typeKIDS Report

活字書体を使う人のための勉強会

typeKIDS Meeting 2022

2022年12月26日 | typeKIDS_Meeting
筑波あめかぜナイト
見果てぬ夢--日本語書体四坐・日本語書体三傑を語る

新型コロナウイルス感染症の蔓延により、2年連続でtypeKIDS Meetingは開催できなかった。ちょっと寂しいので、架空のセミナーを妄想してみた。つくば市のホテルから発信するかたちにして、当日は本降りの雨で風も強かったので「筑波あめかぜナイト」としてみた。


2022年10月7日、ホテルグランド東雲

みなさん、こんばんは。きょうはつくば市に来ています。
今年は、冬の旅で、江戸東京博物館と国立公文書館、春の旅で、塙保己一記念館と塙保己一史料館、夏の旅で、万博記念公園を見学してきました。また、2019年に行った群馬県のロックハート城に加えて、5月に栃木県の日光江戸村、8月に鳥取県の中国庭園燕趙園という中規模のテーマパークに行ってきました。それらの締めとなる秋の旅では、つくばエキスポセンタ―と科学万博記念公園を見学しようという計画です。
関東地方は朝からあいにくの雨で、TXつくば駅に着いた頃には本降りになっていました。予定を大幅に変更して、この日は「つくばエキスポセンター」のみの見学にしました。駅から雨の中を歩いて向かいましたが、思っていたのより遠く感じたのは雨のせいでしょう。
夕食をとってから早めにホテルにチェックインしました。ということで、ホテルグランド東雲の一室から、[筑波あめかぜナイト]という架空のオンライン・セミナーをお届けします。


第1部 日本語書体四坐 前半

「KOまどか毛晋M」の構想

「まどか」は、2005年に「和字書体三十六景第三集」のなかの1書体として発売されています。これに、漢字書体「毛晋」、欧字書体「K.E.Gemini」を加えて、「KOまどか毛晋M」とすることを構想しています。
和字書体「まどか」は、青山進行堂活版製造所の見本帳『富多無可思』(青山進行堂活版製造所、1909)から復刻しました。『富多無可思』は、青山安吉による「自叙」が四号楷書体活字で組まれており、竹村塘舟による「跋」は四号明朝体活字で組まれています。両者を比べてみると、漢字書体がことなっているだけで和字書体はまったく同じものです。これを復刻したのが「まどか」です。
漢字書体「毛晋」は、毛氏汲古閣『宋名家詞』の字様を参考にした習作です。汲古閣には84,000冊の書物が収蔵され、さらには650種以上の刊本が出版されましたが、それらは「汲古閣本」「毛本」などと呼ばれ、現在に至るまで、良質のテキストとして広く流通しています。『宋名家詞』は、毛氏汲古閣の出版物において世に知られている書物のひとつです。毛筆の筆法を残した軟質の明朝体です。
欧字書体「K.E.Gemini」は、18世紀のイギリスを代表するウィリアム・キャズロン(1692–1766)の活字書体を参考にしました。キャズロンの活字(再鋳造)が使用されている『The Diary of Lady Willoughby』(1844)から抽出したキャラクターをもとに、日本語組版に調和するように制作しました。


国立公文書館(東京都千代田区)、2022年2月26日訪問






「KOさがの臨泉M」の構想

和字書体「さがのM」は、2002年に「和字書体三十六景第一集」のなかの1書体として発売されています。これに、漢字書体「臨泉M」、欧字書体「K.E. Scorpio-Medium」を加えて、「KOさがの臨泉M」とすることを構想しています。
和字書体「さがの」は、和泉書院影印叢刊27『伊勢物語 慶長十三年刊嵯峨本第一種』(片桐洋一編、和泉書院、1981)を参考にして制作しました。角倉素庵(与一、1571–1632)は数多くの書物を刊行しました。これを出版地の名称にちなんで嵯峨本といい、『伊勢物語』など13点が現存しています。おもに木活字をもちいて用紙・装丁に豪華な意匠を施した美本です。江戸時代の出版文化の隆盛に画期的な役割をはたしたといわれます。
漢字書体「臨泉」は、御家流臨泉堂(生没年不詳)書による『御家千字文』(江戸書林、1814)を参考にした習作です。御家流のもっとも大きな特徴は、Sを横に寝かせたようなうねりをもっていることです。中国(隋・唐)から伝来した真書(楷書)・行書・草書とはことなった日本固有の書体です。この「和様体」をひとつのカテゴリーとして立てておきます。
欧字書体「K.E.Scorpio-Medium」は、『活字書体見本帳』(フライ・アンド・スティール活字鋳造所、1795)のスクリプト体を参考にしながら、日本語組版に調和するように制作しました。


