日本の心

激動する時代に日本人はいかに対処したのか振りかえる。

大川周明 「満州未だ楽土たらず」

2021-02-21 20:47:22 | 大川周明

   『満州未だ楽土たらず』 
     大川周明 

満蒙をバルカンたらしむもる者
 
 満州は縷々欧米諸国において『アジアのバルカン』と呼ばれ、また多くの記者は好んでこの地域を『次の世界戦の舞台』とさえ呼んで来た。シナが満州事変を国際連盟に訴え、国際連盟が軽率なる行動に出たために、満州は今や国際政局の中心問題となってしまった。 
 
 平日は大国を以て世界に誇り、一旦事あらば他力本願に急転するは、シナの哂うべき伝統的態度にして、曾ては琉球事件を米国大統領グラントに訴え、また日清戦争後に三国干渉を招き、今また国際連盟に訴へて事端を紛糾せしめんとして居る。

 而も満州をアジアのバルカンたらしむるものは決して日本ではない。若し此の地をして世界戦の舞台たらしむる虞れありとすれば、それは堂々四億の民を以て自ら自国の問題を解決せんとせず、倉皇として外国の干渉を招かんとするシナの罪か、然らずんば日本を満州における正当な発展を、道理なく抑圧せんとする列強の態度にその責を負わせねばならぬ。

 満蒙が我が国に取りて生命線なることは最早や説明するまでもない。従って満蒙より我が国を駆逐せんとする如何なる国の企図も、それは我が国の国家的存在を拒むものにほかなら故に、我らは寸毫も譲歩する意思が無い。(大川生)

     (『東亜』第四巻一二号昭和六年十二月 230頁) 

上海における暴行 
 万もの権益が極力擁護されねばならぬことは言うまでもない。而もわが国民は単り満蒙においてのみ活動しているのではなく、わが権益は満蒙以外にも厳存している。それゆえに権益擁護は当然シナ全土に及ばねばならなぬ。現に揚子江流域殊に上海の如きは在留同胞三万を超え、その貿易は満蒙の上に出て居る。

 長江一帯における多年の排日、その暴戻に於いて満蒙における排日よりも甚だしく、権利は侵害せられ、同胞は侮辱されてきたにも拘わらず、何らこれらに対して積極解決を試みなかった。満州における不当な、軍部の決意によって終息せしめられた。
 いま上海における極端な排日は、ついに容すべからざる暴動にまで激化した。帝国の権益は、此処にてもまた擁護せられねばならぬ。国民は満蒙にその心を奪われて、長江を忘れてはならぬ。(大川生) 

     (『東亜』第五巻二号 昭和七年二月 231頁) 

満蒙未だ楽土ならず 
 新満州国家の建設は、満州問題の一段落に相違ないが、決して問題の終結ではない。新満州国の建国宣言と共に、忽然として朔北窮寒の曠野に楽土が出現せるかの如く考へ、満州問題に於いての緊張と覚悟とを聊かでも緩めるならば、やがて大なる失望落胆を嘗めねばなるまい。
 
 吾等は『100里の途は九十九理を以て半ばとする』と言へる古語の真理を、特に満州問題に於いて切実に感ずる。
 昨秋満州事変勃発してより今日に至るまで、第一線に立てる皇軍は言うまでもなく、在満民間の同志もまた水も漏らさぬ連携を保ちつつ万難に善処し、内に在りては国民がナショナル・ロマンティシズムとも呼べる感情の昂潮を以って、満腔の後援をおしまなかった。それなればこそ内外幾多の障害を突破して、新国家の建設を見ることができたのである。

 満州国はとにかくも建設された。而もそれは畢竟名目だけのことで、実は海月なす漂へる国たるに過ぎない。将来の修理固性は、一に日本の扶エキ(助けるの意)誘導を待つものである。而も日本は能く此の重圧に堪えへるか。第一線の功労者間に巧妙と権力の争いを生じて結束を破りはせぬか。考へ来たりて前途転た憂心に堪へない。

 さり乍ら満州に於ける日本の事業は、実に日本と満州を兼ね済ひ、惹いて東亜全局を救援する所以なるが故に、吾等は一層覚悟を堅確にし、満蒙の野に流された鮮血の犠牲を、断じて空しきものたらしめぬやうに心懸けねばならぬ。(大川生)

     (『東亜』第五巻四号 昭和七年四月 231頁)

 
 
   







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