夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

映画の中の女性~小津安二郎「秋日和」

2005-07-31 | art
 小津安二郎の映画は題名もストーリーも互いによく似ていると言われます。特に今回の「秋日和」(1960年)についてはそういう感が深いですね。秋という文字の入ったタイトルだけで、「麦秋」(1951年)、「小早川家の秋」(1961年)、「秋刀魚の味」(1962年)とある中で、もっともひねりがないですし、話の内容も未亡人の母親が心配で嫁に行く決心がつかない娘を中心に、亡父の友人3人が母親と娘の両方の縁談 . . . 本文を読む

ジャパン・レクイエム:Requiem Japonica(19)

2005-07-30 | tale
 突拍子もない、妙なトランペットの音が、仏間からみんなの間に響き渡った。上川家の跡とり息子の晃が最近練習している腕前を披露しようと持ち出したのだが、最初のフレーズ以降がうまく吹けない。彼だけではないが、酒がだいぶ回ってきたのだ。正一が「そんなヘタくそじゃあ、じいさんが出てきて笑われるぞ」と言う。  少しの酒で酔った光子が正一や勝子に遺産をめぐるいざこざを蒸し返したり、「兄さんが座っているところ . . . 本文を読む

レクイエム・ノート~Dies Irae①

2005-07-29 | music
 セクエンツィア(続唱)は、9世紀頃にミサ曲の中に採り入れられたものだそうで、聖書を基に創作的詩句を加えて数多く作られたのですが、トリエント公会議(1545-63)などで大幅に整理され、レクイエムにおいてはこれが13世紀にチェラーノのトマスが書いた“Dies Irae(怒りの日)”となって長く定着しました。分量的に他を圧して長いので、例えばモーツァルトのレクイエムで有名な“Lacrimosa(涙 . . . 本文を読む

私のバッハ体験~ゴルドベルク変奏曲

2005-07-28 | music
 前回と同様、私がクラシックを聴き始めた頃の話です。グレン・グルードの81年の新盤が出る前なので、隔世の感がありますが、音大に進学した友人たち先達に言わせると、グールドの演奏は、おもしろいけれどやりすぎっていう評価でした。そうか、際物みたいなものなのか、やっぱりチェンバロで弾かないとねと今も変わらぬ生判りをしていたんですが、LPを買って聴いてみると、こんなにわくわくする曲だったのか、いやいやこれ . . . 本文を読む

ジャパン・レクイエム:Requiem Japonica(18)

2005-07-27 | tale
 5 超法規的勝手にしやがれ~DIES IRAE  羽部宇八は怒っていた。なんに対して? 1977年9月30日のダッカ事件に対する福田内閣の取った『超法規的措置』に対してである。    なぜ? そんなことをすれば砂のような国家はバラバラになり、社会などという観念的な代物は雲散霧消してしまうからである。これは古代ギリシア以来決まっていることではないか。数々の亡国が証していることではないか。泉下 . . . 本文を読む

ウィーンで観た絵画~アルチンボルド「夏」

2005-07-26 | art
 美術館にお連れしたものの絵画には、およそ興味がないっていう感じのお客さんはけっこういるものです。こちらも無理に誘ったりはしないですが、「行きませんか?」と言われて、「行きません」ってきっぱり言うのは日本人には苦手なようですし、そんなことでいちいち気分を害しても仕方ありません。泰西名画なんて古めかしい言葉ですが、そういうものに興味がないなんて紳士、淑女の名誉に懸けても言えるものではないのでしょう . . . 本文を読む

レクイエム・ノート~シュッツ:音楽のお葬式”Musikaliche Exequien”

2005-07-25 | music
 ちょっと奇妙な題名ですが、1636年に行われたロイス侯ハインリッヒ・ポストフームの葬儀のために書かれた音楽で、プロテスタントによるレクイエムと言ってよいものです。シュッツの作品については、4/21の記事で「イエスの十字架上の7つの言葉」を彼のプロフィールとともに紹介していますので、ご覧いただければ幸いですが、この作品は彼の多くの傑作の中でも最高のものの一つだろうと思います。ドイツ語の歌詞を持つ . . . 本文を読む

レクイエム・ノート~トラクトゥス

2005-07-24 | music
 グラドゥアーレ以上にトラクトゥスは独自に作曲されることが少ないものです。私がこれまで聴いた中では、オケゲム(ca.1490年)、ド・ラ・リュー(1507年)、ラッスス(5声部、1578年)、そして先日ご報告したミフナ(1654年)しかありません。  物語に掲げた歌詞では、罪によって死者が拘束されていて(罪の縄“vinculo delictorum”)、そこから神によって解放されることを祈る内 . . . 本文を読む

