国際聯盟と日本
曩(さき)に満州事変に関し、今亦上海事変に関して国際聯盟が、吾国に対して甚だしく不利なる態度を示すに及んで、国民は漸く国際聯盟の本質について反省し、かつ欧米人の支那に関する認識不足を憤かるに至った。
国際聯盟は、その成立の当初より、世界の現状を釘づけにしておくためのものであった。世界の現状を釘付けにすることは、新興国の成長発展を拒むことであり、弱小民族の自由と独立とに対する努力を阻止することであり、白人欧米の夕食人種に対する搾取関係を永久に保持することである。
この種の機関が、吾国と利害相容れざるものなることは、火を睹るより、燦然たるに拘らず、人類共栄、世界平和といふが如き標榜に眩惑せる国民の一部は、恰も弥陀来迎の如くにこれを礼賛した。
国民は今更欧米人の支那に対する認識不足に不平を言う前に、まずは国民自身が、如何に国際連盟に対して認識不足なりしか、如何に欧米に並びに欧米人に対して誤れる認識を抱いていたかを反省し、白人欧米に対する正確なる認識を得るに努めなくてはなぬ。(大川生)
(『東亜』第五巻第五号、昭和七年五月)
所謂挙国一致内閣の出現
非常事変(注、五・一五事件)によって倒れし犬養内閣の後を承けて、元老重臣が一週間に亘る慎重なる考慮の後に、斎藤老子爵を首班とする新内閣が生まれた。この内閣は、政友民生両政党政治家と新旧官僚政治家との合作なる点に於いて、あるいは挙国一致内閣との謂へるであらう。
其の政績如何は、国民が一斉に瞳を凝らして見んと欲するところである。
日本の今日は言ふまでもなく非常時である。内は蒼生の疾苦、日に甚だしきを加へ、外は満州問題を契機として深刻なる国際的危機が孕まれて居る。内外ともに一刀両断の政策を敢行するに非ざれば、ついに国難の並びに至るを免れない。
老齢七十五歳の首相の下に、七十九歳の蔵相、七十七歳の内相を以ってして、果たして電光影裡斬春風の政治を行ひ得るか否かは、吾等の先ず危惧に堪へぬところである。加ふるに昨日まで倶に天を戴かずとせる両政党より官僚を出だし、互いに牽制するに於いては、啻に緊急なる政策の断行が容易ならざるのみならず、その決定すらも容易でなからうと憂へられる。
この内閣は形式的に協力内閣であっても、断じて強力内閣ではない。または政党と官僚と網羅しただけで、澎湃たる新興勢力を度外せる点に於いて、決して真の意味の挙国一致内閣でもない。それ故にこの内閣に対する吾等の期待は極めて消極的ならざるを得ない。それはやがて生るべき真個に強力な国民内閣への過渡的役割を勤めるに過ぎぬであろう。(大川)
(『東亜』第五巻第六号、昭和七年六月)