typeKIDS Report

活字書体を使う人のための勉強会

特別セミナー「欧字書体のSuccession」報告

2016年07月19日 | typeKIDS_News
特別セミナー「欧字書体のSuccession」報告
話者:今田欣一
日時:2016年7月2日(日)13:00−17:00
場所:東京芸術劇場ミーティングルーム1

今回の会場は、東京芸術劇場(Tokyo Metropolitan Theatre)の5階の奥にあるミーティングルーム1(Meeting Room 1)です。typeKIDSで団体登録してあり、以前はここでtypeKIDSの定例会をやっていました。いつもの榎町地域センターにはプロジェクターがないので、久しぶりにこの会場でおこなうことにしました。



欧字書体をテーマとしたセミナーは初めてのことですが、いつものメンバーという安心感もあって、気がつけば2時間ちかくになっていました。
50枚余のスライドを使って話したのですが、そのまとめは別の機会に譲ることにして、ここではこのセミナーで参考にした3冊の書物について記しておきたいと思います。





『西洋活字の歴史:グーテンベルグからウィリアム・モリスへ』(スタン・ナイト著、高宮利行監修・翻訳、安形麻里翻訳、慶應義塾大学出版会、2014年)
この『西洋活字の歴史:グーテンベルグからウィリアム・モリスへ』は、活版印刷の誕生から20世紀初頭までのすぐれた活字書体を、その活字が使われた書物の図版と解説で時代順に紹介しています。西洋活字の造形と歴史がわかりやすくまとめられています。
欣喜堂で制作している欧字書体(12書体プラス1書体)には、それぞれに複数の復刻書体があり、また世界的に定番となっている書体ばかりです。この書物と同じように、それぞれのオリジナルの活字が使われた書物の図版と欣喜堂欧字書体(12書体プラス1書体)をならべて、その選択の理由などを話しました。



『もっと知りたいカリグラフィー―絵と写真で見る歴史と技法』(ディヴィッド・ハリス著、小田原真喜子監修、弓狩直子翻訳、雄鶏社、1997年)
和字においても、漢字においても、欧字においても、活字書体の基本は書字にあると思います。漢字の書道に相当するものとして、欧字ではカリグラフィーと言われます。この『もっと知りたいカリグラフィー―絵と写真で見る歴史と技法』は、さまざまな書体について構成要素と基礎的ストロークを豊富な図版で解説しています。
欣喜堂で制作している欧字書体について、カリグラフィーからの視点をベースにしながら、欧文書体の基礎知識について解説した『欧文書体 その背景と使い方』(小林章著、美術出版社、2005年)も参考にしながら、活字書体としてのエレメント、ハイトとライン、スペーシングなどの考え方を話しました。
世界的に定番となっている書体ばかりなので、あまり欧米の各国語に強くない者が作ることにはかなり抵抗がありました。しかしながら、漢字書体、和字書体がそれぞれ復刻した書体である以上、欧字書体のみを新規で制作することは考えられなかったのです。定番となっている代表的な書体に、あえて挑戦してみることにしたのです。



『欧文書体2 定番書体と演出法』(小林章著、嘉瑞工房監修、美術出版社、2008年)
活字書体は使われなければ意味がありません。この『欧文書体2 定番書体と演出法』では、定番書体の効果的な使い方を、海外での使用事例の写真とともに、より実践的に紹介しています。日本語書体の使い方を考える上でも参考になる書物です。
欣喜堂で制作している欧字書体は、残念なことにほとんど使われていません。力量不足を感じますが、いつの日か広く使われる日が来ることを信じて、完成度をさらに高めていきたいと思っています。





Glyphs で吉備書体(1)

2016年07月17日 | typeKIDS_Workshop
「いぬまる吉備楷書」「さるまる吉備隷書」「きじまる吉備行書」は、ハンドライティング(書字)からタイプフェイス・デザインへ発展させた書体である。



当初は「欣喜楷書W3」、「欣喜行書W3」、「欣喜隷書W3」と言っていた。フェルトペンで書いたものをAdobe Streamline でアウトライン化して、Fontographer で修整、「漢字エディットキット」で日本語のデジタルタイプを作成した。



漢字書体1006字のレベルで3書体の試作品が完成したのは2001年のことだった。試用版の無料頒布期間が終了したのちも試行錯誤を繰り返していたが、いろいろ迷いながら変更していったことをいったん破棄して、初心に返ってやり直すことにした。

再チャレンジにあたっては、勉強ということもあって Glyphs を使ってみた。それからずいぶん時間が経過した。どうしてもやらなければという気持ちがなくて、しかも漢字書体で Glyphs を使い慣れていないということもあって、ずっとそのままになっている。







TypeKIDSの今後の展開のためにも、 Glyphs 版の「いぬまる吉備楷書」「さるまる吉備隷書」「きじまる吉備行書」を、なんとかしたいと思っている。

白澤書体:着地点をどこに定めるか

2016年07月05日 | typeKIDS_Workshop
「白澤中明朝体」「白澤太ゴシック体」「白澤太アンチック体」それぞれの課題文字が、墨入れされてできあがってきた。始めてから1年以上かかった人もいる。学校の授業であれば、これを採点しておわりになるのだろうが、この段階ではまだまだ白澤書体としてのレベルに至ってはいない。



会社ではこれからが勝負なのだ。新入社員の研修期間においては、担当の上司がチェックして、その指示で修整していくということを何度か繰り返したのちに、やっとOKが出るのだが、それでも新人だからということで手加減してくれていると感じていた。
実際の仕事となると容赦ない。完成したと思っている原字を上司のところにもっていくと、黙って修整をはじめる。なにも助言してはくれない。その修整の行方を後ろに立って、上司の手の動きをひたすら見て学んでいくのである。最後に「こんな感じ」といって終わり。「ありがとうございました」と言って席に戻る。その繰り返しである。
もう少し作業が進んでくると、時間がもったいないので「そこに置いといて」ということになる。後で上司がまとめて修整していくのだ。それだと悔しいから、どのように直されているのかをこっそり見に行く。それで勉強するのである。
これを「徒弟制度」といった人がいた。あるいは、その会社には書風というのがあって、それが刷り込まれてしまい、その会社に所属している人は同じテイストの書体しかできなくなるという人もいた。それは間違いだと思う。その上司も、書体見本に合わせているだけなのだ。

さて、「白澤中明朝体」「白澤太ゴシック体」「白澤太アンチック体」は、どこを着地点に定めればよいのだろうか。もともと書体デザイナーをめざしているわけではなく、ただ体験してみたいということではじめたプロジェクトであるので、原字としてはそれぞれのメンバー各々が望んでいるところのレベルで完成できればと思っている。
TypeKIDSメンバーのモチベーションを高めるために、「◯◯塾」に対抗して(?)、typeKIDS Exhibition 2016 の開催を考えていたが思いとどまった。オリジナルの書体を制作しているわけではなく、仮に完成度が高まったとしても「習作」であることに変わりない。わざわざ足を運んでもらうようなものではないのでは……という意見が多かった。
当面は、このブログでレポートするにとどめたいと思う。モットーは「地道にコツコツ」である。