塙保己一史料館(東京都渋谷区)、2022年4月11日訪問






第2部 日本語書体四坐 後半

「KOめじろ上巳M」の構想

「めじろM」は、2019年に「和字書体十二勝」のなかの1書体として発売されています。これに、漢字書体「上巳M」、欧字書体「K.E.Leo-Medium」を加えて、「KOめじろ上巳M」とすることを構想しています。
和字書体「めじろ」は、『センサスの経済学』(児島俊弘・関英二著、財団法人農林統計協会、1964)の本文に使われた和字書体をベースにして制作しました。ちょうど東京オリンピックが終わった頃に出た本です。そこに現れた本文の書体は、まさに昭和30年代の高度成長期をイメージさせるふくよかな和字書体でした。
漢字書体「上巳」は、『中国古音学』(張世禄著、商務印書館、1930)の本文書体を参考にした習作です。商務印書館は、当時の美華書館の責任者ジョージ・F・フィッチ(費啓鴻)の援助で設立した出版社で、1900年には日本人経営の修文書館の設備と技術を吸収して日中合資となり多くの書物が出版されました。『中国古音学』の本文は近代明朝体で、洗練されて味わい豊かな近代明朝体となっています。
欧字書体「K.E.Leo」は、イタリアのジャンバティスタ・ボドニ(1740–1813)によって1790年以降に設計されたモダン・ローマン体を参考にしました。コントラストのつよい直線的で機械的な外観の書体です。『チメリオ・ティポグラフィコ』(1990 復刻版)から抽出したキャラクターをベースに、日本語組版に調和するように制作しました。


万博記念公園・太陽の塔(大阪府吹田市)、2022年7月3日訪問






「KOめぐろ端午B」の構想

「めぐろB」は、2019年に「和字書体十二勝」のなかの1書体として発売されています。これに、漢字書体「端午B」、欧字書体「K.E. Aquarius-Bold」を加えて、「KOめぐろ端午B」とすることを構想しています。
和字書体「めぐろ」は、『センサスの経済学』(児島俊弘・関英二著、財団法人農林統計協会、1964)の章扉に使われた和字書体(ゴシック体)をベースにして制作しました。和字ゴシック体でまとまった文章が組まれた例は多くないので復刻の対象にしました。「めじろ」とペアとして捉え、財団法人農林統計協会の所在地にちなんで「めぐろ」と名付けました。
漢字書体「端午」は、『瞿秋白文集』(瞿秋白著、北京・人民文学出版社、1953)の小見出しで使われているゴシック体(黒体)を参考にしました。当初は、「めぐろ」と組み合わせる漢字書体は「めじろ」と同じように制作しようと考え、『中国古音学』に使われているゴシック体にしようと思っていましたが字数が少なく断念しました。『瞿秋白文集』もそれぞれの見出しとしての字数は少ないのですが、全部集めれば100字以上の字種が抽出できたのです。
欧字書体「K.E. Aquarius-Bold」は、ドイツ工作連盟(ドイツ・ヴェルクブント)のメンバーだったパウル・フリードリヒ・アウグスト・レンナー(1878–1948)がバウワー活字鋳造所との共同作業によって幾何学的な考え方で1927年に発表した書体「フツーラ(Futura)」を参考にしました。『フツーラ書体見本帳』から抽出したキャラクターをベースに、日本語組み版に調和するように制作しました。


