プレＳＥ、「少額訴訟」 第六章 その１３

憂鬱な三連休が過ぎて、火曜日、片山が御厨の席に報告に来た。

「部長。
　諫元さんから先ほど連絡が入りまして、
　局内での手続きに入ったそうです。
　少し時間が掛かるので、暫くは細かい点で
　いろいろ教えて欲しいそうです。」

顧客内での動きは順調に進展しているようだ。
御厨は安堵の表情を見せた。

「そうか。それで、説明資料の根拠に数字が欲しかったんだろう。」

「部長。質問が来たらまたお願いします。」

御厨に仕切ってもらうのは当然のこととして頼む片山に、
返ってきた言葉は意外なものだった。

「ん。俺はもういいよ。細かいところは任す。」

「えっ。」

一瞬、片山は耳を疑った。
返事に窮して固まる片山に、御厨は言葉を続けた。

「この件は、富田に任せる。
　先週から入っている農水省関連の仕事の方がちょっと大変でさ。
　まあ、要所で確認はさせてもらうけど。
　本部間でうまく行かないようなときに調整させてもらうから、
　それでいいでしょ。」

片山はまだ合点がいかない。
これから追い込みだと言うのに、ここで御厨に逃げられてはたまらない。、

「そんなあ。尾藤課長、何とか言ってくださいよ。」

片山は、尾藤に助け船を要求したが、尾藤の言葉はさらに片山を驚かせた。

「片山、この件は暫くはお前がまとめろ。
　農水の件は御厨部長に俺が頼んだんだ。
　取っ掛かり、ちょっと力入れてもらうようにな。
　犬塚さんの案件なんだ。」

犬塚は農水省のＯＢで、日元アイシスの技術顧問だった。

今回の案件も犬塚の力量で引っ張り込んできたものだった。

しかし、今年度の予算に計上されているにもかかわらず、
実際の展開はまったく進んでいなかった。

予算書の事業計画に書かれた内容は一見もっともらしかったが、
具体的な記述は何もなかった。

具体的な資料として農水省の担当官からから見せられたのは
野菜流通課の課長が書いた一枚のメモだけだった。

それはおそらく、事業計画を立案する際に、課長が係長や担当官を前にして、
コピー用紙にささっと、こんなイメージのものだよ、
とでも言いながら描いたのではないか。

その、まるでいたずら書きのようなメモ書きから、事業計画書を起こし、
財務当局に説明した担当者の力量は驚きに値するが、
まさしく「こんなイメージ」のものだった。

これじゃ具体的なものはないに等しい。

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