればタイポグラフィといえるが、鉄筆法はタイポグラフィではない。レタリングである。それでも、タイポグラフィとの関係を考えるために、ここで取り上げることにした。



筆者の手元には謄写版印刷による一冊の本がある。『戯曲 分水嶺』(諸井條次著、劇生活社、1953年)だ。劇生活文庫第3集とあるので、文庫シリーズの中の一冊として出版されたようだ。





ガリ版印刷は、1970年代まで活字版印刷の代用として学校でも広く用いられていた。教師が作るテストはたいていガリ版印刷だったし、文集など児童・生徒によるものもガリ版印刷だった。演劇、映画、テレビの台本も鉄筆法による謄写版印刷だった。

筆者も自分用に阪田商会製の謄写版印刷機を購入した。同人雑誌のようなものを作りたかったのである。



さらに文部省認定社会通信教育「近代孔版技術講座」基礎科を受講した。この講座で孔版文字の書き方を習ったのだ。楷書体、ゴシック体、宋朝体などがあるが、書字というよりは活字書体を真似たものだった。活字版印刷の代用なのである。



ガリ版に使う鉄筆にもいろいろ種類がある。文字用のほか、罫線用(歯車のようなものもある)・絵画用などがある。文字用でも、書体によって使い分けるようになっている。



原紙をのせるヤスリ(鑢)も書体によって使い分ける。楷書体には斜目ヤスリ、ゴシック体には方眼ヤスリを使う。宋朝体には(持っていなかったが)宋朝ヤスリというのもあったらしい。



活字のように描く——謄写版印刷はあくまで活字版印刷の代用だった。代用ではあったが、改めて見直してみると、そこから生み出された孔版文字には独特の味わいも醸し出されているように思える。

文・今田欣一


Circle OWN Summer 2019

2019年08月18日 | Circle OWN
日時:2019年8月16日13時〜15時30分
場所:ENTER WAKE BASE



和気駅前のENTER WAKE 3階に新しくオープンしたコワーキングスペース、ENTER WAKE BASEを利用しました。



ENTER WAKEは、元々は中国銀行和気支店でした。



1階には和気町観光協会と、ENTER WAKE KITCHENがあります。



和気町観光協会で手続きをします。1日使えて出入り自由、Wi-Fi、コピー機、電源も無料で使えます。



駅の近くなので便利だし、広くて静かで快適でした。


ところで……

私が高校に在学していた頃は、タイプ部という部活がありました。ワープロができるまでは、文書作成には和文タイプライターが活躍していました。




高校の学校祭のパンフレットは、和文タイプライターを使った謄写版印刷を使いました。




安価な印刷として、同人誌でも和文タイプライターを使った謄写版印刷でした。せめて、和文タイプライターで印字したものを版下にしてオフセット印刷したいと思っていましたが、叶いませんでした。




大学に入ると、金属活字版印刷への憧れが増していきました。
大学在学当時の「学部案内」です。手垢で汚れてしまっていますけど……



ヴィジュアルデザイン・コースは、活字と印刷実習の写真が使われています。ただし、本文は写植で組版したものです。



学生時代にやっていた「七味」という勉強会のレポートを発見しました。やっていることは、今も変わっていませんね……



この手書き文字の部分(和字)は、「貘」という活字書体のもとになりました。




再生した「貘」の組み見本






卒業研究では写植を依頼しました。



その印字物(版下)です。

おまけ……

教育実習は、母校の和気閑谷高校でした。