試合が始まった。最初の20分くらいまでは、FC東京が激しいプレスをかけ、主導権を握っているように見えた。アントラーズはじっくり様子を見ながら、む
しろ相手にボールを持たせて守備的な戦い方をしていた。岳の動きはとても良く、体が切れているのがわかった。風音はときおり降りかかる雪を手で払いな
がら、岳が必死で走り回るのをじっと眼で追っていた。
またピッチに雪が降り始め、純白のピッチに雪の時使うオレンジのボールがピンポン玉のように動き、何かの生き物のように直線をジグザグに動いていく
のを、風音は美しいと思った。長いパス、短いパス、あるいは素早いカットによる方向転換、ボールのスピードの変化と運動は、白いキャンバスに描かれる
見事な抽象画のようでもあり、揺れ動く時間を持続させながら進んでいく、一つの音楽のようでもあった。
後半、30分過ぎに、敵のパスをカットした昌子が、小笠原に素早いパスを出し、そのパスを受けた岳が右サイドから20メートルくらいドリブルして、思い
切り右足でシュートした。ボールは一直線に凄い速さでゴールに飛んでいって、クロスバーを直撃した。キーンという金属的な音がスタジアムに鳴り響いた。
その瞬間、風音の視界の中の風景は、透明な青一色に変化した。雪も真っ白なピッチも、選手も観客も、そして自分自身の身体まで真っ青に染め上げられ
て、透き通った青一色になった。
風音は共感覚を持っていた。ある特定の音や数字、あるいは文字に色彩が伴って知覚されるのだ。岳が打った強烈なシュートのクロスバーの直撃音
は、今まで感じたことのないような青の知覚を風音にもたらした。「ああ、青い、すべてが青い!この青は下北半島の青空の青?いや、恐山のカルデラ湖
、宇曾利湖の透明な青に一番近いな。ああ、この青は宇宙の青だ。風音は成層圏の上に出たような気分、そう岳といっしょに成層圏から大地を見下ろし
ている。ここにはすべてある!神様が隣に立っている。星屑がばらばらと降ってくる。天の川の流れが聞こえる・・・・・」。
高校生だった頃、風音は一度だけ、似たような体験をしたことがあった。合唱部だった風音には岳意外にもう一人気になっている男の子がいた。一年
先輩でバリトンの大樹だった。二年の夏休み、うだるような暑い日に練習していたのが、「海はなかった」という曲だった。風音はこの曲が大好きだった。
歌いながら何度か泣いたことがあった。
「さびれた入り江で白い羽を見つけた かげろうにかざして渚を走る 夏の旅人の髪飾り どの風待てば飛べるだろうか?」
この曲を歌うと、風音の脳裏には下北半島の砂浜で岳と走った思い出がよみがえった。どの風待てば飛べる?どんな風が私を飛ばしてくれるのだろ
う?どんな新しい風がどんな、苦い風が、どんな希望に満ちた風が、どんな惨めな風が?風音にはこの部分を歌うと、胸の奥底から何かがこみ上げてく
るのを抑えることができず、ひとりでに涙が溢れてくるのだった。
本当は、福島県立安積女子高校の演奏を紹介したかったのですが、You tubeに埋め込むのが不可になっていました。どうか安積女子高校の繊細
で透明なハーモニーでお聞きください。
https://www.youtube.com/watch?v=e6ry4A8IKDw
アジアカップはまだ盛り上がりませんね。12日の初戦に限っては私はパレスチナを応援します。もちろん日本が勝つでしょうが、イスラエルの占領下
でサッカーをやることがどんなに大変なのか?パレスチナの人民には好きな所に移動する自由もないのです。イスラエルがパレスチナに対してやってい
ることは完全にジェノサイドであり、ナチスのホロコーストの再現です。いかにパレスチナの日常が異常で非日常になっているのか?日本代表の選手は
ほとんど知らないでしょう。昨年夏のガザの空爆は悲劇でした。そういう意味で、パレスチナのサッカー選手と一緒にピッチに立てることは大きな意味があ
ります。そのことを忘れてはいけません。試合で圧勝してもパレスチナの選手への思いやりを忘れないことです。
アジアで戦うならまず相手国がどういう状況でサッカーをしているのかある程度は知っておくことは、サッカー選手というより、人間としての義務なので
はないでしょうか?アントラーズの選手は下の動画を見て、全員感想文を提出すること。それくらいしないと世界で尊敬されるような本当の一流の選手に
はなれませんよ!特に代表に選ばれている、柴崎、昌子、植田はしっかり見ること。これは幻想ではなく、恐ろしい現実です。
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