Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

犠牲者に託された農業

2013-09-30 23:55:45 | ひとから学ぶ

 わたしにとってまだ暦が変わらぬ午前1時前、NHKの地方発ドキュメンタリー「俺は犠牲者なのか~富山 兼業コメ農家の今~」を視た。番組紹介記事には次のように書かれている。

兼業農家の割合が9割と、全国1位の富山県。小矢部市金屋本江第2集落も25軒全てが兼業農家だった。今年4月、農業だけで生計を立てる専業農家が生まれた。菅野由達さんと高橋健聡さんの2人。菅野さんは、住宅建材メーカーの工場で働いてきたが、業界の厳しい競争や景気の低迷により、集落から地域の田んぼを守ってくれないかと声をかけられた。菅野さんが働くのは、集落営農組合・金屋本江アイリスファーム。25軒分、東京ドームおよそ9個分の広さの畑を、用水路の管理や草むしりなど兼業農家では手がまわらない毎日の作業を専従者として行っている。菅野さんは、「地域に少しでもプラスになれば。背負って立とうとは思わない。」と語る。
専従者には重要な仕事がある。2年前から始めた、コメの直接販売。以前は全て農協に買い取ってもらっていた。売れ残るリスクはないが、収益は少なくなる。組合は、リスクを覚悟で収益が多い直接販売に踏み切った。今年は、全体の4割を直接販売にまわし300万円の収益アップを目指している。菅野さんは近くの駅にコメの裏に注文書とパンフレットをつけて販売することはできないかとお願いしたが、特定の組合だけ特別扱いはできないと断らてしまった。菅野さんは、「いろんなチャレンジをして、その中で成功すればいい。商売そんなもんだと思う。」と話した。

 「東京ドームおよそ9個分の広さの畑を」というのは間違いだろうか、コメ主体の集落営農組織のようだから、おそらく「畑」ではなく「水田」だろう。専従者となった菅野さんの月給は19万円だという。年間にしても200万余、勤め人の初任給並みかもしれない。集落の期待を一手に担ったわけである゛、現実は厳しい。専従者となって初めての刈り取りの計画を見て、菅野さんは驚いた。9月1日から始まる収穫作業に休みがない。昨年までは組合員が交代で担っていたものが、専従者に任された。この夏の地区の運動会後の慰労会の席で最後に残った組合の役員達が今後の農業の姿を展望して激論になった。傍らでその激論に参加せず話を聞いていた菅野さんは、「意見を言え」投げられて口を開いた。隣の組合のおっさんに「お前ら犠牲者だな」と言われた。「犠牲者」という言葉が菅野さんのこころに重く響いていたのだろう。強い口調でその場にいた組合員に「みなさんの息子さんがやりますか」と問う。この語りで菅野さんは「犠牲者」だと思いたくないものの、現実的には「みなさんの息子さんたちの代わりにやっている」という犠牲感を抱いていたに違いない。

 集落営農は農政が誘導したもの。金屋本江アイリスファームのように具体的に法人化した組織も多い。そうした組織の運営もけして順調ではないだろう。一握りの成功者ばかり表に出るが、現実は、そしてそこで実際に働いている人たちには先々の不安は軽いものではない。

 災害の現場を回りながらいまだ稲穂が垂れている水田をたくさん見た。コンバインで刈るのだろう、その準備で隅を刈った稲が、脇に置かれたまま乾ききっている姿を見たりする。準備をしたのはもう一週間以上前のことなのかもしれない。乾ききった稲穂に涙が枯れ果てたような印象を見る。それにも増していまだ稲穂が垂れている水田にアメリカセンダングサや稗が稲穂を隠すほどに頭を出している光景をたくさん見る。我が家の稲刈りは、減農薬で雑草ばかりの稲束を刈るのが近年の景色である。そんな比ではない光景を直視する。稲作はこれが現実なのである。


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3 コメント

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NHK番組見て頂きありがとうございます。 (アイリスファーム、菅野です)
2014-03-23 03:12:02
たまたま、夜寝れず、携帯さわってたら、こちらを開いて拝見しました。
あれから、アイリスでは放送後、放送を利用してお米の販売を増大させようとする姿が大変不満に思ってます、送後同情でお米を購入していただいたお客様も多数います大変嬉しく感謝していますただ俺は一人も美味しいと買ってくれるお客様がほしいだけです、あの放送で俺が言いたかったのは、親を田舎において都会に行っている息子たち子供の為と甘やかしてる親に見て欲しかったです。
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感謝 (trx_45)
2014-03-23 09:05:07
 菅野さんからコメントをいただけるとは、感謝にたえません。
 都会には付加価値をつければ途方もない単価でも農産物を買ってくれる人がたくさんいるようです。そんな人たちに買っていただくよりは、安全なものを食べるという意識が広まってほしいとおもっいます。
 ところで自らの子どもたちには「農業などしなくてよい」と考えている農業者が、菅野さんたちのような人をどう見ているのでしょう。いまだ農業には根っこの意識に問題がたくさん詰まっていると思います。
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NHK番組見て頂きありがとうございます。 (アイリスファーム、菅野です)
2014-03-23 10:14:35
たまたま、夜寝れず、携帯さわってたら、こちらを開いて拝見しました。
あれから、アイリスでは放送後、放送を利用してお米の販売を増大させようとする姿が大変不満に思ってます、送後同情でお米を購入していただいたお客様も多数います大変嬉しく感謝していますただ俺は一人も美味しいと買ってくれるお客様がほしいだけです、あの放送で俺が言いたかったのは、親を田舎において都会に行っている息子たち子供の為と甘やかしてる親に見て欲しかったです。
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