ダイブツマン最終回

2012年12月30日 | ショートショート



作務を辞し、安念は叉手当胸にて庫裏へと向かった。庫裏の陰、時同じく掛塔する同夏、談念は待っていた。
互いに一瞥合掌、剃頭を低頭。眉目秀麗なる安念、皆を惹きつけてやまぬのはうわべだけではない。
「安念先輩、僕は人間じゃないんだ。ダイブツマンなんだ。たまげただろう?」
「うぅん、談念が人間だろうと人間じゃなかろうと、談念は談念だもの」
「ありがとう安念、明けの明星が輝く頃、天竺にひとつの光が旅立つ。それが僕だ」
「待って、談念、行かないで!」
「新宿がピンチだ!大魔獣シックとハックが大槌振るって都庁舎ビルでダルマ落とししてるんだ!」
「行かないで、談念。新宿アルタ前はもう焼け野原。それに」
「それに?」
「規定によって、このお話はあと五百字しかないの」
「そんな・・・五百字で大魔獣とくんずほずれつの大格闘、感動のエンディング、天竺へ旅立つ・・・書き手の筆力では不可能だ」
「それが文章塾の掟、八百字超えは許されないの」
「じゃあ、じゃあ、次回文章塾で最終回の続きをやればいい」
「だめなの、談念、今回で文章塾は最終回なの」
「そんな殺生な~そうだ、この最終回の続きを新文章塾でやろう。格闘シーンから八百字ならなんとかなるぞ!このままでは破壊し尽くされてしまう!新宿が!東京が!日本が!いや世界が!世界を救うためにいつの日か必ず文章塾再開を希望する!!このままじゃ何の恩返しもできてない」
「談念!文章塾!あなたは絶対に帰って来てくれる!私のため、みんなのために、必ず!」
談念は結跏趺坐を組み、施無畏与願印を結んだ。
仏説摩訶般若波羅蜜多心経~
般若心経を唱えると、全身を光が覆う。見る見る巨大化、盧遮那仏と化す。
鼻穴をくぐれそうな巨躯、ダイブツマンである。
徐に立ち上がる。見上げる安念。陽射しを浴びた金色の雄姿があまりにも眩しい。
ダイブツマンは安念を目に焼き付け、ひとつ頷く。
デュワッの掛け声で飛翔、新宿へと向かった。
(つづく)



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2 コメント

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そこはかとない寂しさ (ヴァッキーノ)
2012-12-30 17:25:46
これ、もしかして
文章塾の最終回のときに矢菱さんが
書かれたお話し、そのまんまじゃないですかあ?!
いや、なんか読んだことあるって思って。
ボクはなんてコメントしたんだろう?
あ、そうか、矢菱さんだって知らないでコメントしてるんですよね。
800文字って、こうして見ると、けっこう長いもんですね。

それにしても、なんで矢菱さんがこのお話しを
今、ここで再度持ってきたかってことが不思議です。

まさか、ウルトラマンセブン45周年記念だからって
わけでもないですよね?
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ヴァッキーノさんへ (矢菱虎犇)
2012-12-31 01:19:36
そのとおりです。
文章塾で最後に書いたダイブツマンを何を今さらのアップです。
理由は、今年自分で勝手に取り組んできた、一年365日(2月29日を含めれば366日)分のショートショートを揃えるぞ企画の一環なんです。
4月9日が『大仏の日』なもので・・・。大仏のショートショートを思いつかなかったので、昔書いたコレを穴埋めしたわけです。・・・それなりの思い入れも込めて・・・。
ちなみに、366日ショートショートの一覧へのバナーがブログの左に29日からできてるの、気がつきました?
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