typeKIDS Report

活字書体を使う人のための勉強会

typeKIDS Meeting 2021, Part 1

2021年12月26日 | typeKIDS_Meeting
札幌ほしくずナイト
見果てぬ夢––星屑書体集成を語る
2021年10月21日、札幌クラークホテル



新型コロナウイルス感染症の蔓延により、typeKIDS Meetingは開催できなかった。ちょっと寂しいので、架空のセミナーを妄想してみた。
唯一、宿泊した札幌市のホテルから発信するかたちで「札幌ほしくずナイト」としてみた。内容は欣喜堂の「星屑書体集成」の解説である。

第1夜

みなさん、こんばんは。
今、私は札幌に来ています。札幌には2018年から4年計画で、5月に訪れようと企画していたのですが、残念ながら昨年は新型コロナウイルス感染症(COVID–19)が蔓延して、断念せざるを得ませんでした。ことしも5月23日からの予定でしたが、再び感染が拡大し、3度目の緊急事態宣言が発出され、北海道も蔓延防止重点措置が出されるという状況になり、夏になると感染が爆発的に拡大しまして、結局秋になってしまいました。
きょうは、昨年予定していた「札幌芸術の森」に行ってきました。スタートは札幌市立大学芸術の森キャンパス(デザイン学部)から。札幌芸術の森美術館、札幌芸術の森工芸館をめぐった後、芸術の森に移築されている作家・有島武郎旧邸を見学しました。札幌芸術の森野外美術館は思っていたより起伏があり、思っていたより迷路でしたね。明後日には、モエレ沼公園、サッポロファクトリー、札幌ドームを回って、昨年の計画を回収したいと思っています。
先ほど、レストラン・クラーク亭でハンバーグ(Mサイズ、ライス・スープ・サラダ付き)をいただいてきました。学生が多いためか、かなりのボリュームでした。
ということで、札幌クラークホテルの502号室の窓から北海道大学を臨みながら、[札幌ほしくずナイト第一夜]という時間にしたいと思います。


Chapter 1 ゆきぐみ重陽、つきぐみ月光、はなぐみ花信

最初のセクションとして、ゆきぐみ重陽、つきぐみ月光、はなぐみ花信を取り上げます。これは既存の書体で言えば、楷書体、隷書体、行書体に相当します。これらは一般的には筆書系と言われていますが、木版印刷の本文をベースにしようと思いました。その方が活字に近いものだと考えたのです。
「ゆきぐみ」と「はなぐみ」は明治時代の木版教科書、『中等國文 二の巻上』(1896年、東京・吉川半七藏版)を参考にして制作した書体です。この教科書、本文は楷書体だが、手紙文は行書体で、どちらも彫刻の味わいが残るいい書体です。毛筆で書かれた文字が、彫刻刀でなぞられることによって力強さが加味されています。「つきぐみ」は、昭和初期の地図『東京』(1934年、大日本帝国陸地測量部)の等線の手書き文字を参考にして、隷書体と組み合わせることを想定して制作しました。和字書体として発売して、既成の漢字書体の楷書体・行書体・隷書体をむすぶ書体の一族ができるようにしました。
明朝体、ゴシック体のファミリーまでなら多くのメーカーで制作されていますが、楷書体、行書体、隷書体を揃えているメーカーは多くありません。しかも明朝体、ゴシック体ほどには、楷書体、行書体、隷書体に力を入れていないように思えます。使用状況を考えるとやむを得ないことでしょう。それでもやはり、漢字書体、欧字書体を加えた日本語書体として、構想だけでも示したいと思いました。それが「ゆきぐみ重陽」「つきぐみ月光」「はなぐみ花信」です。

KOゆきぐみ重陽M







KOつきぐみ月光M







KOはなぐみ花信M








Chapter 2 ゆきぐみラージ上巳、つきぐみラージ端午、ときわぎ七夕

もうひとつの大きな構想がふくらんできました。それは「ゆきぐみ」を明朝体に、「つきぐみ」をゴシック体に組み合わせる和字書体を、同じコンセプトで制作するということでした。大きさを工夫して、漢字書体の楷書体・行書体・隷書体にくわえて、明朝体・ゴシック体をふくみ、それぞれがファミリーを形成するという今までにない壮大な構想ができあがったのです。それぞれを「ゆきぐみラージ」、「つきぐみラージ」としました。
明朝体・ゴシック体は既成の書体では、すでに優れた書体が多く販売されていることから、まずは和字書体を優先して制作することにしました。漢字書体は混植(合成フォント)で使えばいいと思ったのですが、面倒だ、使い勝手が悪いという声がありました。プランとして、「ゆきぐみラージ上巳」、「つきぐみラージ端午」を試作しています。
さらに「ときわぎクラシック」を加えました。『右門捕物帖全集 第四巻』(佐々木味津三著、鱒書房、1956年)の本文に使用されている、力のある和字書体を参考に「ときわぎロマンチック」として制作しました。これをもとに宋朝体との混植を目的として制作したのが「ときわぎクラシック」で、これに漢字書体「七夕」を組み合わせたのが「ときわぎ七夕」です。
漢字書体名の「上巳」「端午」「七夕」は五節句から取っています。

KOゆきぐみラージ上巳M







KOつきぐみラージ端午B







KOときわぎ七夕M








Chapter 3 まき林佶、ロンド巴里、タクト造像

さらに、欧字書体に対応する和字書体を制作しようという構想がありました。漢字書体との混植を考えながら、育ててきた書体群である。書写の書体から、ヒューマニスト系統に対応する書体、テクストゥーラ系統に対応する書体、そしてレタリングの書体から、サンセリフ・ラウンド系統に対応する書体を制作するということです。
欧字書体のヒューマニスト体に対応する和字書体として制作したのが「まき」という書体です。幕末の三筆のひとりである巻菱湖の書いたひらがなを版下とした海援隊の初歩的英語教科書 『和英通韻以呂波便覧』(巻菱湖書、土佐・海援隊、1868年)をベースにしました。「まき」と漢字書体「林佶」、欧字書体のヒューマニスト体「K.E.Cassiopeia Medium」とともに組み合わせたのが「まき林佶」です。
欧字書体のテクストゥーラ系統に対応する和字書体を制作したいと考えていました。テクストゥーラ体と北魏楷書体とは時代も書字の道具も異なっているが、なんとなく同じ匂いがしました。これらとの組み合わせを想定した和字書体として制作したのが「タクト」です。「まき」と漢字書体「造像」、欧字書体のテクストゥール体「K.E.Ophiuchus-Medium」とともに組み合わせたのが「タクト造像」です。
欧字書体のラウンド・サンセリフ体に対応する和字書体も加えることにしました。漢字書体の丸ゴシック体との組み合わせを想定して和字書体「ロンド」を制作しました。わが国では丸ゴシック体といっているもので、どちらかというと日本では看板などで好まれている書体です。「ロンド」は和字書体「アンジェーヌ」、「ルリユール」、「テアトル」、「ロンド」と漢字書体「巴里」とともに、欧字書体のラウンド・サンセリフ体「K.E.Orion-DemiBold」とともに組み合わせたのが「ロンド巴里」です。

KOまき林佶M







KOタクト造像EB







KOロンド巴里(パリ)TK








(2023年5月17日更新:画像追加)
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