typeKIDS Report

活字書体を使う人のための勉強会

第5回 複製本でたどる日本の書物(書字・刻字・タイポグラフィ)

2015年08月10日 | typeKIDS_Seminar
第5回 複製本でたどる日本の書物(書字、刻字、タイポグラフィ)
話者:今田欣一
日時:2015年8月9日(日)15:15-17:15
場所:新宿区・榎町地域センター 工芸美術室

複製本でたどる日本の書物(書字、刻字、古活字組版)

今回は夏休み特別企画!ということで、私の持っている数少ない複製本のコレクションの中から、書字(ハンドライティング)、刻字(レタリング)、古活字組版(タイポグラフィ)による、わが国の書物のミニ展覧会となりました。

1 書字(ハンドライティング)による書物

まずは五島美術館所蔵『国宝源氏物語絵巻』から。株式会社便利堂による複製・発行で、縮小されていますがオリジナルと同じ巻子本のようになっています。巻子本という形態が面白くて購入しました。
『御物本倭漢朗詠集』も株式会社便利堂による複製・発行によるものです。もともとが粘葉本なので、複製本でも同じようにして作られています。和字書体「あけぼの」の資料の一つです。
『御物更級日記 藤原定家筆』は笠間書院発行の影印本です。体裁はオリジナルに従っていますが、90%に縮小されているようです。和字書体「やぶさめ」の資料の一つです。二階調になっていることは活字書体としての翻刻には都合のよいことでした。
和字書体「たかさご」の資料としたのは、和泉書院影印叢刊5として発行された『風姿花伝 影印三種』のうちの「風姿花伝(金春本)」で、これも80%に縮小されています。もとは包背装だったそうです。
臨川書店発行の『京都大学蔵むろまちものがたり6』のうちの「さよひめ」の影印(縮小)を参考にして和字書体「さよひめ」を制作しました。オリジナルは列帖装上中下三冊に分冊されています。
「さよひめ」のカタカナの資料は、笠間書院発行の影印本『御所本 十訓抄』です。漢字カタカナ交じりで書写されたものでした。時代的にもつながりはないのですが、やはりカタカナはカタカナの資料があったほうがよいと思いました。
カタカナの資料としてもう一冊、武蔵野書院発行の『大福光寺本 方丈記』を持っています。カタカナの書写資料は少ないので助かります。

2 古活字組版(タイポグラフィ)による書物

安土桃山時代に、ヨーロッパから伝来した金属活字版と、それを模して誕生した木活字版をあわせて、古活字版とよぶことにします。キリシタン版と嵯峨本です。
キリシタン版は、八木書店から発売されている『天理図書館善本叢書38 きりしたん版集一』を購入しました。この本に所載の『ぎやどぺかどる』上下巻を参考にして和字書体「ばてれん」を制作しました。
木活字で組まれている嵯峨本は、和泉書院の『伊勢物語 慶長十三年刊嵯峨本第一種』および新典社の『影印本 方丈記』を持っています。ここから和字書体「さがの」を制作しました。

3 刻字(レタリング)による書物

江戸時代の民間出版社による文学系の書物は、木版印刷によって製作されました。彫刻によるアウトラインの単純化と力強さが顕著に見られます。
元禄文化を中心とした江戸時代前期の版本も日本文学や書誌学の学習用に影印本が出版されています。
井原西鶴の浮世草子『世間胸算用』も和泉書院から西鶴影印叢刊の一冊として刊行されていますので、この本を参考にして制作したのが「げんろく」という書体です。
近松門左衛門の世話浄瑠璃の影印本もあります。新典社の『影印本 曾根崎心中』を入手して、これを参考にして制作したのが和字書体「なにわ」です。
もう一つ、松尾芭蕉の紀行文『おくのほそ道』の影印本は成文堂から刊行されているので、これも持っています。

草双紙とは、江戸の地で出版された絵入通俗小説で、赤本、黒本、青本、黄表紙、合巻と呼ばれる一群を総称するものです。
文化文政期の柳亭種彦・作、歌川国貞・画による草双紙『偐紫田舎源氏 第四編』は、日本古典文学会の監修・編集、株式会社ほるぷ出版による複製・刊行です。縮小されていますが、オリジナルと袋綴じになっています。これを参考にして制作したのが和字書体「えど」です。

このほか、明治時代以降の金属活字の書体は影印本がなく、国立国会図書館の電子複写や、東京築地活版所や青山進行堂活版製造所の書体見本帳からの電子複写により、和字書体「いけはら」「ひさなが」「ゆかわ」を制作しました。
和字書体「いしぶみ」は、雑司ヶ谷霊園にある「槙舎落合大人之碑」の拓本を資料にして制作しました。


補足1 書字(ハンドライティング)による書物



●『国宝源氏物語絵巻』(五島美術館所蔵) 株式会社便利堂による複製・発行。巻子本。



●『御物本倭漢朗詠集』(宮内庁三の丸尚蔵館所蔵) 株式会社便利堂による複製・発行。粘葉本。




補足2 刻字(レタリング)による書物




●『偐紫田舎源氏 第四編』(柳亭種彦著、1831年) 日本古典文学会の監修・編集、株式会社ほるぷ出版による複製・刊行。袋綴じ。



●『字音假字用格』(本居宣長著、1776年)  勉誠社文庫10『玉あられ・字音假字用格』(勉誠社、1976年)より。




補足3 タイポグラフィによる書物



●『夏木立』(山田美妙著、金港堂、1888年) 特選名著復刻全集より。株式会社ほるぷ出版の製作、日本近代文学館の刊行。並製本。



●『ふるさと』(島崎藤村著、実業の日本社、1920年) 名著復刻日本児童文学館より。株式会社ほるぷ出版の刊行。上製本。




なお、typeKIDS ではいろいろな手製本を体験しています。