ジャパン・レクイエム:Requiem Japonica(17)

2005-07-23 | tale
 それからしばらくは平和な日々が続いた。輪子の長いような、短いような夏休みも終わってしまった。いつの間にか、入道雲が彼方まで立ち上がる季節から、青空を箒で掃いたような雲の季節に変わっていたのである。  宇八も欽二ももう日曜のミサには出なかった。残暑が厳しいこの都市で、にわか信者がそう長続きできるものではない。時木茉莉もミサに顔を出さないことが多くなったこともあって、栄子はあの夜のことも、自分の . . . 本文を読む

レクイエム・ノート:ミヒャエル・ハイドンその他

2005-07-22 | music
 前回、いろいろ買ったレクイエムをようやく全部聴いたので、簡単にご報告したと思います。  スッペ(1855年):イントロイトゥス、セクエンティア(ディエス・イラエ)、オッフェルトリウム、サンクトゥスについて作曲しています。うーん、どこかヴェルディの小型版のように感じてしまうのは、オペレッタ作曲家だと思ってるゆえの偏見ですかね。  グノー(1893年):イントロイトゥス、キリエ、セクエンティア . . . 本文を読む

ウィーンで観た絵画~ピーター・ブリューゲル「雪中の狩人」

2005-07-21 | art
 4/22の記事で書いたようにウィーンの美術史美術館は、お客さんのお伴で嫌というほど行ったのですが、昨年、ひさしぶりにウィーンを再訪したときもやはり行ってしまいました。なつかしい数々の名画の中でも、最も人口に膾炙しているのがこのブリューゲルの「雪中の狩人」(1565年)だろうと思います。この絵は同じく有名な「バベルの塔」と右の角隣り、さらに出入り口を挟んで、左には「農民の結婚」、「子どもの遊戯」 . . . 本文を読む

私のバッハ体験~シャコンヌ

2005-07-20 | music
 私は元々はクラシック音楽には関心がなくて、ロックやポップスを聴いていたんですが、それも熱心というほどでもなく、音楽なしでも別にどうってことのない人間でした。大学に何とかかんとか入って、高尚な教養も身に付けなければと思ってクラシックを聴くようになったんですから、俗っぽいことこの上ない話です。もし今、学生時代を送っていたら、PCにはまってゲームかネット、いずれにしてもアキバ系を極めているだろうと思 . . . 本文を読む

ジャパン・レクイエム:Requiem Japonica(16)

2005-07-19 | tale
 翌朝、家計を支えるためスーパーマーケットで惣菜作りと販売をしている栄子と学校のある輪子が出掛けた後、布団の中でのたくっていた宇八に欽二から電話が入った。 「昨日は悪かったな」 「いや別にかまわん。すんだことを気にするな」 「どうだった? あそこはわりとうまいだろう?」 「まあ、あんなもんだろ。……何か用か?」 「用ってことも……奥さんは?」 「あいつはとうに出掛けた」 「何か言ってなかったか . . . 本文を読む

今日聴いた音楽~プッチーニ:「トゥーランドット」

2005-07-18 | music
 私が観たDVDは、北京の紫禁城で行われた歴史的演奏のライヴ・レコーディングで、メータの指揮、チャン・イーモウの演出によるとても豪華な舞台です。紫禁城という作品の舞台そのものの壮麗さ、装置の絢爛さもさることながら、華麗な衣装や北京舞踏学院の京劇ふうの踊りも申し分ありません。30分のメイキングまでついて3千円というのは安いでしょう。  しかし、これはある意味不思議なイヴェントです。この作品は、プ . . . 本文を読む

今日聴いた音楽~モーツァルト:「魔笛」

2005-07-17 | music
 「魔笛」を観るといつもある種のとまどいを感じます。一体このオペラは、無邪気なおとぎ話なのか、フリーメーソンの秘儀を示した舞台神聖劇なのか、夜の女王が第1幕と第2幕でなぜ全く反対の役割になってしまうのか、ザラストロの主宰するイシスとオシリスを崇める宗教は本当にタミーノとパミーナを幸せに導くのかなど、挙げていけばいろいろ疑問が湧いてきて、「フィガロの結婚」のような完成度がないように感じてしまいます . . . 本文を読む