循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

なぜ灰溶融炉を問題にするか

2007年10月03日 | 灰溶融炉
(1)灰溶融技術登場の背景

①灰溶融は70年代の高度成長期を背景に「ごみが大量に出る」ことを前提として開発された技術である。

②建前は処分場の延命と土壌汚染対策であり、最初に実証試験を行なったのは1977年のタクマ(バーナー加熱方式)、翌78年の旧NKK(電気抵抗型)である。

③その後、コークスベッド、プラズマ溶融など様々な方式で14のプラントメーカーがそれぞれ得意とする自社技術でこの分野に参入した。しかし自ら燃える力のない無機物を溶融するにはカロリーゼロの状態でエネルギーをかけるため、多額のコストを要し、かなりのリスクを負うことになる。

④加えて焼却灰中の重金属類揮散やトラブルの頻発などを危惧し、積極的に導入する自治体はなく、80年代における導入例はわずか4件であった。

⑤だが90年代に入り、状況が変る。すなわち1991年の廃棄物処理法改正で特別管理廃棄物の基準が定められ、飛灰についてはセメント固化、薬剤処理、溶媒による重金属処理に加えて溶融固化が義務づけられた。

⑥さらに1996年、旧厚生省は国庫補助を受けて新規に着工する焼却施設(清掃工場)には灰溶融炉を併設するよう指導を行なった。国の指導とは強制に他ならない。プラントの新設や建て替えを計画する自治体は国庫補助金欲しさにストーカ炉に灰溶融炉をつけるか、ガス化溶融炉の採用を選択するしかなくなった。こうした国の誘導策で90年代後半から2000年以降、灰溶融炉導入の勢いは加速し、03年度における設置件数は約50に達した。

⑦その一方、2000年から本格稼動をはじめたガス化溶融炉(ごみそのものを溶融スラグにする装置)は運転が複雑かつ不安定で、爆発事故を含むトラブルが相次いでいる。しかも自己熱溶融(ごみが持つカロリーで自らを溶融する)というガス化溶融炉のセールスポイントに反して大量の助燃(灯油などの追い焚き)が必要である。それが運転コストを高騰させ、ここ数年、ガス化溶融炉の評価は下落した。

⑧そこでいま全国的に自治体の関心は従来型の焼却炉、すなわちストーカ炉に向きはじめ、実際の機種選定作業でもその比率は増えつつある。たしかにストーカ炉は普及後40年の歴史があり、運転も簡単で、かつ安定しているが、問題は国庫補助(現在は交付金)をとるため、灰溶融炉の併設が強要されることである。
ちなみに環境省の最新統計によれば2005年度における灰溶融炉の導入状況は116件となっている。現在全国で稼働中の焼却施設(ストーカ炉・流動床炉施設、ガス化溶融炉を除く)を合計すると1,242ヶ所になるが、うち灰溶融炉を設置している施設は9.3%である。

(2)灰溶融炉導入現場の実態

①灰溶融炉が持つ最大のウィークポイントは、a.エネルギーコストが嵩むこと、b.爆発を含むプラント事故が予想外に多いことである。

②現場の実態は「年300日稼動」というメーカー側の触れ込みにもかかわらず運転が止まっている日数の方がはるかに多い。原因は事故・トラブルの多発にあることはむろん、それに備えて精度のいいセンサー(インターロック機能など)を設置したためでもある。つまりセンサーが敏感に反応し、プラントがその都度停止する。その場合、原因究明に時間がかかったり、問題個所を修理するなどで仕事にならない日も少なくないという。

③特にケーススタディのひとつに紹介する東京都足立清掃工場の場合、2005年5月に「火柱が10メートル上がるほど」の爆発事故を起こした。しかし不幸中の幸いだったのはその時点で出力が最低レベルだったことである。これが最大出力での運転中だったら被害は局部にとどまらず、プラント全体に火災が起き、ひょっとして近隣住民に避難命令が出るケースもあり得たという。

〈参考〉
 全国焼却施設等(環境省調べ・2007年公表)
   ガス化溶融炉    79
   ストーカ炉   1,058
   流動床炉     184
   (灰溶融炉     116)

 なお1997年1月、「ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン」が策定され、それに基づいて旧厚生省が悪名高き「ごみ処理広域化計画」を公表した。その計画開始の1998年度以降に建設された日量100トン以上の新施設(焼却炉・ガス化溶融炉など)の数は186ヶ所となっている。



最新の画像もっと見る