従来のメディアは適応するのか、絶滅するのか…トランプ勝利は大手メディアの影響力低下を浮き彫りに
トランプの勝利は、主流メディアが影響力を失いつつあることを示している。
Beata Zawrzel/NurPhoto/Getty Images
- 2024年のアメリカ大統領選挙は、主流メディアが政治に関する意見をコントロールする力を失っていることを示したかもしれない。
- ポッドキャストやSNSは、政治家に信頼性とより多くの人々へのリーチを提供した。
- 従来の主流メディアとは異なるメディアの台頭は、フェイクニュースや偏見といった問題も抱えている。
2024年のアメリカ大統領選挙の選挙運動は、主流メディアの影響力の衰退を浮き彫りにした。
ポッドキャスト(Podcast)やゲーム配信、サブスタック(Substacks)やティックトック(TikTok)で行われる討論まで、政治家たちは戦いの場を新たなメディアの戦場に移している。
この変化は10年近く続いてきたが、従来主流だったメディアは今、新たな警鐘を鳴らされている。
「もはやメインストリームのメディアは情報の門番ではない。それらがニュースや情報の広がる過程をコントロールする時代は終わった」とロンドン大学セント・ジョージ校(St George's University of London)のポッドキャスト専門の上級講師、ブレット・スペンサー(Brett Spencer)は語っている。
トランプとハリスのオンライン対決
今回の選挙期間中、トランプは配信者のファン層、特にコメディアンのジョー・ローガン(Joe Rogan)やテオ・フォン(Theo Von)のポッドキャストを聴くような特定の男性ファン層をターゲットにした。
トランプはローガンのポッドキャストに出演して3時間にわたって彼と話している。
2024年10月26日に放送されたインタビューは、24時間以内に2600万回再生されたとニューズウィーク(Newsweek)は報じている。本稿執筆時点では4590回も聴かれている。
グラスゴー大学(University of Glasgow)でコミュニケーション、メディア、民主主義を専門とし上級講師を務めるポール・ライリー(Paul Reilly)は、「この数字は、主要なニュースネットワークでのニュースキャスターとの座談会形式のインタビューのリーチ数を上回っている」と話している。
ローガンは、2024年11月5日にX(旧Twitter)の投稿で、トランプを支持するイーロン・マスク(Elon Musk)をゲストに招いた番組を配信した。彼は主流メディアによる言論の自由の抑圧を嘆きながら、「マスクはトランプを支持する最も説得力のある主張をした」と語り、トランプへの支持を明らかにした。その動画は4700万回再生されている。
一方、カマラ・ハリスは、アレックス・クーパー(Alex Cooper)のポッドキャスト「コール・ハー・ダディ(Call Her Daddy)」に出演した。彼女の選挙組織は、ハリスの性格やイメージをユニークかつ親しみやく表現した「Kamala IS brat(わがままな子ども)」などのTikTokやインスタグラム上のミームやトレンドを積極的に取り入れていた。
アラバマ大学(University of Alabama)のジャーナリズム・クリエイティブメディア学部のブランドン・ハリス(Brandon Harris)教授は、ポッドキャストやトゥイッチ(Twitch)のようなプラットフォームには、「参加者がリアルタイムで直接的にやり取りを行っている」感覚があり、それが信頼性を与えているとBusiness Insiderに語った。
「他の多くのメディアの形式よりも、はるかに充実した会話が見られる。特に、通常は非常に厳しく管理されたメディア環境に置かれている政治家にとってはその違いが顕著だ」とハリス教授は語っている。
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トランプとハリスの選挙運動は、かつてないほどにメディアが多様化した環境を反映していた。
ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)の2023年9月の調査では、アメリカの成人の14%が、ティックトックから定期的にニュースを入手していると回答し、2020年の3%から上昇していた。
18歳から29歳に関しては、2020年の9%から2023年には32%に跳ね上がっている。
一方、エジソン・リサーチ(Edison Research)のインフィニット・ダイヤル・レポート(Infinite Dial Report)によると、2024年1月に12歳から34歳までのアメリカ人の59%がポッドキャストを聴いており、前年の2023年より4%増加している。
主流メディアがティックトックなどのアプリで視聴者を増やす一方で、若者は依然としてインフルエンサーや従来とは違うメディアのアカウントからニュースを入手する傾向があるという。
こうしたアカウントの多くは選挙期間中に自信に満ちた解説を提供し楽しませてくれてたが、一部の主流メディアはその候補者を支持するかどうかを巡って苦悩しており、ジャーナリズムの誠実性や所有権をめぐる論争を巻き起こしている。
オルタナティブメディアのリスク
ポッドキャストやストリームへ出演することは、テレビ討論のような従来の主要メディアへの出演するよりも、有権者にトランプに対する「親近感」を抱かせることとなった。つまり、トランプが聴衆をよく知っていたことが有利に働いたのだ。
だがオルタナティブ(代替)メディアの台頭に伴い、視聴者がフィルターバブルに陥り、その考えがより過激になるリスクををはらんでいる。またフェイクニュースや党派的な論評が増加する危険性もある。
Z世代に特化したメディア企業、ザ・ニュース・ムーブメント(The News Movement)のコンテンツ担当のシニアバイスプレジデント、ジェシカ・コーエン(Jessica Coen)は、「代替メディアが台頭すると、討論会の回数が減り、反論するような有能なジャーナリストとの重要なインタビューが減ることになる」と話す。
「これは、社会全体に悪影響を与える可能性がある」
デジタルメディア文化の研究者であるジェス・ラウチバーグ(Jess Rauchberg)は、このような方法で支持を呼び掛けることにはマイナスの面もあるという。
「このことは、アメリカあるいは世界のメディアリテラシーにおいて何を意味するのかと考えると、少し不安になる」と彼女は言う。
「我々はジャーナリストとしての訓練を受けていない、あるいは政治的なバックグラウンドを持たない(YouTuberやインフルエンサーなどの)クリエイターに頼っているのだ」
アキレスPR(Achilles PR)の創業者であるダグ・エルドリッジ(Doug Eldridge)は、「従来のメディアは、今回の選挙を機に次の一手を見直すだろう」と、Business Insiderに話す。
「評判は築くことが最も難しいが、壊すことは最も簡単だ」
「台本があり、編集された3分間のインタビューの時代は終わった。今後は、長時間で編集されていない3時間続く話の方が主流になるだろう」と同氏は付け加えた。
「恐竜と同じように、旧来のメディアは適応するか絶滅するかのどちらかだ」
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