みちのくの放浪子

九州人の東北紀行

紀元節

2017年02月11日 | 俳句日記

 さわやかに晴れ渡りましたので、紀元節にちなみ「日の丸弁当」を持って川へいきますと、

よほど心がけが悪いのでしょうかね、一陣の風がザッと吹いたかと思うとたちまちの吹雪。

慌ててアイ達にヘリコプター・マネーよろしく餌を撒き散らし、とっとと引き上げました。

 

 ところがですよ、帰り着いて冷えた体を風呂で温めて上がったと思いきや、後光のような

日差しがベランダから射し入るじゃありませんか。見上げる空はくだんの雪雲のかけらもなく、

ポカリと浮いた積雲が羊のように東に流れているだけ。

 身の不運を嘆くよりも、目出度い紀元節の空が晴れたことに感謝するほうがご利益がある

だろうってんで、そうすることにしました。

 

 お江戸の空も西国の風雪はよそにして、いい心もちに晴れております。

 極楽とんぼのお二人さんはてぇと、旗日であることをいいことに長屋の木戸口にある陽溜りの

中で差しつ差されつバンコ将棋に夢中になっております。

 

 「バンコ」ってぇのはオランダ人が持ち込んだ長椅子のことでしてね。ヨーロッパではこれに

座ってユダヤ人が金貸しをやっていた、そこから後世の「バンク」、つまり銀行の名が付いたって

話です。カステーラなんてぇのもそのころ伝わって来たってぇ言いますから、昔から日本と言う

ところは国際化されていたんですねぇ。バンコもカステーラも今に残るオランダ語なんですって。

 

 もちろん、このお二人はカステーラなんて代物は口にしたこともありません。それどころか

当時の砂糖なんてぇものはとんでもなく高価なもので、めったに庶民の口にははいらないもの

だったそうですな。

 

 よく時代劇なんぞの峠の茶屋なんかで、

「さ~てと、ばあさんお代はここへ置いとくよ。うめぇぼた餅だったぜ」

な~んて言いながら、股旅者が爪楊枝かなんか咥えながら街道へ踏み出すなんてぇ場面が

ありますが、あんなのはウソなんだそうですな。そんな片田舎の茶屋あたりでぼた餅なんぞ

作れるわけがない、作ったとしてもとんでもなく高いもので店に出す訳がないと歴史家さんは

言っております。

 

「おいおい、そこちょっと待ってくれよ」

「待ったなし。約束したじゃぁないか、もう待てねぇよ」

「いいじゃねえか、俺とおまえの仲だろォ」

「いいや今度という今度は待てねぇ」

「頼むからよ」

 

 二人が待った、待てねえ、と言い合っているところに横町のご隠居さんが通りかかります。

「いいねぇ、二人でへぼ将棋かい。少し寒かぁないかい?」

「いえね、お天とうさんが射している間はいい心もちでさぁ。ところでご隠居、『紀元節』てぇ

のはなんです?」

「おや、そんなことも知らずに生きてきたのかい、『紀元節』てぇのはね・・・」

 

 落語の世界なんてぇものはいい加減なもので「紀元節」がこの時代にあったのかどうか

なんてぇのは、いささかも頓着しないのがいいところで、時代考証もへったくれもありません。

噺が面白くって聴いた後に、お客様の記憶のどこかに何かが残ればお代が戴けるってぇ

代物ですのでどうぞご勘弁くださってお読みください。

 

「『紀元節』ってえのは、神代(かみよ)の時代にこの日本が始まったとされる日だ。でだな、

なんにでも始まりがなければ締りがなくていけない。お前さん達の歳でもそうだろう、互いの

歳が知れるから順番が決まったり、いい歳をしてなどと人としての為すべき基準との比較が

見えて来るようになる。メリケンでもエゲレスでも国の始まりを決めて、それから何年と数えて

よくやっただの、隣のお国と比べて遅れてる、なんてその先を考えるのさ」

 

「なるほどね、で、うちらの国は何歳ぐらいなんです?」

「そうだわな、わたしもよくは知らないが、なんでも二千六百年ぐらいにはなるらしいよ」

「ふえ~、そんなに古いんですかい。そりゃたいしたジジイですね」

「そんなことを言うもんじゃないよハつぁん、それだけ神仏に守られてきたということだよ」

 

「うちらの国よりも古い国はあるんですかい?」

「あるにはあるらしいが、国の名前が残って来ただけで中身は何度も変わっているという話だ」

「たとえばどこです?」

「隣の中国は、十八代あまりも王朝が変わっているが、その都度国の名も民族も変わっていると

歴史の本には書いてある」

 

「じゃあ、うちらの国はてぇした国なんですね」

「そう、たいした国だよ、誇れる国だな。有難いことだ」

「そうですね、威張っていられるわけだ」

「熊さん、それがいけないねぇ。古株だからこそ謙虚でなきゃ、やっかみばかりが強くなる。

すると国は亡びるんだよ。だから、どことでも仲よくしなくちゃならないなぁ」

「そういうもんですかねぇ」

 

「そうだよ、へぼ将棋も仲よくしなければならないと言えるな」

「それがこのアホは待ってくれねぇんですよ」

「ご隠居さん、このバカは四度も五度も待ったをするんですぜ」

「八つぁん、そりゃいけないね、今日は紀元節だ。待たされる方の<機嫌>も三度が<節>目だ」

   =お後がよろしいようで~=    

 

      < 凛とした 歴史ことほげ 紀元節 >  放浪子

 

二月十一日(土) 晴れ 雪 晴れ

          晴れ晴れと川へ向かうが突然の吹雪

          風呂の後資料整理

          夕刻、明日に備え灯油買う

 

 

 

 

 


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