つくばエキスポセンター(茨城県つくば市)、2022年10月7日訪問






第3部 日本語書体三傑

「KOおゝはなぶさ美華M」の構想

和字書体「はなぶさ」は、和字書体三十六景第一集(2002)のなかの1書体として発売された。原資料は、『少年工芸文庫第八編 活版の部』(博文館、1902)にみる和字書体でした。
「和字オールドスタイル」でも、字面を大きく設定することにより新しい可能性を見出すことができるのではないかと考えました。「おゝはなぶさ」は、汎用性を高めるために字面を大きめに設定し、キャラクター個々の形象を検討して整合性を持たせるようにしました。
「はなぶさ」は漢字書体を楷書体と組み合わせることを想定していたので、脈絡を取り去っており、これを「おゝはなぶさ」も踏襲していましたが、漢字書体「美華」と組み合わせるにあたって、原資料に立ち返って脈絡をつけるようにしました。
漢字書体「美華《メイホア》」は、旧約全書』(上海・美華書館、1865)の本文書体を参考にしました。『座右之友』(東京築地活版製造所、1895)所載の「五號明朝」は、美華書館の明朝体を継承し、改良したものと考えられます。腰高で締まったイメージがある近代明朝体です。
和字書体「おゝはなぶさ」、漢字書体「美華」と組み合わせる欧字書体として「K.E.Gemini」を選びました。もとになったのは、ウィリアム・キャズロン(1692–1766)の活字です。「KOまどか毛晋M」に「K.E.Gemini-Medium」が組み込まれていますが、「おゝはなぶさ美華」として組み合わせるために、ラインやウィドゥスなどを再設定するつもりです。


日光江戸村(栃木県日光市)、2022年5月9日訪問






「KOおゝくれたけ伯林B」の構想

和字書体「くれたけ」は、和字書体三十六景第一集(2002)のなかの1書体として発売されました。原資料は、森川龍文堂『活版総覧』(1933)に所載されている「12ポイント呉竹体」の和字書体です。
「和字ゴシック体」においても、字面を大きく設定することにより新しい可能性を見出すことができるのではないかと考えました。「おゝくれたけ」は、汎用性を高めるために字面を大きめに設定し、キャラクター個々の形象を検討して整合性を持たせるようにしました。
「くれたけ」は、漢字書体を隷書体と組み合わせることを想定していたので、波磔を強調した描き方になっており、これを「おゝくれたけ」も踏襲していましたが、漢字書体「伯林」と組み合わせるにあたって、現資料に立ち返って、波磔を無くすようにしています。
漢字書体「伯林《ベルリン》は、『座右之友』(東京築地活版製造所、1895)所載の「五號ゴチック形文字」を参考にしました。荒削りながら腰高であるのは、『旧約全書』の近代明朝体と同じです。
和字書体「おゝくれたけ」、漢字書体「伯林」と組み合わせる欧字書体として「K.E.Sagittarius」を選びましだ。もとになったのは、ヘルマン・ベルトルト(1831-1904)のベルトルド活字鋳造所が1896年に発表したサン・セリフ体「アクチデンツ・グロテスク」です。「KOくらもち銘石B」などにも「K.E.Sagittarius-Bold」が組み込まれていますが、「おゝくれたけ伯林」として組み合わせるために、ラインやウィドゥスなどを再設定するつもりです。



中国庭園燕趙園(鳥取県湯梨浜町)、2022年8月16日訪問






「KOおゝことのは倫敦BK」の構想

和字書体「ことのは」は、和字書体三十六景第二集(2003)のなかの1書体として発売されました。「ことのは」の原資料は、『辞苑』(新村出編著、博文館、1935)の見出し語の書体です。
「和字アンチック体」においても字面を大きく設定することにより新しい可能性を見出すことができるのではないかと考えました。「おゝことのは」ファミリーも、形象をさらに検討するとともに、より一層汎用性を高めるために字面を大きめに設定しています。
漢字書体「倫敦《ロンドン》」は『座右之友』(東京築地活版製造所、1895)所載の「五號ゴチック形文字」を参考にしました。『座右之友』には、「五號ゴチック形文字」とともに「五號アンチック形文字」が掲載されています。ゴシック体の漢字書体が普及していったのに対してアンチック体の漢字書体はまったく見られないので、漢字書体のアンチック体がラインナップにほしいと思いました。「五號アンチック形文字」は江戸時代の看板文字などを参考にしたようにも思われますが、より現代的に解釈することにしました。
和字書体「おゝことのは」、漢字書体「倫敦」と組み合わせる欧字書体として「K.E. Pisces」を選びました。もとになったのは、ロバート・ベズリによる「クラレンドン」です。発売予定の「KOみなもと方広BK」にも「K.E. Pisces–Black」が組み込まれていますが、「おゝことのは倫敦」として組み合わせるために、ラインやウィドゥスなどを再設定するつもりです。


ロックハート城(群馬県高山村)、2019年7月21日訪問












コメント
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